溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。元BIG4パートナー。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

原油安が企業業績にもたらす影響 ~たな卸資産評価損~ 【JXホールディングスの例】

http://www.nikkei.com/article/DGXKASGD26H8G_X20C15A1MM8000/

 

日経朝刊1/28/2015より

原油価格の急落が企業業績に大きな影響を与えることを報じる記事。

『13年末に100ドル弱だった原油価格は現在は45ドル台まで下がった。石油元売り各社は70日分の在庫備蓄が義務付けられており、原油が安くなると評価損が発生する。東燃ゼネラルは14年12月期に1000億円弱の評価損が発生し800億円程度の営業赤字になったとみられる。前の期は522億円の営業黒字だった。

 原油価格が1バレル50ドル前後で推移すれば出光興産は1000億円規模の評価損が発生し、コスモ石油も数百億円の評価損が発生する。15年3月期の営業利益は大幅な減益か赤字になる見通しだ。』

 

原油を販売する会社にとっては原油安→販売価格の下落→利益にマイナス影響

原油を使用する会社にとっては原油安→製造価額の下落→利益にプラス影響

 

となる。

 

今回は利益にマイナス影響の石油元売り大手、JXホールディングスを例にとる。

JXホールディングスにとっては、原油安が3,500億円の利益マイナス影響があると報じている。

 

以前、JXホールディングスについては原油価格の変動が業績に与える影響に関しての記事を書いた。

 

在庫評価益!? JXホールディングス - 溝口公認会計士事務所ブログ

 

 

この場合の在庫評価損益は、仮に原油価格の変動がなかった場合との比較、言わば機会利益的であるが、今回の(たな卸資産)評価損は実際に企業業績にインパクトを与える。

現在の会計ルールでは、原油に限らずたな卸資産は一旦は、購入した金額でB/Sに表示されるが、その後決算期ごとに時価と比較して時価を下回る場合には、その差額をたな卸資産評価損として(通常は)売上原価に計上する必要がある。なお、時価が購入価額を上回っている場合は購入価額のまま据え置く。

例えば、購入価額100のたな卸資産の決算時の時価が70の場合、評価損30(=100-70)となる。

JXホールディングスのように多くの原油在庫を抱える会社では、原油安になると評価損が3,500億円に上ることになる。

 

ここで、同社の有価証券報告書でたな卸資産の評価基準及び評価方法を確認すると、 

 

4.会計処理基準に関する事項

(1)重要な資産の評価基準及び評価方法

①たな卸資産

主として総平均法による原価法(貸借対照表価額は収益性の低下に基づく簿価切下げの方法により算定)を採用しています。

 

下線を付した個所が、帳簿価額が時価を下回った場合は評価損を計上する、ということを示している。

ところで、原油価格の変動は結構頻繁にあるのではないか?ということは原油を扱うこと自体、原油価格の変動による業績へのインパクトのリスクが避けられないのではないか?と感じる方も少なくないのではないか。

有価証券報告書には、『リスク情報』として会社の事業環境や事業特性に起因する企業業績に影響を与える可能性(リスク)についても記載がある。

 

同社の有価証券報告書事業の状況の『事業等のリスク』とういうセクションには、

 

⑫たな卸資産の収益性の低下による簿価切下げに関するリスク

当社グループは、多額のたな卸資産を所有しており、原油、石油製品、レアメタルの価格下落等により、たな卸資産の期末における正味売却価額が帳簿価額よりも低下したときには、収益性が低下しているとみて、期末帳簿価額を正味売却価額まで切下げて売上原価等に計上することとなるため、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を与える可能性があります。

 

と原油価格の変動が企業業績に影響を及ぼす可能性について言及している。

有価証券報告書には企業を知る上での有用な情報が多々含まれているので、自社あるいは興味のある会社の有価証券報告書を検索(EDINET)して眺めてみてはいかがだろうか。

 

たな卸資産の評価損の話に戻る。要は、仕入れ値と今の売値の比較だ。もし、今全部の在庫をこの売値で売ったらこれだけ損が出る、ということだ。その損失を実際に販売する前に決算に反映させるということだ。そういえば、かつてある上場会社の子会社の社長に評価損の説明に行った際、『闘わずして負けを認めろ言うんですか!』とえらい剣幕で怒られたことを思い出す(笑)