のれん償却の賛否
http://www.nikkei.com/paper/article/?ng=DGKKZO92693670Q5A011C1DTA000
不定期に書いているIFRS関連情報。東証によると9/1時点で国際会計基準を適用済みの上場企業は68社、適用を決定、もしくは予定している企業は44社。適用済み企業と合わせると、時価総額で上場企業全体の24%を占める程度まで増加してきている。
そして、よくよ~く言われることだが、IFRS移行の際の大きな課題として、のれんの会計処理が挙げられる。
『日本基準ではのれんを最大20年で定期償却する。IFRSは償却せず、無形資産として貸借対照表に残る。利益を圧迫しない半面、事業環境が急に悪くなり買収先企業の価値が下がれば減損損失が生じるリスクがある。』
例えば、M&Aによりのれんが30億円発生したとする。
日本の会計基準では、仮に20年で償却するとすると、向こう20年間 1.5億円/年の償却費が発生する。仮に、買収先の業績が売上10億円で営業利益が1億円だとすると、M&Aにより売上は10億円増加するが、営業利益は1億円は増加する一方でのれんの償却費1.5億円が生じるため、差し引きで△5千万円減少することになる。
A社 被買収会社 連結 (単位:億円)
売上 100 売上 10 売上 110
売上原価 60 売上原価 6 売上原価 66
販管費 30 販管費 3 販管費 33+1.5(のれん償却費)
営業利益 10 営業利益 1 営業利益 9.5
上の例でも、のれんの償却費が発生するため、単純に買収した会社の営業利益を足した場合よりも営業利益が少なくなる。こうなると、あの買収は失敗ではなかったのか?という社内外からの評価の声か上がる・・・
それだけ高い値段で買収したのだから、M&Aによるシナジーを発揮するなりしてのれんの償却費を上回る利益を創出して然るべきと思うのだが、残念ながらそういう考えを持つ日本の会社は多くはないようだ・・・
そんな会社にとっては、のれんを償却しないIFRSは好都合と言えるかもしれない。
『変動が激しい資源価格の影響を受けやすい企業は、厳しい現実にさらされている。英豪資源大手のBHPビリトンは15年6月期決算で米シェール開発に絡み28億ドル(約3460億円)の減損損失を計上。日本でも前期に住友商事や丸紅で多額の減損損失が発生した。』
ところが、世の中それほど甘くはない。IFRSでは、のれんは償却しないかわりに毎期の減損の判定手続きが求められ、のれんが毀損(価値が目減った)と判定されると一気に減損損失が計上される。先ほどの例を使うと、のれん30億円は定期償却されないが、仮に5年後にのれんの価値が0と判定された場合、その時点で30億円の減損損失がP/Lにヒットすることなる。毎年の営業利益が11億円程度なので、一気に営業赤字19億円となる(IFRSでは減損損失は営業費用)。
また、それ以外にも・・・
『16年初めをメドに、米たばこ大手レイノルズ・アメリカンのブランド「ナチュラル・アメリカン・スピリット」の米国外での事業を買収する日本たばこ産業(JT)。英たばこ大手ガラハーなど過去の買収で積み上がったのれんは6月末時点で約1兆5000億円と総資産の3割、自己資本の6割に達する。
リスク管理を徹底するため、JTは会計コンサルティング会社と助言契約を結び、毎期のれんの価値を評価する態勢を敷く。見浪直博執行役員は「のれんの定期償却がない分、経営陣は減損リスクと向き合わなければならない」と話す。』
『資源関連の投資案件が多い三井物産では減損が必要かどうか四半期に一度、チェックをかけている。移行前には約600ページにも及ぶ会計マニュアルを作り、国内外の拠点と擦り合わせた。』
のれんの償却負担は回避できて見かけ上のP/Lの数字は良く見えるとしても、これだけの管理コストやコンサルティングフィーの負担が必要になる。しかも、のれんとは違って新たにキャッシュ・アウトが必要な費用だ。
のれんの償却/非償却、果たしてどっちが会社にとって得なのだろうか?