溝口公認会計士事務所ブログ

京都在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。会計監査、内部監査代行、内部統制の構築・改善業務、IPO支援業務、原価計算制度構築・改善業務、企業価値算定業務等のコンサルティング業務を中心に活動しています。また、グロービス経営大学院大学でアカウンティングとファイナンスの講師活動も行っています。日頃の業務の中で気づいたことをブログに書いていきます。【保有資格】公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、証券アナリスト協会検定会員(CMA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人

新型コロナウイルスで減損が見送られる!?

日経朝刊4/3’20より

金融庁日本公認会計士協会などは新型コロナウイルスの感染拡大に伴う需要の急減を受け、企業がただちに工場や店舗の資産価値の切り下げを迫られないようにする方針だ。日本の会計基準では資産価値が取得時より大きく下がれば減損処理しなければならないが、企業や監査法人柔軟に判断できるようにする。会計ルールの適用を弾力化することでコロナに伴う業績悪化を和らげる。』

 

とのことだ。

新型コロナウイルスの感染拡大による影響が計り知れない・・・

健康面、医療面への影響はもちろんのこと、

経済面でもリーマンショックを上回る影響が見込まれると言われる。

未だピークを超えず、終わりが見えないことも更に不安を煽る。

 

このような状況で決算期末を迎える3月決算会社。

会計上もいろんな影響が予想される。

関与する会社でも実際のビジネスへの影響は2月まではほとんどなく、3月以降で出してきているので、本業、P/Lで言えば営業利益段階では新型コロナウイルスによる影響はさほどないだろうと思う。

ビジネス上の影響はむしろ来期、2021年3月度の影響の方が圧倒的に大きいと予想される。

しかし、来期(2021年3月度)以降の業績が当期、つまり2020年3月期に影響を及ぼす項目もある。

いわゆる見積り項目だ。

見積り項目の中でも具体的には、

 

固定資産の減損

有価証券の減損

繰延税金資産の取崩し

 

といった項目だ。

 

これらは、決算期末時点における会社の資産の評価において、これまでの業績(実績)だけでなく今後の業績見通しを判断材料とする。つまり、足元の業績が悪化したとしても、来期以降の業績の回復可能性も考慮して評価しろ、と言うことだ。

そのため、来期以降の業績見通しが悪化すると、当期末における資産評価へマイナスの影響が出ることになる。

過去記事にも書いたが、現在の会計ルールでは目下のビジネスが悪化すると、それに影響を受け、固定資産の減損損失、さらには繰延税金資産の取り崩しによる税金費用の増加と連鎖反応を起こし、実態以上に見た目の業績が悪化する傾向がある。

 

tesmmi.hatenablog.com

 

 

記事は、コロナショックによる影響は一時的なはずだから、会計士の皆さん、そこは割り引いて監査してくださいよ、

 

忖度しろよ

 

という趣旨だろうか。

 

金融庁は3日にも公認会計士協会や東京証券取引所経団連全国銀行協会などと会計実務に関する対策協議会を立ち上げる。会計基準そのものは見直さないが、現行のルールを弾力的に適用できるように関係者で認識を擦り合わせる。』

 

これに対して例えば日本公認会計士協会は、以下の反応だ。

 

『昨晩および今朝の会計ルールの弾力化に関する報道の内容については、当協会から発したものではありません。また、このような報道がなされることについて、当協会が事前に承知していたものでもありません。』

jicpa.or.jp

 

ということで、未だ本決まりではないようだ。

とはいえ、メディアで報じられたということは大筋は合意され、

具体的な施策について今後明らかになるということだろう。

 

監督官庁しては、固定資産等の減損等によってパッと見の業績が著しく悪化したような印象を抑制したいという考えなのだろうか。

確かに、現在のような未曽有の経済状況においては、マスクやトイレットペーパーの買い占めのようにパニック的な行動を起こす人もいるので、不安を煽りたくないというのは理解できる。

 

しかし、気になる点もある。

まず、

新型コロナウイルスの影響は一時的なものと言えるのか?

現時点は、専門家の間でも見通しは立っていないだろう。

経済への悪影響を避けるために減損を先送りしたいというのは分からないではないが、新型コロナウイルスの影響が今後数年継続するということであれば、やはり会計的な判断には含めるべきだろう。

また、

2020年3月決算は、業種にもよるが米中貿易摩擦円高の影響で業績が悪化していた会社は少なくない。新型コロナウイルスの影響による業績の悪化部分をどう切り分けて把握するのだろうか、いう疑問も生じる。

そして、

記事には、監査法人に対して、機械的にルールを適用せず柔軟な対応を求めるとしている。

 

そのための指針やガイドラインがどの程度出されるのだろうか?実務を考えた場合、会社と監査法人が個別に検討して判断ということなると、これはもうかなりの混乱が予想される。また、検討による時間の増加、そしてそしてそれに伴うコストもかなり積み上がりそうだ。

キャッシュアウトのない減損の抑制のためにキャッシュアウトを強いて

不安な経済状況下の企業の財務安全性を損なわせるのは笑えない冗談だ。

 

機械的にルールを適用せず柔軟な対応については、やり切れない気がする。

過去の会計不正の影響は理解するが、その改善対応として、現在、監査法人の監査が監督官庁や会計士協会から審査される状況にある。その結果、現場の会計士にとっては個社の状況に即した会計的判断が難しく、どちらかというと保守的な判断を下す傾向にあると理解している。保守的と言うのは損失を計上する方向という意味だ。

いきなり逆方向に舵を切れと言われてもどこまで対応できるのか疑問がある。

 

そして、やはり、どんな事情があるとはいえ、会計的な判断に手心を加えるというのは適切な会計処理と言えるのだろうか?

要するに、国民の会計リテラシーが低いから、数字が悪くなると不必要に不安を煽ることになる。

だから、見た目の数字を取り繕う、というように思えてならない。

だとすれば、

粉飾決算を正当化する会社と考え方は同じだ・・・

 

今回はともかく将来同じような事態にならないとは限らない。

自分で会社の業績を評価する力、会計リテラシーの向上

の必要性を改めて感じた。

 

疑義のついた企業は格下げになり、融資を受けにくくなることも想定される。コロナの終息がまったく見通せないなか、画一的に運用すると多くの企業がこのルールに抵触する懸念が出てくる。このためコロナの拡大に伴う不透明感が漂うあいだは、すぐに適用しなくてよいようにする。
銀行と企業の融資契約の条件も和らげる。融資契約では、融資先の企業が最終赤字や債務超過などに陥った際に借入金の一括返済などを求めるコベナンツ条項」と呼ばれる特約を結ぶことがある。金融庁はコロナの影響で赤字などになっても、この条項をすぐに発動しないように金融機関に要請する方向だ。』

注)疑義は、継続企業の前提(ゴーイングコンサーン)の疑義

 

せめてプロである金融機関や機関投資家には、見た目の数字ではなく、

実態の評価による投融資の判断をして欲しいものだ。

 

減損損失の戻入の可否【日本とIFRSの違い】

コロナショックやら3月決算やら株主総会やらで、

前回の投稿からはや1ヶ月が経とうとしている。

本当に時間が進むのが早い・・・

世間では、コロナウィルスによる自粛疲れとか、

暇つぶしの方法を見つけるのが大変といったニュースを見ても、

どこにそんな暇があるのか信じられないくらいだ。

 

そう言えば、コロナショックが会社の決算数値など会計に与える影響

なんてもの書いてみても面白いのかな、

と思ってみたりもしている。

 

さて、今回のテーマは、

減損損失の戻入の可否

 

日本基準とIFRSとの相違

について。

 

先日、こちらにザックリとした内容は書いているが、

事務所ブログではもう少し掘り下げてみたい。

globis.jp

 

簡単にまとめると、

減損損失の戻入は、

日本基準:NG(不可)

IFRS  :OK(可) 

     但、のれんはNG

 

ちなみに、

米国基準:減損の戻し入れ NG 

で日本基準と同じだ。

(日本基準が米国基準を参考にした)

 

この相違は両者の減損に対する考え方の違い

によると言われる。

 

【減損の考え方の違い】

日本基準は、本当に固定資産の減損と言う事象が発生しているのかの検討に重きを置く。

まず、継続的な営業利益や営業キャッシュ・フローの赤字などの

減損の兆候が認識されなければ詳細な減損テストは不要だ。

 

また、減損の認識では

2ステップアプローチ

を採用している。

2ステップとは、減損の兆候が認識される場合、まずは割引前の将来キャッシュ・フロー(CF)の合計と対象となる固定資産簿価を比較して、

 

(ステップ1)

割引将来CF<固定資産簿価

 

の場合に、次のステップ、

 

(ステップ2)

割引将来CFと固定資産簿価を比較

して減損損失(額)を測定する。

 

ファイナンスに明るい方は、かなり緩いルールだということが分かるのではないか?

割引率の設定にもよるが、通常は割引CF>割引CFであるし、そもそも割引前CFと帳簿価額を比較する意味が乏しい。

減損の兆候の有無の把握然りで、検討プロセスの省力化が目的だろうか。

ともかく、これだけ下駄を履かせた状態でなお、減損が認識されるとういうことは、

 

その特徴はもう完全に減損やがな

すぐわかったやん、そんなんも〜

 

ということで、満を持しての減損となり、戻し入れるなんて考えられない、となる。

 

これに対して、IFRSでは決算時点における固定資産の価値の毀損に重きが置かれる。

 

価値があるかな~どうかな~微妙だな~

 

という時は、取り敢えずというと誤解を招くけもしれないが、まあ、積極的に資産価値を切り下げる、つまり減損と言うことになる。

減損テストも、減損の兆候についての具体的な数値基準等が無いため、日本基準と比べると減損テストの頻度は増すように思う(ぶっちゃけ、兆候があろうがなかろうが毎期必要)になる。

また、減損の認識も1ステップアプローチなので、

日本基準のような割引前将来CFと帳簿価額との比較は無い

 

その結果、どちらかというとIFRS採用会社の方が日本基準採用会社よりも減損の認識が早い傾向があるように思う。

 

減損損失の戻入の相違】

その裏返しが、減損損失も戻入の考え方に影響していると思われる。

IFRSでは、時点時点の判断で、固定資産の価値毀損が把握されば積極的に減損と言う価値修正を実施する。つまり、

 

あー、ほな減損と違うかぁ

 

価値の回復が認められれば積極的に(回復の)価値修正も実施することにもなる。

 

その分、毎期毎期の減損テストの検討という事務コストが発生するのだが・・・

日本基準が、減損の戻し入れを認めていないのは事務コストの問題もあるように思う。

 

【のれん減損の取扱い】

しかし、IFRSにおいても

のれん減損損失の戻入はNGだ。

これはのれんの正体にも関連するのだが、買収差額を特定の有形・無形資産へ

個別に配分した結果、個別の資産として認識できなかった差分がのれんとなる。

のれんは超過収益力と表現されることが多いが、その超過収益力を個別に識別することは極めて困難だ。

つまり、積極的にのれんの存在を示すことは困難であり、

のれんは、それだけ実在性が危うい資産ということでもある。

IFRSのスタンスも、対象会社の収益性の低下などを原因とするのれんの減損以降、のれんの価値の回復を証明するのは実質的に不可能ということだ(戻入不可)。

 

M&Aは今後まずます増加すると思われる。ということは、のれんも益々積み上がる傾向は否めない。

こうした点からも、のれんという資産の企業経営における意味について再考が求められるのではないだろうか?

 

 

武田薬品工業の上方修正の要因は!? 【PPAの功罪】

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55239360U0A200C2DTB000/

 

武田薬品工業4日、2020年3月期の連結最終損益(国際会計基準)が1620億円の赤字(前期は1091億円の黒字)になる見通しだと発表した。従来予想より赤字幅が1110億円縮小する。今期の上方修正は3度目だ。アイルランド製薬大手シャイアーの買収完了から1年たち、在庫や特許など無形資産の金額が確定した。暫定値より小さくなり償却費などの負担が減った

(2/4/2020 日経朝刊より抜粋)

 

3月決算会社の第3四半期決算発表という時期的なものもあり、本決算の数値を見据えた発表が多くなる時期だ。

事務所ブログのネタも増える(爆)

このニュースもその一例だ。

 

記事が悪いということではないが、紙面の関係なのか、少し省略したというか、前提をおいて書いているように思える。

あまり会計知識に明るくない人にとっては、

何で利益が増えるのか?

上方修正の理由がいまいち分かりにくいのではないだろうか?

 

武田の上方修正のカギをに握るのが

パーチェスプライスアロケーション(PPA

だ。

いきなり何のことかと思われるかもしれないが、PPAは2010年度から日本の会計ルールにも導入されているのでそれほど新しい話ではない。とはいえ、無形資産の評価が絡む少々ヤヤコシイ話なので、一般的にはあまり理解が浸透していないと思う。

 

PPAについてコチラ(https://maonline.jp/articles/ppa0372)に説明しているが、

ざっくりいうと、

買収差額の細分化

だ。

買収差額が生じる、つまり定価(純資産)よりも高く買うということは、買収先企業に何らかの追加的価値を認識したからに違いない。であれば、何に対して追加でおカネを払ったかを明確にするべき、ということだ。

補足だが、のれんは極論すれば、具体的に何に対しておカネを払ったかが判然としないということの現れでもある。

例えばビットの競り合いによって勢いで払ってしまったかもしれない(笑)

ということもあって、僕は

のれんは出がらし

のような存在と考えている。

 

コチラを参照☟

 

tesmmi.hatenablog.com

 

さて、武田の話に戻る。

武田の上方修正とPPAの関係については、こちらにザックリとまとめているので参考にしてほしい。

 https://globis.jp/article/7488 

 

ポイントは2点

・PPAにより当初見積よりものれんが大きくなった

IFRSではのれんは償却しない

 

 PPAは買収完了から1年以内に完了させる手続きなので、当初の見積もりよりも

のれんの金額が多かった(無形資産等の配分が減った)ということだ。

なお、PPAの完了が買収完了の翌事業年度以降となった場合は、過去の決算を遡って修正して、買収が完了した事業年度にPPAが完了(無形資産等の配分が確定)したとして会計処理することになる。

 

詳細は、「企業会計基準適用指針第 10 号 企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」を参照のこと

https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/ketsugou_10.pdf

 

知見録コラムにも書いたが、武田がIFRSを採用していることが1つのポイントだ。

日本基準ではのれんも償却するため、今回の武田のように会計数値に対するインパクトは大きくない。

のれんの償却期間と個別に認識される無形資産の償却期間の違いに伴う毎期の償却費差額分だけの損益影響があるのみだ。

 

武田にとっては利益の押上要因にもなったので、PPAに武田の意図が働いたと勘繰る向きもあるかもしれない。可能性は否定しないが、PPAは通常、会社とは別の財務コンサルティング会社等の外部の専門家が担う。また、その結果に対する公認会計士の監査も必要だ。したがって、会社の意向は介入しにくいと考えて良いように思う。

 

では、武田にとってラッキーだったかと言えば、それは何とも言えないのではないだろうか?

確かに目先の増益にはなるが、同時に減損リスクを将来に繰り越したとも言える。

無形資産は、買収先企業、この場合はシャイアーの将来の業績に関わらず当面は耐用年数によって粛々と償却される。もっとも、それ以上に無形資産の価値が棄損すれば減損もあるが、それでも償却が進行する分減損損失は縮小される。一方、のれんは非償却な分、シャイアーの業績悪化により減損となる場合の損益インパクトが大きくなる

 

 

ちなみに、IFRSがのれんを非償却としていないのは、出来るだけ個別に識別可能な資産を認識してのれんを最小化することを前提としていることもある。のれんは非償却だが減損テストは必要だ。買収した会社がその後、期待に見合った業績を上げなければのれんの減損リスクは高まる。つまり、買収差額をできるだけ無形資産等へ配分してのれんを大きくしないようにするということだ。

ヤマトHDが事業持株会社へ移行する理由とは? 【ある会計士の妄想】

headlines.yahoo.co.jp

 

ヤマトホールディングス(HD)は23日、2021年4月に純粋持ち株会社から事業会社に移行する構造改革プランを発表した。傘下の宅配便最大手、ヤマト運輸などを事業ごとに再編する。ヤマトは、宅配ドライバーの待遇改善を目的に17年に料金を値上げして取り扱い荷物を抑制する方針に転換した。だが、コストの増加で足元の業績は低迷しており、再編による意思決定の迅速化で立て直しを図る」

 

TwitterFacebookでこのニュースにコメントしたところ、

どういうこと?説明して!

とリクエストをいくつかもらったので、少し解説してみる。

 

とはいえ、

あくまで私見、妄想であることを予め断っておく。

 

「組織再編は、ヤマト運輸など子会社8社をヤマトHDが吸収合併し、機能別に「リテール」など4事業本部と「輸送機能」など4機能本部に再編し経営のスピードを早める。IT化では、23年度までの4年間で1000億円を投資。人工知能(AI)を活用して業務量を予測し、人員配置や配車、配送ルートを効率化するほか、倉庫での荷物の仕分け作業の自動化も進める。また、今年4月から、荷物を受け取る時間や場所などをより柔軟に設定できる電子商取引(EC)向けの新たな配送サービスの導入も目指す。」

 

ヤマトHDは、今回の事業持株会社への移行の目的を経営のスピードを早める

ことと発表した。

 

なお、ヤマトHDによるニュースリリースはこちらを参照☟

www.yamato-hd.co.jp

 

事業規模の成長や事業の多角化などにより企業のグループ化が進む中で、元々の事業会社が親会社としての役割を同時に担う事業持株会社純粋持株会社(HD化)へ移行するのが今もっての流れのように感じる。

ヤマトHDも同様で、2005年に事業持株会社から現在の純粋持株会社であるヤマトホールディングスへ移行した。

それを今回、逆行するように事業持株会社再移行するという。

 

一般的にHD化の目的は以下が挙げられる。

 

■グループ全体の経営戦略の促進
親会社である純粋持株会社が特定の事業に傾倒しないため、グループ全体の視点に立った経営戦略の策定が促進が期待


■経営意思決定のスピードアップ
純粋持株会社が特定の事業から切り離され、グループ全体の経営戦略の策定や事業会社の業績管理が主たる事業となるため、グループ全体の経営意思決定のスピード化が期待


■事業評価・再編の効率化
傘下の事業会社を別会社とすることで、会社ごとに財務や決算が独立するため、事業の業績評価がしやすくなります。同時に、M&Aへの対応がスムーズに


■事業に即した人事制度
傘下の子会社を事業ごとに別会社とすることで、事業に適した人事制度等を導入可能

 

詳細はこちらを参照☟

globis.jp

 

HD化の目的、メリットの2点目に経営意思決定のスピードアップを挙げている。

これはまさに、ヤマトHDが事業持株会社への移行の目的として掲げている点だ。

 

HD化のメリットの1つである経営意思決定のスピードアップを目的として

HD化を止めるという・・・

 

これは一体どういうことか?

 

HD化の留意点として以下が指摘される。

 

■グループ間のミスコミュニケーション
親会社、傘下の事業会社がそれぞれ別会社となるため、運用によっては親会社である純粋持株会社に対して事業会社の情報が適時適切に伝わらない恐れがある。また、事業会社間の意思疎通も困難となることが考えられる。その結果、グループ全体の経営意思決定に悪影響が出ることがある。

 

HD化それ自体の留意点というよりは、運用の問題だろう。

ロボットやAIであれば同様の問題は発生しないかもしれない・・・

 

 

例えば、事業ごとに会社を別にすると、求める人材も変わる、お互いのバックグラウンドが異なることで意思疎通がうまく行かなくなる、ということは少なくない。

僕の前職でも会計監査部門とコンサル部門では人員のバックグラウンドも違って、お互い人種が違う(から分かり合えない)とか言ってたような・・・

あるいは、同じフロア(近く)にいる相手であれば容易にコミュニケーションが取れる(取ろうとする)が、他のフロアまでわざわざコミュニケーションをとりに行くのは面倒、といったこともあるだろう。

これも、前職で経験済み(笑)

 

そして、HD化のメリットの経営意思決定のスピードアップ

これは、純粋持株会社と事業会社の役割分担や事業会社への権限移譲が適切に行われることが前提となる。

HD化により自動的に経営意思決定のスピードアップが図られるわけではない。もしそうだとすれば、それは非常に安易な発想だろう。 

 

蛇足だが、日本企業は権限委譲があまり得意でない印象がある。

多くを純粋持株会社留めるか、あるいは事業会社に丸投げするか・・・

例えばの話だが、ヤマトHDが事業会社に事業の意思決定に関する権限を委譲せず、その多くを持株会社に留めているとすれば、事業に関する経営意思決定が遅くなる可能性はある。

 

ここで、ヤマトHDの役員構成を確認すると、

役員12名の内、

社内取締役4名

社外取締役4名

監査役4名(内、社外監査役2名)

実際にヤマトグループの事業執行は4名の社内取締役が中心となる。

社外取締役の皆さんがどの程度ヤマトグループの事業に精通しているかは不明だが、客観的、一般常識的な見地からの経営に対する意見、助言といった、いわゆる社外取締役に対する期待役割が大きいほど、社内取締役の提案に対する批判的機能が高まる。

結果として意思決定のスピードが阻害される可能性はある。

 

とはいえ、それはそれで社内の常識は社会の非常識、社内取締役の暴走を防いだり、企業価値を高める投資の促進など意味のあることでデメリットとは言えない。

 

あくまで、運用上の問題だ。そして、その運用を司るのは人間だ。

 

人間だもの・・・

 

どんな制度、仕組みにもメリットもあればデメリット(注意点)はある。

メリットを最大限追求しつつデメリットをいかに抑制するか、

を検討する必要がある。

今回、ヤマトHDは事業持株会社という仕組みを選択するが、それもまた同様だ。

 

もともと事業持株会社だったヤマト運輸純粋持株会社を選択した目的に、経営意思決定のスピードアップがあったとしたら要注意だ。

MTGの棚卸資産評価損の前兆は前期決算の訂正にあった!? 

一昨日(12/9)、延期されていたMTG社の2019年9月度の決算がようやく発表された。

 

 MTG社の決算短信

https://ssl4.eir-parts.net/doc/7806/tdnet/1776464/00.pdf

 

東証の適時開示ルールでは、決算日から45日以内に決算発表(決算短信)を求めている。いわゆる45日ルールだ。

50日を超える場合は、その理由や発表時期の見込みを発表する必要がある。

 

とにもかくにも、決算日後約70日で発表に至ったわけだ。

 

そもそも決算発表が遅れた原因は、

韓国子会社の取引先における

棚卸資産の評価

を巡って監査法人と意見が合わず調査を要したためだ。

(現地監査法人への通報)

 

MTG社は社内調査の結果、11/19付で以下のような年度決算見通しと共に業績予想の下方修正を発表した。

 

【連結決算】

棚卸資産評価損 45.5億円

減損損失 87.6億円

 

前四半期の在庫水準からすると、

棚卸資産のザっと4割の価値が無くなったことになる。

 

【単体決算】

関係会社株式評価損 40.1億円

貸倒引当金繰入額 36.7億円

 

詳細はコチラ☟ 

https://ssl4.eir-parts.net/doc/7806/tdnet/1772771/00.pdf

 

前回のブログで書いたが、MTGは半年前の2019年9月期第2四半期にも決算発表を延期した。

原因は、売上計上のタイミングだった。

MGT及び中国子会社は卸業者へ販売した時点で売上を計上(一括売上認識)していたが、取引実態から、本来は卸業者から第三者への売上を計上する時点で売上認識すべき(消化売上認識)ということだ。

その金額的影響をまとめたのが下図だ。

 

f:id:tesmmi:20191126141919p:plain

 

この影響額を見たときに違和感を覚えた。

 

売上高の取り消し処理を行うと、在庫の戻し入れの処理も行われる。

返品等によって売上も取り消されるが、棚卸資産も返品されるためだ。

売上と同時に売上原価も取り消されるため、利益(この場合は売上総利益)に与える影響は通常、売上総利益相当分となる。

 

但し、それは、

返品された棚卸資産良品として再販可能な場合だ。

 

もともと無理なスキームで売上を計上したのも、中国の販売減速や日韓関係の悪化からの不買運動などといった市場環境の変化へ対抗するためだ。となれば、これまで通りの売価で商品が売れ続けることは考えにくい。つまり、売上取消の対象となった棚卸資産が通常売価はおろか、原価でも再販されるのは困難ではなかろうか?

 

2018年9月期の訂正では、売上高とほぼ同程度の営業利益が取り消された。

先述のとおり、売上取り消しの利益に対する影響額は売上総利益分だ。

これは一体どういうことか?

考えられるのは、受入と同時に対象となった棚卸資産の評価減

を実施したということだ。

会計ルールでは、棚卸資産の評価損は通常、売上原価として計上される。

したがって、評価損を計上するほど売上原価が増加する。

返品等で受け入れた棚卸資産を100%評価減すると、結果的に、

 

売上原価+売上総利益=売上高

 

に相当する利益が減額されることになる。 

 

しかし、2019年9月期の第1四半期以降は、売上の取り消し金額よりも営業利益の減少額は少なくなっている。同社の売上総利益率が60%程度であるから、棚卸資産の金額を満額、つまり100%良品評価で受け入れたとは思わないが、2019年9月期第1四半期の取り消された売上に対する営業利益が70%、第2四半期の営業利益が80%取消されていることから推察すると、対象となった棚卸資産のそれぞれ10%、20%の棚卸資産評価損は計上されているのではないか。要するに、一定の評価金額で返品あるいは卸業者へ販売した棚卸資産を受け入れをしたように思えた。

それらの棚卸資産再販の見込みがあるということなのだろうか・・・

 

気になったので、訂正の対象となった2018年9月以降の棚卸資産回転期間売上総利益率の推移を調べてみた。

 

f:id:tesmmi:20191210103637p:plain

MTG社の決算短信から筆者が作成

 

2018年9月年度末決算の訂正で既に棚卸資産の回転期間の長期化が見られる。

特に、2019年9月期の第1四半期の訂正分から棚卸資産回転期間が大幅に長期化しているのが分かるだろう。同時に売上総利益率も低下している。

 

売上取り消しの対象となった棚卸資産(その大部分はReFa)の受け入れ処理をしたと同時にある程度の棚卸評価損は計上したのではないかと先程書いた。

会計ルールでは、棚卸資産の評価損は通常、売上原価として計上される。

売上総利益率が低下しているのはその影響もあるだろう。

 

しかし、棚卸資産評価減により通常、回転期間は短期化する。

 

棚卸資産回転期間

棚卸資産/1日当たり売上原価

 

であり、分子の棚卸資産が小さくなり、分母の売上原価が大きくなるためだ。

つまり、棚卸資産を評価減してなお棚卸資産の回転期間が長期化しているということは、他に滞留在庫がある可能性がある。

これまでのスキームで売上を計上すべく製造等の手配をしていた棚卸資産を受け入れざるを得なかったということも考えられるが、

もう1つ考えられるのが、韓国向け売上棚卸資産だ。 

 

前回、第三者委員会を設置して調査し、結果訂正の対象となったのはMTG本社及び中国子会社の中国市場向け売上だ。

しかし、韓国向け売上についても同様の状況は観察していたように推察する。

上記のように、棚卸資産回転期間の長期化も確認できる。

そして、その数か月後に韓国子会社の取引先の棚卸資産の評価が問題となって決算発表延期、調査、業績下方修正・・・

 

三者委員会の調査では、韓国向けの売上や棚卸資産の評価の妥当性については問題視されなかったのだろうか?

 

今回、韓国子会社の取引先の棚卸資産の評価減を実施とのことだが、売上済みなのかどうか、また、その妥当性については何ら発表がない。

 

本当に全ての処理が完了したのだろうか?

監査法人も交替するようだし、来期また何か発覚するかもしれない。

 

 

ん~何とも釈然としない

 

 

一方、株式市場の反応は、

www.asahi.com

 

すっかり悪材料が出尽くしたとの認識で株価は反発・・・

 

ん~、やっぱり釈然としない

 

MTGの不適切売上は何が問題だったのか?   【一括売上認識と消化売上認識の違い】

前回のブログから結構な時間が経ってしまった・・・

 

先日、シックスパッドやReFaで有名なMTG社が2019年9月期決算の決算発表の延期を発表した。

 

『またっ!?』

と思ったのは、同社は2019年9月期の第2Q(3月)も決算発表を延期したからだ。

 

今回の延期理由は、「会計監査人に対して韓国の取引先の在庫状況に関する通報があり、社内調査をしている」とのことだ。

www.asahi.com

 

『あ~やっぱり』と

『何で持ち越したのか?』

というのが率直な感想だ。

 

決算発表延期の発表後の11/19に、同社は2019年9月期の業績修正(下方修正)を行った。

棚卸資産評価損45億

減損損失87億

の計上により連結業績は、

連結売上高:360億(前期:583億)

連結営業利益:△74億(前期:69億)

連結当期純利益:△76億(前期:69億)

となる見通し。

詳細は☟

https://ssl4.eir-parts.net/doc/7806/tdnet/1772771/00.pdf

 

今回の業績予想修正の内容を説明する前に、

前回、つまり当第2Qの決算発表延期について説明しておくことにする。

てっきりブログに書いていると思っていたら・・・

すっかり飛ばしていたことに気づいた(汗)

 

当第2Qの決算発表延期の原因は、「中国の子会社「MTG上海」で

不適切な会計処理が行われていた疑い」だった。

www.asahi.com

 

その後、第三者委員会による調査が行われ、2019年7月12日付で第三者委員会による調査報告書が公表された。

https://ssl4.eir-parts.net/doc/7806/tdnet/1731754/00.pdf

 

不適切な会計処理の背景には、同社の経営理念や意思決定プロセスなどの内部統制やガバナンスの問題もあるのだが、それらの問題は次回、別途に書くことにして、今回は不適切な会計処理の内容に限定して進めることにする。

 

調査報告書によれば、売上げに関する主な不適切な会計処理を3点指摘している。

 

①国内輸出代行会社(C社)との中国越境EC向け売上

②上海の代理販売事業会社(A社)への売上

③中国のECサイト運営代行企業(B社)への売上

 

取引スキームは異なるが、総じて、MTGないしはMTGの上海子会社からA,B,C社への売上は成立してないにも関わらず、MTGが売上を計上し実態よりも

売上、利益を過大に計上していた、というものだ。

 

同社が2019年7月に公表した過年度の連結決算数値の訂正によれば、金額的影響額は以下のとおり。

f:id:tesmmi:20191126141919p:plain

MYG発表資料を基に筆者作成

かなりの規模の売上が過大計上されていたことが分かる。

 

では、具体的にどのような点が問題となったのか?

 

まず、一番規模が大きかったC社向け売上について。 

想定の取引スキームは、

MTG⇒C社⇒中国越境EC

ちなみに、今回の不適切会計処理の対象となった主な商品は『ReFa』。

 

想定通り商品が中国越境ECへ流れれば問題なかったのだが、

実際にはC社で商品が滞留した。

そもそも、C社は輸出代行を担う商社であり、中国のECサイトへの直接の販路はない当事者間で、中国越境ECサイト運営会社との諸交渉はMTGが行うことになっていたとのことだ。つまり、実際の商品の販売活動はMTGが主体となる。その後の販売も思わしくなく、結果として、C社に販売した商品は、MTGの上海子会社が返品を受けることで合意した。

MTGは日本の会計基準を採用している。

日本基準では、売上は実現基準にしたがって認識される。

実現基準の要件は、

 

財貨の移転又は役務の提供の完了

・対価の成立

 

この2要件が満たされた時点で売上は認識される。また、財貨の移転の完了は、

所有に伴う重要なリスクと経済価値が移転していること、

が考慮される。

これらの点から改めてC社向け売上取引を見ると、C社へ納品した時点では同在庫に対する販売先の開拓や交渉など依然としてMTGが関与する部分が大きく、ましてや最終的にMTGが当該在庫を引き取るということになれば、実質的に在庫をコントールしているのはMTGと判断される。

したがって、MTGがC社へ販売した時点で一括して売上を認識するのではなく、C社から中国のECサイトへ販売された時点で消化的(段階的)にMTGの売上を認識すべきという判断となる。

 

A社、B社向け売上の想定取引スキームは、

MTG上海(子会社)⇒A社⇒B社

この取引スキームはそもそもMTG上海とB社の取引だったが、B社が新規取引先であったため、社内規定を満たすために従来取引のあるA社を介在させたというもの。したがって、取引スキームにA社が主体的に関与する経済的合理性はそもそもない。また、上記取引スキームについての三者の合意(契約)も未締結(2019年1月)であることから、当然のごとくA社はB社からの支払いが無いこと理由にMTG上海に対する支払いを行っていない。

日本企業の連結目的のためには、海外子会社は米国基準かIFRSに従って会計処理する必要がある。

IFRSでは、売上が認められる要件の1つに『企業が、顧客に移転する財又はサービスと交換に権利を得ることとなる対価を回収する可能性が高い』ことを挙げている。A社としては、B社への転売を前提として取引スキームに参画したのであり、三者間契約が未締結の状況では、A社は当初から支払期限到来時にMTG上海へ代金を支払う意図はそもそもなかったと判定され、結果、IFRSに従えば、売上の計上は認められない。 

 

B社に対する販売単価は他社に比べて非常に高かった。その理由は、B社の販売活動において実際に発生する運営費用をMTG上海が負担する旨が基本契約で取り決められていたからとのこと。つまり、MTG上海はB社へ販売後の商品に関するマーケティング、販促、ECサイト利用、物流等に係る費用含みでB社への販売価格を設定したということだ。また、こうした状況では、B社の販売先であるECサイトへの販売価格や販売手法についてもMTG上海の意向が強く反映されると考えられる。

IFRSでは、『顧客が資産の所有に伴う重大なリスクと経済価値を有している』ことが実質的な所有権が移転したと考える条件となる。しかし、取引の実態を見れば、商品がB社へ渡った後も引き続き商品に対する重大なリスクと経済価値を有しているのはMTG上海と考えるのが妥当だ。

したがって、B社に対する売上は、商品に対する実質的な支配がB社に移転していない以上、IFRSに従えば、MTG上海は一括売上認識することができない。こちらもC社取引と同様、B社がECサイトを通じて最終顧客へ販売した時点で売上を消化的(段階的)に認識すべきである。

 

以上、第三者委員会による調査報告書の見解をざっとまとめてみた。

いずれも形式的にはともかく、会計基準に沿って吟味すると、実態としてはMTG及びMTG上海の売上の要件を満たしていないということだ。

こうした実態に即した判定は実は難しい場合もある。会計ルールの要件1つ1つに取引実態を当てはめて検討すると、個別には要件を満たしたり、満たなさなったりするケースもある。

そのような場合、やはり目的、取引の経済合理性が重視される。

MTGは2018年7月に東証マザーズに上場した。2018年9月期は上場後初の決算だ。ここで成長の鈍化を見せたくない。持続的な成長をアピールしたいという経営者の思いに反して中国からのインバウンド需要の急速な減速や中国における新EC法の影響もある中、何とか売上、利益の数字の辻褄合わせをする動機があった。また、社内関連部署間の情報の隠ぺい監査法人に対する虚偽の報告など意図的な情報操作も調査報告書で指摘されている。

こうした点を踏まえての今回の結論と思われる。

 

また、売上の認識について、日本基準とIFRSでは要件等の表現が異なる部分があるが、個人的には表現の違いはあれど実質的な違いは無いと理解している。

IFRSの方が日本基準よりも厳しいと思われる傾向があるがそんなことはない。

IFRSでダメなものは日本基準でも

当然ダメ !!

しかし・・・

日本の会計実務は、会計原則を斟酌して取引実態に応じてあるべき会計処理を考えるというよりは、総論賛成、各論反対が如く、取引慣行など現場の都合を重視するがあまり、ともするとあるべき会計処理から乖離することが少なくないように思われる。

 

会計ルールの順守もコンプライアンスであるという意識が薄いように感じるのは気のせいだろうか・・・

 

減損逃れは梅の花だけの問題なのか? 【梅の花の会計不正】

https://www.asahi.com/articles/ASM8Z4VSNM8ZTIPE01V.html

 

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和食レストランの梅の花福岡県久留米市)は30日、不適切な会計処理が発覚したことを受け、発表済みの2019年4月期決算を訂正した。不採算店の資産価値を下げる減損処理を適切に行った結果、純損益は1億8400万円の黒字から、9億8100万円の大幅な赤字に転落した。

 同時に、10年9月期から18年9月期まで計9年分の決算も訂正した。いずれも店舗の減損処理の修正に伴うもので、10年9月期と16年9月期の純損益は黒字から赤字となった。

 梅の花は不適切会計を巡り今年6月、弁護士らによる第三者委員会を設置。今月29日公表の報告書で、赤字店舗を黒字化して減損処理回避し、決算の数字をよくみせる不適切な会計処理を約10年間にわたり行ってきたことを明らかにした。」

朝日新聞 9/2/2019)

 

 

梅の花の採った手法の「減損逃れ」は、記事にもあるように本来赤字の店舗を黒字のように見せかけて、減損損失を先送りにする会計不正である。

梅の花が、何故会計不正に及んだのか、また、何故10年の間発覚しなかったのかについては、同社の第三者委員会がまとめた報告書を参照して欲しい。

 

梅の花 第三者委員会 調査報告書はこちら☟
https://discl.quick.co.jp/PDF/TD2019082900001

 

会計不正を誘発した同社の内部統制にもこうした会社に典型的な問題点が多々見られるが、それについては別の機会に書くとしたい。

減損損失の対象は、固定資産だ。例えば、梅の花のような外食チェーンの業態であれば主に店舗の建物、構築物等の固定資産が減損の対象となる。不採算店舗の赤字が継続すると、店舗の建物や構築物等の価値が低下していると見做され、固定資産の帳簿価額を固定資産の実際の価値まで特別損失として減損処理するというものだ。

もう少し詳しい減損判定のプロセスは、こちら☟を参照していただきたい。
https://globis.jp/article/7210

実際にはそれぞれ実態に即して判定されるので、減損のタイミングや損失額は誰が判定しても同じ結果となるとは限らない。つまり、判定においては会社の

恣意性が介入するということでもある。

例えば、資産のグルーピングだ。
梅の花のような外食チェーンの業態では、通常は店舗ごとに資産グループを決定しているが、理屈の上では常にそうとは限らない


資産グルーピングの基本的な考え方は「独立したキャッシュフローを生み出す最小の単位」であり、実務では管理会計上の管理区分や投資意思決定の単位などを考慮して資産をグルーピングする。
つまり、何をもって独立したキャッシュフローの生成単位とするかは、会社の資産管理の方針が大きく影響する。


例えば、会社が地域を管理単位として設定しており、店舗ごとではなく1地域に属する複数の店舗からのキャッシュフロー総額で地域の業績を管理し、地域ごとに出退店の意思決定をしているのであれば、資産グループは地域単位とすることも考えられる。
攻めるときには一気に攻める、退くときには一気に退く、と言った出退店の方針を掲げ、実際に、そのような管理、意思決定を実行しているケースだ。
このようなケースでは、例えば地域内の1店舗の業績が悪化したとしても、他の店舗がそれをカバーして、地域全体として業績悪化と評価されない場合は、減損処理は不要になる。

しかし、実際には梅の花も然りで店舗単位で業績管理していたり、出退店の意思決定をしているケースが多いので、外食チェーンの業態では店舗単位で資産のグルーピングするのが一般的と言うことだ。


また、業績の悪化という定義も一律に決めるのは難しい。そもそも、資産グループの業績を何で測るかも一律に決まるものでもない。というのも、何をもって業績評価をし、投資意思決定をしているかはやはり会社によるためだ。


梅の花は、店舗ごとの利益で業績評価していた。そして、店舗利益を以下のように定めていた。

店舗利益

=店舗売上-店舗直接費-本社費配賦額

店舗利益は、店舗に係る人件費、減価償却費だけでなく、本社やセントラルキッチンの人件費や減価償却費の各店舗への配賦額も控除している。
梅の花の会計不正は、この本社費等の配賦額の算定方法を操作していた。

梅の花の本社費等の配付基準等は以下。

 

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実際には、経営実態に合わせて間接費集計区分・配賦基準を構造的に階層化しており、さらに各階層間の論理的な関連をエクセル関数で複雑に組み合わせるなど、その正確性を検証するためにはそれなりのエクセル知識を要する状況だったとのこと。そして、その複雑性を利用して店舗への配賦割合算定基礎数値を操作していたとのことだ。


不自然に複雑な仕組みはそれ自体が不正の余地となりやすい典型例

と言える。

 

ところで、本社費等の配賦前の利益で減損判定をするのはダメなのかと言う意見もあろう。

確かに、会社全体として利益を出すためには店舗に係る直接費だけでなく、本社費等も店舗の利益で賄う必要がある。しかし、本社費等は店舗の営業に直接関係して増減する費用ではない。不採算店舗を閉店したからと言って本社費が自動的に削減できるわけではない。むしろ、店舗が本社費配賦前で利益を出している場合は、その利益が失われることによってむしろ会社全体の損益が悪化する場合もあり得る。したがって、本社費配賦前利益(店舗売上ー店舗直接費)で出退店の意思決定を行うという経営判断もあるだろう。あるいは、仮に地域の中に不採算店舗が存在しても、他社に対する地域全体での優位性を維持強化するためには、敢えて閉店しないという判断もあるかもしれない。

つまり、経営判断において重視する経営管理指標や損益状況は会社によるのであって、一律に与えられるものではない。

 

固定資産の減損は、根本的には会社の事業が良好に進捗しているかどうかであり、そしてそれは会社の事業内容や経営管理における考え方に大きく影響を受ける。

したがって、会社の経営管理の考え方を無視した一律のルール設定はそもそもおかしい

これが、会社によって減損のタイミングや金額に差異が生じる根本的な理由だ。

 

事業の実態を考慮した柔軟な減損判定であるべきという会社側の意見はよく聞く。

しかし、そうした会社の減損判定の妥当性をジャッジする監査法人にとってはどうだろうか?


減損会計について、監査法人時代、ある先輩に次のようなことを言われたことがある。
会計士が会社に減損処理を求めると、大抵の会社は反発する。顔を真っ赤にして失礼だ!、会社の事業をよく理解していないあなたに何故当社の事業がダメだと判断できるのか!、と。しかし、会計士にそんな指摘をされること自体恥ずかしいと思って欲しいよ、と。

減損の会計基準では、概ね2年程度の継続的な損益やキャッシュフローの赤字の場合に減損が必要とされる。会計基準だから、会社の事業をよく理解していないからこそ、それだけの猶予を見ているとも言える。
2年も赤字を垂れ流しておいて、何も異常を感じてないのか、対策を講じていないのか、ということだ。


つまり、会社の業績管理から見れば、減損の会計基準など相当に緩いはずで、監査法人から指摘されるまでもなく、会社はもっと早期に店舗の業績の悪化を察知し、対策を実施しているはずだ。また、そうであれば、結果として減損の判定に該当する店舗は無い(既に、業績回復するか閉店しているので)。
監査法人の指摘に対して、2年で減損なんてルールが厳しすぎる!と顔を真っ赤にして怒る会社ほど、不採算店舗に対する対策はというと、

もう少し状況を静観したい

業績回復するように頑張る

といった具体性の無い精神論的な意見しか得られないということも少なくなかった。

 

ところで、減損の会計基準には、店舗損益は本社費等の配賦後で評価すると明記されている。

先ほど業績には複数の考え方があると書いたが、理屈はそうだが実際には会計基準で1つに決められている。これは何故なのか?


先述のように、本来は会社の事業等の実態に応じた減損判定であるべきだが、いかんせん、実態に応じた会社の方針が明確でないことが少なくない。例えば、何年を継続的な損益悪化と考えるかについても、会計基準の2年という意見に対して、それは短い、実態を反映していない、と反論はあるが、会社側からの合理的な根拠に基づく具体的な年数の提示が無いことが少なくない。

理論対理論であるべきなのだが、理論対浪花節では議論の余地がない。


減損の会計基準が画一的なルール設定になっているのは、こうした状況を考慮して、その場しのぎの都合の良い理屈よる減損処理の先送り、つまり会社の意図によって損失が将来に繰り延べられる弊害を重視した結果だろう。

監査法人も減損に対してはかなり厳しいというか画一的な対応のように思える。とにかく減損を先行、取得後間もない固定資産の減損、未稼働の固定資産の減損といった例もあった・・・

 

固定資産の減損それ自体は会計処理であるが、本質的には、会社が投資した事業が計画通りに進捗しているかどうかを評価する1つの視点であり、まさに経営管理そのものだ。

 

梅の花での減損逃れも根本的には、(出退店の)経営判断と(減損)会計処理を別個と認識している点にあるように思う。そのような会社は少なくないのではないだろうか?

 

経営者が減損判定は単に会計処理の問題ではなく、会社の業績管理や投資意思決定のプロセスの一部との認識を持ち、減損判定プロセスを経営管理の仕組みに取り入れることが、杓子定規な減損判定から脱却し、結果として事業の実態に即した減損の会計基準につながるようにも思う。