溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

IFRS導入100社超へ その目的と背景


国際会計基準100社超へ 2年で4倍、海外M&A円滑に :日本経済新聞

 

3/3/2015 日経朝刊から

 

国際会計基準(IFRS)を採用する企業が急増している。JXホールディングスや日本電産など主要企業が相次ぎ検討に着手。2013年末に25社だった採用企業(予定を含む)は今年2月時点で85社に増えた。年内にも100社を超す見通しで、主要企業の標準になる可能性が出てきた。』

 国際基準を適用する企業の時価総額は全上場企業の約2割を占める見込みとし、その理由として、

『ここにきて採用企業が増えている背景には、日本企業によるグローバルなM&A(合併・買収)の動きが活発になっていることがある。』

記事では、IFRSを採用する理由として3つ挙げている。

①海外事業が主力に

②海外拠点の管理しやすく

③買収で費用負担が巨額に

 

①②は、対外的にも対内的にもグループ全体のものさし、尺度を統一することを目的としている。②は社内評価のベースとなる業績の作成基準を統一するということだろう。例えるならば、世界の多数の国に事業展開している会社が社内共通語を『英語』に統一するようなものだ。日本の会社なら日本語に統一するのが筋と言えば筋であるが、諸外国に日本語を習得させるよりも英語の方が”早い”ということだ。会計基準についても同様、会計基準としてどれがベストか、という議論はあろうが、ここではどれであろうとグループ内での尺度の統一が優先されたということだろう。また、尺度の統一によって他拠点での事業活動の見える化にも役立つ。尺度が異なると、何が不明点があっても『あそこはもともとウチと違うから』と追及すべき違いをスルーしてしまうことにもつながる。

 

③は、『日本基準では買収額から企業の資産価値を差し引いた「のれん代」を毎期、費用として計上しなくてはならないが、国際会計基準では買収した企業の資産価値が大きく下がったときだけ「のれん代」を損失として計上すればよい。M&Aを積極展開する企業にとっては毎期の費用計上が不要になる分、利益が目減りしにくくなる面がある』と記事にはある。

これはどうなんだろうか。短期目線では償却費負担を免れることで利益創出につながるが、未来永劫、のれんの価値が既存しないという保証はなく、将来におけるのれん減損のリスクを先送りすることにもなりかねない。

 

また、ここへ来てIFRSを採用する会社が増えてきている要因として、徐々にIFRSの実務がこなれてきたこともあると思う。

IFRSは『原則主義』と言われ、会計処理についての細かいルールは設けず基本的な考え方だけを示し、具体的な処理は会社と会計監査人で協議して決めることとしている。例えば、減価償却方法1つをとっても、『償却方法は、将来的な資産の経済的便益の消費パターンを反映したものを採用しなければならない』とされている。経済的便益?消費パターン?って何?というタームの理解もさることながら、どうやって消費パターンを確認するのか?という問題もある。日本基準のようにルール上用意されている定額法、定率法等の償却方法から任意に選択してよいのではなく、『なぜそれが適当なのか』の理屈が必要になる(これを強く言い過ぎたのも理由のような気もするが・・・)。しかしながら『経済的価値の消費パターン』すなわち、使用によって固定資産の価値がどのように下落していくのか、を合理的に説明するのは容易ではない。IFRSの採用を考える会社も、そして、会計事務所などのIFRS導入アドバイザーも、後になって自分たちの判断をNOと言われるのではないか、と戦々恐々と過剰な議論に時間を費やしたように写る。この点が、IFRSの採用を躊躇する一因のように思える。IFRS先駆者の実務経験が徐々に蓄積していくにつれ、『あの問題はこう理屈をつければ良い』という暗黙の了解が得られてきたということも影響しているように思う。