溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

のれん非償却が日本に飛び火!?

www.nikkei.com

M&A(合併・買収)で生じる「のれん」の定期償却を今後も続けるべきかどうか。日本で会計ルールを見直す議論がにわかに盛り上がっている。

「日本としてどうすべきか、考える時がきた」。金融庁が4月7日に開いた企業会計審議会総会では、議題の国際会計基準への対応」について、委員からこんなコメントが出た。」

 

とのことだ。

 

きっかけは、国際会計基準IFRS)を作る国際会計基準審議会(IASB)が昨年2022年11月に償却を見送り、従来の非償却路線を維持したことだ。のれんの償却を巡っては以前から議論があり、日本は海外にも償却の妥当性を主張してきた。米国では、加熱するM&Aによるのれんの増大を懸念する声が高まり償却に傾いていたが、昨年6月に一転、議論を停止したとのことだ。

紆余曲折を経て、IFRSではのれんの非償却が継続することになった。こうなると当分は変わることはない。では、日本はどうするのか?ということで、議論は日本に飛び火したという記事だ。

 

今度日本で、償却か非償却かを巡る論争が盛り上げってくるのかもしれないが、個人的にはどっちでも良いと考えている。そもそも、会計処理で会社の実態は変わらないからだ。会計の専門家が何を!?と驚かれるかも知れないが、所詮は会計に過ぎない。もちろん、されど会計でもあるし、決してないがしろにしているわけではない。ただ、そこまで大騒ぎする話でもないように思う。

 

会計、とりわけ財務会計の目的は、決算日時点における企業の財政状態と経営成績を、外部の利害関係者に開示・報告することだ。そして、当然、会社の業績等を「正しく」伝えることが期待される。しかし、その正しさは相対的なものだ。それぞれが「これこそが正しい」と別々の会計処理をするよりは、同じ処理をすることで企業間の財務数値の比較を容易にすることも重要だ。そういう意味では、個人的には、事ここに及んでは、日本基準ものれんの非償却に舵を切ることは有りだと考える。

 

そもそも、のれんの償却、非償却のどっちが理論的に正しいかは永遠に結論は出ないだろう。償却の立場から見れば、のれん(=超過収益力)は将来の収益の原価であるから、将来の収益に対応させるため償却すべきとなる。P/L重視の考え方だ。一方、非償却の立場は、のれんの価値が維持されているか、棄損しているか(棄損すれば減損)というB/S重視の考え方だ。それぞれ別個に処理できれば良いのだろうが、幸か不幸かB/SとP/Lと互いに関係しているので、そうもいかない・・・

つまり、両方の立場を満足させる会計処理は無いということだ。これも相対的な正しさの範疇に入るのだろうが、結局は、多数決、あるいは”決め”の問題とならざるを得ない。

 

したがって、ルールはともかく、会社としては、P/Lの話をするのか、B/Sの説明をするのかの目的に応じて、両方の会計処理に基づく説明をすれば良いのではないかと考える。いわゆるnon-GAAP情報と言うやつだ。

 

non-GAAP情報についてはこちら☟

tesmmi.hatenablog.com

 

法定の決算資料は会計ルールに基づく必要があるが、決算説明資料やIR情報などでは投資家等に対してnon-GAAP情報を活用する会社もある。ルールは1つに決める必要があるが、数多ある会社の全てにルールがフィットするとは限らない。会社の状況を投資家等へ分かりやすく伝えるためには、ルールに基づかない情報が有用な場合もあるだろう。

会計処理によって、数字の”見え方”は変わるが、会社の実態が変わるわけではない。のれんに関して言えば、既に買収時にキャッシュは支出済みであり、償却するしないによって(P/Lの利益は変わるが)企業価値には何ら影響を与えない。

やはりリテラシーの問題なのか、こうした理解が進めば会計ルールによる”損得”的な議論も無くなるように思う。

 

損得と言う意味では、のれんの非償却によって、定期償却は無くなるため当面の利益は大きくなるが、減損リスクを将来へキャリーオーバーすることにもなる。で、IFRSの方が日本基準よりも早期に減損処理が必要になる。どっちが得なんだろう・・・