溝口公認会計士事務所ブログ

京都在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。会計監査、内部監査代行、内部統制の構築・改善業務、IPO支援業務、原価計算制度構築・改善業務、企業価値算定業務等のコンサルティング業務を中心に活動しています。また、グロービス経営大学院大学でアカウンティングとファイナンスの講師活動も行っています。日頃の業務の中で気づいたことをブログに書いていきます。【保有資格】公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、証券アナリスト協会検定会員(CMA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人

超特盛は『お得』なのか? 【吉野家の例】

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47146060Z00C19A7TJ2000/

 

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(写真は7/10付日経朝刊から拝借) 

 

ちょっとした小ネタを(笑)

 

吉野家ホールディングスが9日発表した2019年3~5月期の連結決算は、最終損益が10億円の黒字(前年同期は3億8800万円の赤字)だった。牛丼店「吉野家」で牛丼の新サイズ「超特盛がヒット。既存店売上高が好調で、人件費や材料費などの高騰を吸収した。』

 

超特盛のヒットにより吉野家が前年同期の赤字から一転、黒字10億とのこと。

競争の熾烈を極める外食産業にあってもまだまだ損益改善の余地はあるものだなあ、と思いつつも、職業柄ついつい、損益改善要因が気になる(笑)

まず、気になったのは、

販売増加が単価要因なのか、客数要因なのか、

という点。

 

売上=客単価*客数

だ。

 

『新規メニューでは5月に発売した「ライザップ牛サラダ」も堅調だった。うどん店「はなまるうどん」との共通割引クーポンなどの販売促進策も集客に寄与した。3~5月期の既存店売上高は6.1%増加した。客数は0.3%増で、客単価は5.8%増と大きく伸びた。』

 

客単価の上昇が主要因のようだ。

 

そして、

客単価=商品単価*注文数

なので、更に、販売増の要因が商品単価の上昇なのか、

それとも注文数の増加にあったのかについては、

 

『超特盛は税込み価格で並盛より400円高い780円だが、発売後1カ月で100万食を超え、その後も好調を維持しているという。』

 

商品単価の上昇、つまり、超特盛の販売増加が奏功したということだろう。

 ちなみに、すかいらーくなどのファミレスでは、客単価を上げるために、+1品を稼ぐということで客当たり注文数を増やすべくデザート開発に注力していると聞く。

一口に販売増加といっても、商品単価、注文数、客数、それぞれ業態によって取り組みやすさに違いがあることが分かる。

 

次に、利益面を見てみる。

『営業損益は10億円の黒字(前年同期は1億7800万円の赤字)だった。米の価格や人件費が上昇したが、増収効果で補った。売上高に占める原価の割合は0.9ポイント下がり、人件費や広告費を含む販管費の割合も1.4ポイント下がった。』

 

最終利益では、記事のとおりだが、吉野家HD公表の2020年2月期の1Qの四半期報告書によれば、本業の収益力の営業利益までの推移は以下の通り。

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吉野屋HDの四半期報告書の情報から筆者が作成

 

売上総利益増加要因分析】

                               (単位:百万円)

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吉野屋HDの四半期報告書の情報から筆者が作成

 

四半期ベースでは、対前年同期比で売上総利益率が約1%改善している。1%というとさほど大きくないと思うかもしれないが、利益率1%の改善効果を金額で表すと約5億円だ。約11億円の営業利益の増加の内、ざっと半分が売上総利益率の改善による。要因の筆頭に挙げられるのが、超特盛ということだろう。(売上総利益の増収効果にも、超特盛などの高単価商品の販売増加による影響額も含まれる)

なお、このデータは連結決算数値なので、このうち吉野家は約半分のボリュームを占める(他は、はなまる、アークミール、京樽など)。『吉野家』に限定した分析であれば、セグメント情報を確認する必要がある。

 

要するに、

当期1Qの営業利益の改善は、材料等のコストアップはあったものの超特盛を中心とした商品単価の増加による売上総利益の増加(約24億円)が、販管費の増加(約12億円)を吸収し余りあった

と言うことだろう。

 

超特盛のような高単価商品が売上総利益に好影響を与えるのは感覚的にも理解できると思うが、

こんな記事を発見した(笑)

https://news.nicovideo.jp/watch/nw5181670

牛肉に関しては大盛の2倍(推計220g)という触れ込みなので、そうなっていないのは少し残念ではあるが、それはともかく、

仮に牛肉の量が並盛の2倍(注)としても、ご飯、玉ねぎ、タレ、全ての材料が並盛の2倍ということではないだろう。

 

(注)大盛の2倍であるが、ここでは販売価格がザっと2倍である並盛との比較のため

 

要は、並盛と比較すると、

 

商品単価増加割合(2倍超)>原価増加割合(2倍未満)

 

当然ながら、利益率は改善することになる。

 

ということは・・・

 

超特盛は、

吉野家にとって『超得』盛!!

 

会社の利益が改善するということは、利用者側から見ると割高なものを買わされているという見方もできる。

もっとも、超特盛を食べることでプライスレスな満足感が得られるのであれば利用者にとってもお得ということではある。

 

ちなみに、飲み放題メニューでは原価率の高そうなものを中心にオーダーしてしまうのも職業病(笑)

 

 

 

 

 

 

1株当たり純資産(BPS)の紛らわしさ    【1株当たり情報】

先日、1株当たり純資産の計算式

について改めて考える機会があった。

 

改めて考えると、確かに名前と中身がミスマッチというか、

紛らわしさを感じた。

 

【1株当たり純資産の計算式】

 

1株当たり純資産(BPS=Book Value per Share)というと以下の計算式をイメージする人が多いのでないだろうか?

 

1株当たり純資産(BPS

=純資産/発行済株式数

 

名称から普通はそうイメージするだろうし、また、ざっくりと1株当たり純資産の意味を理解するには十分だ。

実際、そんな説明をしている書籍やインターネット記事なども見られる。

 

ところが、実際には・・・

 

1株当たり純資産(BPS

普通株主に係る期末の純資産/期末の普通発行済株式数ー期末の普通株式の自己株式数

 

なんだか面倒くさそうだ・・・

(ということもあり、先ほどの簡略的な表現をしているのかも)

 

【何故、普通株式?】 

まず、目につくのは普通株式という単語だろう。

何故、わざわざ『普通』と断りを入れるのか?

答えは、普通じゃない株式があるかもしれないからだ。

会社によっては優先株式、劣後株式のような普通株式とは性格の異なる株式を発行しているケースがある。

このような株式を種類株式と言うが、種類株式には会社の資金調達の多様化のニーズに応える機能がある。

例えば、会社が資金調達はしたいが経営に口を出して欲しくないという場合、経営には参加できない代わりに配当金は普通株主よりも優先する配当優先株を発行するといった具合だ。

 

つまり、1株当たりといっても株式の性格が必ずしも一致しないため、一括りに扱うわけにはいかず、株式の性格に応じた純資産を計算する必要がある。

 

では、何故、『普通株式』1株当たりの純資産なのか?

適用指針には、『1株当たり純資産額の算定及び開示の目的は、普通株に関する企業の財政状態を示すことにあると考えられるため』とある。

こういうと身もふたもないのだが、理由としては、通常は普通株式の発行数が圧倒的に多く、株主にとって最も関心が高いであろう普通株式を対象としたということだろう。また、1株当たり純資産(BPS)は、株価の割高、割安の水準を示す指標であるPBR(Price Book‐value Ratio)の分母となる。株価は普通株式の株価であるから、両者の対応関係から1株当たり純資産は普通株式を対象としているとも言える。

 

PBR(株価純資産倍率)

=株価/1株当たり純資産(BPS

 

しかし、普通株式が重視されているとは言え、普通株式以外の株式が殊更に軽視されている訳ではない。適用指針では、普通株式以外の株式に係る1株当たり純資産額に重要性が認められる場合には同様に開示対象とするとしている。

いわゆる、 2 種方式(ツークラス法)と呼ばれる方式だ。

 

詳細は以下を参照☟
企業会計基準適用指針第4号
1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 』
https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/shihanki-s_5.pdf

 

【何故、自己株式を控除?】

次に、自己株式を発行済株式数から控除している点。

1株当たり純資産の開示の趣旨は、普通株式1株当たりの期末時点での財産を表すことだ。自己株式は、実質的に資本の払い戻しと解釈されてる(消却はされていないため資本から直接控除はされていない)。そして、自己株式には、配当請求権残余財産分配請求権もない。つまり、共益権も自益権もない。

期末時点での純資産の分け前に預かれない株式のため、控除される。

 

【何故、純資産全額が対象でない?】

最後に、分子の純資産の意味だ。

純資産には、実は普通株主に帰属しない資産(*)も含まれている。

例えば、新株予約権、非支配株主持分(連結のみ)だ。

  

新株予約権は、そもそも株式は未発行

非支配株主持分は親会社の株主以外の株主の持ち分だ。

 

(*)他に、優先株式に係る資本金、資本剰余金、当会計期間に係る優先配当、新株式申込証拠金、自己株式申込証拠金など

 

純資産、自己資本、株主資本の違いについては

こちらを参照☟

https://globis.jp/article/5067

 

何故、そんなモノが純資産に含まれているのかと言うと、資本の概念が変化したためだ。ずっと以前は、資本というと株主の持分という定義だった(当時は、B/Sでも”純資産の部”ではなく”資本の部”と表記していた)。

ところが、時価主義が会計へ反映されるにつれて段々と資本の概念が変わり、資産から負債を控除した残りが純資産を表すようになった。そのため、非支配株主持分や新株予約権のように現時点の親会社の株主に帰属しない資産も純資産に含まれることになる。

 

1株当たり純資産の趣旨からは、あくまで対象とすべきは現在の親会社の株主に帰属する財産(1株当たりの)であるから、対象とならない項目は控除することになる。

  

 

なお、この考え方は1株当たり純利益ROE自己資本利益率)にも同様に当てはまる。むしろ、それらと平仄を合わせている。

 

ところで、例えば、ROEの分母は純資産ではなく、自己資本(*)としている。

 

自己資本=純資産ー(非支配株主持分(連結のみ)+新株予約権

 

概念的には、自己資本は1株当たり純資産の分母に一致

する(普通株式のみの場合)。

ROEの場合は、”純資産利益率”とは呼ばず”自己資本利益率”と呼ぶため、受け取る側も分母は≠純資産なのか、と気づきやすい(でも無いか?)。

 

この点、1株当たり純資産としつつも、実は純資産全部が対象でないというのは紛らわしいと言えば、確かに紛らわしい。

 

”1株あたり自己資本”とか、名前の交通整理をしたらいいのに(笑)

 

 

フローとストックの関係 【両者の連続性】

これまでも度々、書こうかなと思いつつも、

今更感に苛まれて書かずにいたが、やはり書いておこう。

 

フローとストックの関係

について

 

そんなこと当然知っているよと言う人は読み飛ばしてもらいたい。

 

個人的には、フローとストックを殊更に勉強した記憶はなく、ごく自然に理解していた。とはいえ、フローとストックは経済学の概念なので、経済学部卒としては学校でそれとなく勉強していたのかもしれない(それも記憶がないが・・・)。

とまあ、そんな具合なので、フローとストックなんて、自然に

誰もが理解していると思っていた。

 

ところが、意外に知らない人が多いようだ。

 

僕の友人も昨年、”フローとストックなんて初めて聞いた”

と言っていた(立派な大人☚本人の名誉のため)。

 

案外、フローとかストックとか考えなくても

日常生活には支障はないらしい(笑)

 

簡単に言えば、

フローは、『流れ』

ストックは、『残高』

だ。

 

もう少し言及すれば、

フローは、一定期間のモノやおカネの流れ

ストックは、一定時点のモノやおカネの残高

ということだ。

 

個人の生活では、

フローは、給料、家賃、食費、保険料等

ストックは、不動産、自動車、住宅ローン等

 だ。

 

フローは流れの量なので、いつの流れ?ということで、期間の設定が必要になる。

また、同様に、ストックについては、いつの残高?と、時点の特定が必要になる。

 

そして、フローとストックには相互に関係がある。

 

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図_フローとストック_1 筆者作成

 

カードに記載されるキャラクター同士を戦わせて勝った方が相手のカードを獲得できるといったカードゲームを考えてみる。

この場合、手持ちのカード10枚からゲームをスタートして、今日の勝敗は4勝2敗で2枚のカードを対戦相手から獲得したとすると、手持ちのカードは12枚になる。

ゲーム開始時点と終了時点のカード10枚、12枚がストックで、今日のカード獲得高2枚がフローだ。

 

カードゲームの例からも分かるように、フローとストックには連続性がある。

 

ストック⇒フロー⇒ストック⇒フロー⇒ストック・・・

 

ストックから始まり、フローの結果がストックに蓄積されていくという連続性だ。

 

この考え方は、会計にもそっくり当てはまる。

 

フローが、損益計算書(P/L)、キャッシュ・フロー計算書

ストックが、貸借対照表(B/S)

だ。

P/Lをフローの代表とすると、P/LとB/Sも同様に相互に関係していることになる。

 

B/S⇒P/L⇒B/S⇒P/L⇒B/S・・・

 

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図_フローとストック_2 筆者作成

 

先の例と同様、

B/Sからスタートし、活動結果(P/L)が活動期間終了時点のB/Sに蓄積される。

 

スタート時点の持ち高(利益剰余金):40+活動結果(当期純利益):20

=活動期間終了時点の持ち高(利益剰余金):60

例えば、2018年度末の利益剰余金に2019年度の当期純利益が加算されて、2019年度末の利益剰余金になる。

注:実際には配当金や積立金などが控除された残額が加算される。

 

会計においては、

P/Lの当期純利益とB/Sの利益剰余金

が連結環となって互い関連している。

 

 

担当しているクラスでは、
当期純利益と利益剰余金をとり違えたり、

B/SとP/Lがどう連続するのか疑問

といった例が少なくない。

単なる勘違いであれば良いのだが、勘定科目がストックを表すものなのかフローを表すものなのかを理解しておけば、およそそのような間違いを起こすことは無いように思う。これもまた、フローとストックの概念の意識が希薄であることの表れだろうか・・・

 

フローとストックの関係は、ビジネスを理解する際も有用だ。

ビジネスにも、フロー型ビジネスとストック型のビジネスがある。

フロー型ビジネス

小売業、卸売業、飲食業、建設業など多くの事業が該当する。

フロー型ビジネスの特徴は、初期投資がさほど大きくない、ビジネスが軌道に乗るまでの期間が短い、ワンショットで大きな利益が期待できるといったメリットがある反面、売上が不安定、売上の度にコストが発生などのデメリットがある。売上、利益を上げるためには、小売業であれば仕入と売上を繰り返す、つまり常に走り続ける必要がある。トータルのコストに占める変動費の割合が大きいビジネスとも言える。

 

一方、

ストック型ビジネス

電力、ガス、通信などのインフラ事業が主に該当する。

ストック型ビジネスの特徴は、通常、初期投資が大きい、ビジネスが軌道に乗るまでの期間が長い(顧客の確保)、一定の顧客を確保できないと永遠に赤字、減収による利益インパクトが大きいといったデメリットはあるものの、一旦、ビジネスを軌道に乗せれば以降安定した収益が期待できる、継続的に発生するコストは少ないので増収による収益性の改善が見込めるといったメリットがある。

GAFAなどのプラットフォーマーが提供するサブスク型ビジネスというとイメージしやすいだろうか。一時に大きな利益を上げることは少ないが継続的な利益が期待できるため、事業計画が立てやすい。新規顧客を獲得し、かつ顧客をいかに繫ぎ止めるかがキーとなるだろう。

トータルコストに占める固定費の割合が大きいビジネスとも言える。

 

以上、フローとストックの関係について簡単に紹介してみた。

 

フローとストックの違いを理解すると、自分自身が日々得る情報の整理が

しやすくなるかも知れない。

 

 

賞味期限間近の返品調整引当金について思う・・・

返品調整引当金の存在はもちろん知ってはいたが、担当企業の業種からかこれまで実務でそれほど関りは無かった。

先日、たまたま返品調整引当金の会計処理を確認して、改めて、その

ユニークさに目を奪われた(笑)

 

返品調整引当金の概要についてはこちらを参照して欲しい。

https://globis.jp/article/7040

 

返品調整引当金は、いわゆる返品権付販売をしている場合が対象となる。

こうした商慣習は、医薬品、出版、音楽(CD等)、化粧品・トイレタリーなどの業界に多く見られる。

返品調整引当金は、一旦は販売したが、将来の返品に備え、返品によって取り消されることになる売上総利益引当金として費用処理する。

この利益を直接の調整対象とする点に当初非常に違和感を感じた・・・

 

以下、ざっと会計処理を示す。

 

【設例】

当期に、商品(購入価額:10,000)を15,000で販売した。

過去の実績等から当期販売分の5%が将来返品されると見積もられる。

当期末に、既販売分(代金は全て未回収)に対して5%の返品調整引当金を計上する。

次期になり、前期販売分の内、2%が返品された。

 

【会計処理】

販売時

借)売掛金 15,000 貸)売上 15,000

 

期末

借)返品調整引当金繰入 250 貸)返品調整引当金 250

 (15,000-10,000)*5%

 

返品時

借)返品調整引当金 100 貸)売掛金 300

  仕入      200

 

一連の会計処理について特徴的な点がいくつかある。

・返品を受けても売上を取り消さない点

引当金の対象は売上総利益という点

・返品在庫を仕入として受け入れる点

 

一見奇妙な気もするが、実はこれらは互いに関連しており、全体としてそれなりに辻褄が合っている。

 

売上は、本来、財やサービスの提供が完了し、その対価の獲得(現金ないしは現金同等物)の要件を満たした時点で計上される。厳密にいえば、商品等を引き渡したとしても返品される可能性が高い場合は、売上は計上できない

例えば、買戻条件付販売委託販売などは商品が得意先の手元に渡っても売上とはならない。

ところが、返品権付販売においては、得意先へ渡った商品の全額が売上となる。これは、得意先に返品権は付与されているものの、過去の実績等から返品されるのは販売した分の一部に過ぎない。したがって、(既に計上された)売上の『大勢に影響はない』。したがって、売上を修正するに及ばすということだろう。

 

この点は、貸倒引当金も同様だ。貸倒引当金は、将来の代金回収が不能と見積もられる部分に対して費用(販管費)を計上するが、売上自体は修正しない。販売取引と代金回収取引は別の取引であり、代金が回収できなくても販売自体は成立しているとの見解もあるが、厳密に言えば、代金が回収できないということは結果として売上の実現要件を満たしていないと言える。

しかし、貸倒引当金も返品調整引当金も、回収不能や返品は売上全体の極わずかであって会社の売上全体に及ぼす影響は軽微であること、また、確定決算主義ではないが、過去の確定した売上高を修正に対する抵抗感もその理由かもしれない。

売上高は修正しない代わりに回収不能や返品による逸失利益を『事前に』処理する、つまり、将来のリスクを利益に反映するということなのだろう。この点は、割賦販売も同様だ。

 

一方で、売掛金棚卸資産のようなB/S項目はそうはいかない。

B/S項目は繰り越されるため、P/Lのようにリフレッシュスタートはできない。

そこで、返品による売掛金の減額や棚卸資産の増加については、

『新しい』取引として認識する。

返品による棚卸資産の増加を仕入とするのはそういうことだろう。

 

かくして、返品時の、

 

借)返品調整引当金 100 貸)売掛金 300

  仕入      200

 

という、まさに真骨頂というべき会計処理会計処理が成立することになる

(というか、帳尻を合わせている)。

 

なお、当期の売上が返品される場合、つまり返品調整引当金が設定されていない場合は、以下のようになる。

 

【設例】

当期中に販売した商品の内600(売上高1,000)が返品された。

 

【会計処理】

売上の返品

借)売上高 1,000 貸)売掛金 1,000

原価の戻し入れ

借)仕入    600 貸)売上原価  600

 

なお、参考に仮に同額が次期以降返品されると見積もられ返品調整引当金が設定される場合は以下となる。

 

【会計処理】 

借)返品調整引当金繰入 400 貸)返品調整引当金 400

 

何と、この場合は売上の取消の会計処理をする。売上取消しも返品調整引当金利益に対する影響は不変だが、売上高の金額が変わる。   

 

返品割合の売上高に対する割合がどの程度までであれば返品調整引当金の対象となるのか(売上の取り消しは不要なのか)の明確な基準はない。出版業界などでは、販売の約4割が返品されるという。こうなると、そもそも売上の認識自体が妥当なのかといぶかってしまう。

 

また、返品のタイミングによって会計処理が異なる。

利益に対する影響は無いといっても、重視されるべき会計情報は利益だけではないだろう。むしろ、売上高の規模の方が会社の信用力を判断する上では一般的に重視されているのではないだろうか?

とすれば、むしろ売上高情報を歪曲させることになりはしないだろうか・・・

 

全くもって、 

売上高を重視しているのか、軽視しているのかよく分からない話

だ。

 

実務上の妥協の産物という運用がされてきたとも思えるが、もともと変な会計処理だったわけである(個人的には、利益を直接調整するのが気色悪かった)。

 

だからという訳ではないが、2021年以降適用される『収益認識に関する会計基準』により返品調整引当金は廃止されることになる。

 

ちなみに、先ほどの設例を使えば、会計処理は以下のようになる。

売上15,000(原価10,000)の内、5%は将来の返品が見込まれる場合、

 

【会計処理】

借)売掛金 15,000 貸)売上高 14,250

            返品負債  750

返品負債:15,000*5%

 

また、原価部分については、

借)売上原価 9,500 貸)商品 10,000

  返品資産  500

返品資産:10,000*5%

 

将来の返品を見積る方法や計算される利益は返品調整引当金の場合と同じと考えてよいが、新会計基準では将来の返品リスクはそもそも売上として計上しない

 

 

『収益認識に関する会計基準』の中には複雑や煩雑な会計処理を要するものもあるが、殊、返品調整引当金に関してはすっきりと分かりやすい会計処理への改正と言えるのではないだろうか。

 

なお、法人税法上は、既に平成30年度税制改正で返品調整引当金は廃止(経過措置はあり)となった。

 

現金預金は運転資本なのか? 【運転資本解説 補足】

前回、運転資本について書いた。

今さら感もあったのだが、意外に多く質問があった。

 

ワードの知名度に反して、意外に理解が難しい概念なのかもしれない。

 

その中でも多かったのが、

 

現金預金は運転資本なのか?

 

というものだ。

 

前回の設例では、設定を簡単にするために現金預金を一切持たずに事業を始めるということにした。そのため、事業に必要な資金は全て借入で賄うことにしたので、運転資本=借入金になった。

 

では、現金預金を保有する場合、現金預金は運転資本に含まれるのだろうか?

 

今回は、運転資本と現金預金の関係について説明してみたい。

 

【設例】

資本金8,000千円を元手に、1月1日より小売業を開業する。

開業に当たり必要な固定資産を4,800千円購入する(現金払い)。

(設定を簡略化するため減価償却は無視する)

当面の月間の売上高は1,000千円(原価率60%)

事業運営に必要な経費(販管費)は300千円(全て現金払い)

上代金の回収は販売後2か月後

仕入代金の支払いは仕入後1ヵ月後

棚卸資産は売上の1.5ヶ月分を保有

 

以上を前提とすると、開業から2か月後の2月末までのB/Sの推移は以下の通り。

 

【B/Sの推移 開業~2月末】

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1月に販売用と在庫用の計2.5ヶ月分を仕入れるため、1月末の買掛金は1,500千円(月次商品原価600千円*2.5ヶ月)となる。一方、棚卸資産は1.5ヶ月分が残るので、900千円となる。売掛金は1か月分の売上高に応じた1,000千円となり、その結果、運転資本をここでは、売掛金棚卸資産-買掛金とすると、1,000+900-1,500=400千円となる。

現金が開業時の3,200千円から2,900千円と300千円減少している。これは、1月度の現金経費支払い300千円によるが、B/Sの動きから見ると、運転資本の増加(300千円)による減少と月次利益による100千円の増加の合計と捉えることが出来る。

 

2月には1月末の買掛金1,500千円を支払うが、新たに1か月分の棚卸資産仕入れるため、2月末の買掛金は600千円となる。棚卸資産は1ヶ月分の販売で減少した分を追加仕入するため1.5ヶ月分のまま900千円となる。売掛金は2月分の売上高1,000千円が増加し2,000千円となり、その結果、運転資本をここでは、売掛金棚卸資産-買掛金とすると、2,000+900-600=2,300千円となる。

現金が1月末の2,900千円から1,100千円と1,800千円減少している。これは、2月度の経費支払い300千円と買掛金の支払い1,500千円によるが、B/Sの動きから見ると、運転資本の増加(1,900千円)による減少と月次利益による100千円の増加の合計と捉えることが出来る。

 

運転資本が増加するとその分現金が減少

するのが分かるだろう。

 

2月末のB/Sを見ると、開業時3,200千円あった現金が1,100千円まで2,100千円減少し、一方、運転資本は2,300千円(*)増加した。

(*)2ヵ月の利益200千円分だけズレる。

 

つまり、

現金が運転資本に投資

されたと考えることができる。

 

 

3月以降、月次売上高、売上原価、経費等の損益項目、また、売掛金棚卸資産、買掛金の期間に変化がないとすると、

以降運転資本には変動はない。

 

実際に、3月~5月末までのB/Sで確認してみよう。

 

【B/Sの推移 3月末~5月末】

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事業規模や取引条件に変化がない(この場合は売上高、仕入高、売掛金棚卸資産、買掛金に変化がないとする)場合、運転資本は2,300千円のまま変動がない。現金は、毎月の利益分だけ増加するが、一旦運転資本に投下された2,300千円はそのまま運転資本へ投資され続けることなる。

 

前回、運転資本を事業野ために棚卸資産等へ投資され、かつ投資され続ける資金と称したのはこの状況を指す。

 

では、現金はどうだろうか?

 

現金は、未だ棚卸資産等の運転資本へは投資されていない

 

では、

5月末の残高1,400千円は固定資産などに自由に使っても良いのだろうか?

 

以下の例を見てみよう。

 

商品の売れ行きが好調で、6月に大口の受注が入ったため、月次の販売計画を一気に3倍(3,000千円)に引き上げることにする。また、これにともない棚卸資産保有量もこれまでの2倍(1,800千円)に引き上げることにする。

 

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5月末の棚卸資産は900千円であったが、6月度に1,800千円(月次売上3,000千円の60%)を販売してなお1,800千円残すためには、2,700千円を6月に仕入れる必要がある。したがって、6月末の買掛金は2,700千円となる。

売掛金は、5月末の残高2,000千円の内1,000千円は6月に回収するが、新たに3,000千円売上により増加するため、4,000千円となる。

その結果、運転資本は3,100千円(4,000+1800-2,700)と5月末の2,300千円から800千円増加する。さきほどと同様に現金の増加(1,400⇒1,500)をB/Sの動きから見ると、運転資本の増加800千円分による減少と月次利益の増加900千円の結果となる。

 

7月には、6月末の買掛金2,700千円が支払われるが、7月分の販売のための仕入(1,800千円)により買掛金は1,800千円となる。売掛金は、4月販売分1,000千円の回収が行われるが、7月販売分3,000千円が増加するため、6,000千円となる。棚卸資産は、1,800千円のまま変動ない。

その結果、運転資本は6,000千円となり、6月末から2,900千円増加する。

現金は̠マイナス500千円となった。

(便宜上マイナスするが、現金ショートにより倒産となるので、実際には、最低でも500千円の借入が必要になる)

なお、6月末からの現金の減少2,000千円は、運転資本の増加要因(-2,900千円)と月次利益(900千円)の合計だ。

 

やはり、

運転資本が増加すると、現金が減少する

現金が運転資本に新たに投資された、ということだ。

 

そして、運転資本の増加=現金の減少ということは、事業の進行によって運転資本の増加が見込まれる場合は、相当する現金を保有する必要がある。

先ほどの例では、5月末では一見1,400千円の余裕資金のように見えたが、状況変化(大口需要で月次売上3倍)により一気に資金ショートとなった。余裕どころか、500千円の資金不足だったことが分かる。

なお、売上高の増加に限らず、売掛金棚卸資産の滞留により運転資本が増加する場合も同様の影響がある。

 

会社の存続のためには、近い将来の運転資本の増加に備えていくらかの現金預金をバッファーとして保有する会社も少なくない。

 

つまり、未だ事業へは投資されていなくても、将来の運転資本への投資のために

実質的に使途が拘束されている現金預金

は運転資本に含める場合がある。

 

上の例を使うと、6月末における運転資本は既に棚卸資産等に投資された3,100千円プラス保有現金1,500千円の4,600千円となる(この時点で500千円の不足を認識していれば、5,100千円となる)。

 

この考え方に即した運転資本の表現方法は以下だ。

 

流動資産ー流動負債(有利子負債を除く)

 

なお、外部から判断するのは難しいが、厳密には現金預金の内、将来の運転資本の増加に備えて保有する以上の部分、つまり実質的な余剰分は運転資本には含めない。

 

なお、実質的な変化はないが、7月末のB/Sのマイナス500千円の現金を500千円の借入を起こしたとすると、現金が0、借入金が500となる。

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この時、流動資産計7,800千円(現金0+売掛金6,000+棚卸資産1,800)、

流動負債2,300千円(買掛金1,800+借入金500)となる。

運転資本=流動資産ー流動負債とすると運転資本は5,500千円と計算されるが、この時点で事業に拘束されている資金(=運転資本)は6,000千円でありギャップが生じる。計算式で流動負債に有利子負債を含めないのはこのためだ。

なお、借入金の残高と運転資本の金額が同じではないこともこの図から分かるだろう。

 

【まとめ】

 

現金預金は運転資本なのか?

 

 

既に事業に投資したかどうかに関わらず、実質的に使途が拘束されている場合は、現金預金も運転資本の一部と捉える。

 

 

 

 

運転資本って買掛金の金額とは違うの? 【運転資本の解説】

令和時代が幕を開けてから早いもので1週間、

最長10連休という長いGWもようやく終わり、

世の中は、通常モードへ気持ちの切り替えをしつつある状況だろうか。

 

令和という新しい時代に対する抱負を新たにした人も多いだろう。 

当事務所ブログも令和に因んだ話題をと、探してみたのだが、見当たらず・・・

結局、やはり基本が大事ということで、令和第1弾のテーマは

 

運転資本

 

を取り上げる。

 

運転資本については、過去にも何度が取り上げてはいるが依然、多くの質問を受ける。

 

運転資本は、事業運営に必要なおカネ、資産が滞留したり事業が成長したりするとおカネが不足する、といった状況については一定の納得感は得られているように思う。

一方で、運転資本の金額については納得感が得にくいようだ。

 

簡単な例を見てほしい。

運転資本の表し方も色々あるが、ここでは売掛金、買掛金、棚卸資産を構成要素とする。


売掛金 50

棚卸資産 150

買掛金 50

とすると、運転資本は150(売掛金50+棚卸資産150-買掛金50)だ。

 

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運転資本はB/Sの勘定科目ではないが、B/Sの勘定科目であれば借入金のイメージでよい。

 

ここで、運転資本150が事業を運営するために必要なおカネであったり、入金までのつなぎ資金で支払のために残しておくべきおカネと説明をすると、

『えっ!?50じゃないんですか?』となる人が結構いる。

 

おそらく、買掛金が50であることが原因だろう。

会社にとって必要なおカネは、買掛金の支払いのために必要な50ではないのか?

ということが言いたいのだと思う。

 

そう言われてみると確かにそう見えなくはない(と気が付いた(笑))。

 

だが、肝心な点は、

B/S(バランスシート)は取引の結果としての現在の状況

を表しているということだ。

 

つまり、運転資本は、『今後』必要になるおカネ、ではなく、

現在まで』必要としたおカネを表す。

 

これを理解するために、まずはものすごく簡単な例を考えてみる。

 

商品を200購入したいのに手元におカネが無いので、200の借入をする。

会計処理①

借)現金 200 貸)借入金 200

 

そして、借入で調達したおカネで商品を仕入れる。

会計処理②

借)商品 200 貸)現金 200

 

①と②の取引を合成すると、

会計処理③

借)商品 200 貸)借入金 200

 

③の会計処理を①と②に分解すると運転資本の理解がしやすくなるのではないだろうか?

借入金=運転資本なので、ここまでの取引を行うのに必要となった運転資本は200となる。

 

では、次の例。

商品200を仕入れる(手元資金は0)。この内50は来月末払い(買掛金)とし、不足額の150を借り入れることにした。

会計処理④

借)現金 150 貸)借入金 150

 

商品を200仕入れた(但し、150を現金払い、50を来月末払い)。

会計処理⑤

借)商品 200 貸)現金  150

           買掛金 50

 

となり、これまでの取引を合成すると、以下。

会計処理⑥

借)商品 200 貸) 買掛金   50

               借入金 150

 

その直後に、商品の内50を50で販売(単純化のため利益0)して、代金は来月末の回収とする。

会計処理⑦

借)売掛金     50 貸)売上         50

  売上原価 50         棚卸資産 50

売上と売上原価はP/Lなので、ここでは脇に置いて、⑥に⑦のB/S部分のみを合成すると、

会計処理⑧

借)売掛金       50 貸)買掛金   50

  棚卸資産 150      借入金 150

 

借入金=運転資本とすると、冒頭の運転資本の図と一致する。

 

ここで、先ほどの疑問を思い出してほしい。

運転資本の金額は、来月の支払いに必要となる買掛金の50だろうか?

確かに来月50の支払いが必要にはなるが、同じタイミングで売掛金50が回収される。回収した50で支払えばよい。

また、商売上、棚卸資産は150は保有しておく必要があるとすると、さらに販売するためには商品を追加仕入する必要がある。同じ回収条件、支払条件で商品仕入、販売というビジネスを繰り返すと、借入金150を維持する必要がある

 

(注)なお、これは運転資本をイメージしやすくするための簡単な例なので、実際の回収や支払いの取引期間や在庫の保有期間によっては、運転資本が常に一定とは限らずタイミングによって若干増減することはある。

 

まさに、

 

事業活動を継続する上で必要になるおカネ=運転資本

 

運転資本は来月の支払いのために必要になるおカネではない。
既に調達したおカネであり、事業継続のためにはキープする必要があるおカネ

ということだ。

 

 

 

 

 

99%減資と100%減資の違い

先日、別のコラムで減資について書いた。

https://globis.jp/article/6974

 

それ以前に、資本金、増資について書いたので、これはもう減資について

書かないと収まりがつかなくなったということもある・・・

 

ところで、

減資、特に減資と株式の関係について、

間違った理解をしている人が結構多いように思う。

 

世間一般に理解しにくい部分のようで、インターネット上もかなり多くの識者が解説を投稿されているが、自分の周りでも未だに同様の質問を受ける。

ということで、今さら感も無くは無いが、

当事務所ブログでも書いておくことにする。

 

典型的な勘違いは、次のような例だ。

 

債務超過に陥っている会社が経営再建に際して累積赤字(繰越欠損金)を減資により補填する場合、資本金を100%減資するのではなく99%減資に留めることにより既存株主の権利を少しだけでも残しておく、というものだ。

日本航空JAL)の経営再建でもこのような意見があった。

 

こういう意見を言う人は、おそらく、株主から99%の株式を取り上げ、1%だけ残すイメージをしていると思う。

 

しかし、減資、特に無償減資、は、帳簿上の資本金の金額を減少させる手続きだ。

そして、資本金の金額を減少させても株式数は不変だ

つまり、減資によって株主の会社に対する権利には一切影響がない。

99%減資は、株主の権利は少しだけどころか、100%残すことになる。

 

(注)非公開会社など特定の株主から株式を買い取るような有償減資で、買い取った株式を消却するような場合は、株主の持ち株比率は変動する。

 

株主の権利には、公益権参政権)と自益権配当請求権など)がある。

株主は持ち株数に応じて会社に対する支配力を有するため、減資したからといって株主の会社に対する支配力、つまり公益権に影響が出ることはない。

また、無償減資では、資本金の金額を繰越欠損金に振り替るが、純資産の金額は変わらない。純資産≒自己資本とすれば、株主の持ち分は資本金だけでなく純資産が対象となるため、資本金が減少しても株主の持ち分は変わらないのである

 

この関係は、

99%だろうが1%だろうが同じだ

 

しかし、100%減資だけは事情が異なる。

99%減資と100%減資、1%の違いだがその意味は全く異なる。

 

100%減資は、簡単に言うと、既存株主の権利をはく奪することだ。そもそも100%減資の目的が会社から既存株主を退場させることなので、その意味では100%減資だけでは不十分だ。減資、資本金を減らすだけでは株主の地位は不変なので、100%減資と同時に株式の種類を全部取得条項付種類株式へ変更し、会社がこれを全て取得後株式消却という会社法上の手続きが必要になる。

手続きの詳細はわきに置くとして、要するに、

100%減資は

既存株主が保有する株式数を0

にする手続きだ。

 

どんなケースで100%減資が使われるかと言うと、例えば、債務超過の会社の経営再建だ。経営再建には通常、新しいスポンサーが必要であり、新しいスポンサーを募るためには既存株主が邪魔になるからだ。

分かりやすいのは議決権の問題だ。経営不振の会社におカネを出す以上、新スポンサーは会社の経営方針や資金の使途に対して自身の意見を反映させたいと思うだろう。その際に、自分以外にモノ言う株主がいると自らの経営再建計画を遂行しにくい。

そもそも、このような会社の状況を作ったのは、経営者と既存株主なのだから、新スポンサーを迎えて経営再建をするにあたっては、経営者はもちろん、既存株主も責任をとって会社から退場してもらおうということだ。

 

このような債務超過会社の経営再建のケースでは、100%減資後、新スポンサーによる増資となることが多い。

 

また、株主価値の点でもネックになる。例えば、99%減資をして、1株当たりの自己資本が1,000円(1,000株)となった会社に新スポンサーが1株当たり100,000円で10,000株出資したとする。すると、会社の純資産は1,001百万円(11,000株)となり、1株当たりの価値は91,000円となる。既存株主から見れば、新スポンサーのおかげで自身の保有する株式の価値が高まり、逆に新スポンサーから見れば既存株主のおかげで出資後即株式価値が低下することになる・・・

第3者割当増資における株式の希薄化と同様だ。

この点からも既存株主が会社に残存すると新スポンサーが募りにくいということにもなる。 

 

以上、99%減資と100%減資の違いについて書いてみた。

1%の違いだが、両者はその意味と目的が全く異なる

 

減資は、資本金の金額を減少する手続きであり、株式数を減少する手続きではない。

 

一般的な減資の目的は、以下。

・決算書の見栄えを良くする(繰越欠損期の解消)

・配当可能性を高める(繰越欠損金の解消)

・税務メリットの享受

 

一方、経営再建などで経営支配権の入れ替えが必要となるケースでは、減資だけでは不十分であり、別途100%減資等の手続きにより株主を入れ替える必要がある。

 

なお、100%減資⇒増資には、株主総会の特別決議、債権者保護手続き、さらには登録免許税など時間もコストが必要になる。そこで、現在は、100%減資⇒増資というプロセスを経ず、会社が既存株主から株式を取得後、その(自己)株式を新スポンサーへ売却というスキームをとることが一般的だ。これによって時間とコストがセーブすることができる。