溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

繰延税金資産の計上ルール変更は会社にとって得なのか?

www.nikkei.com

『日本の会計基準を作る企業会計基準委員会(ASBJ)は26日、企業にとって税金の前払いにあたる「繰り延べ税金資産」の計上ルールの見直し案を公表した。』

3月決算の会社であれば、当期(2017年3月期)から適用可能で、来期から強制適用の見込み。

 

ざっくり何がどう変わるのかというと、

『業績が不安定だったり、将来十分な利益が出ないと見込まれたりする企業は、将来の収益見通しを説明できれば、前払いした税金がより多く戻ってくると見積もり、同資産を計上できるようになる。』

ということで、これまでは実務上、繰延税金資産として認められなかった部分についても繰延税金資産として認められる余地が増えたということで、新しく認められる部分が純資産に上積みされることにより財務体質が改善することに繋がる

 

そもそも、繰延税金資産企業会計上の費用の認識タイミングと法人税法上の費用の認識タイミングが異なることが発生の原因だ。

例えば、企業会計ルールでは固定資産の減損100を今年費用として処理しても、法人税法では実際にその資産を処分してその損失が確定しないと費用として認めない

つまり、法人税企業会計の減損(費用)が無かったものとしてその分利益を嵩上げされて税率(例35%)が掛けて支払税金が計算される。会社からすれば発生した費用(減損)100に対しても35%課税されたようなもので、これが税金の前払と言われる所以だ(繰延税金資産 100*35%=35)。このタイミングの差異は、固定資産の実際の処分等で減損100が法人税も費用として認める時点(もっともこの時は処分損になるが)で解消される。

 

では、このタイミングの差を将来何年先まで認めるのか?という点が今回のルール変更の内容

例えば、上記減損100の対象となった固定資産を6年後に処分すると考えた場合、従来の実務上のルールでは、会社の過去の業績等によっては『それはいささか将来過ぎます。貴社の業績では6年先など安定して利益が挙がっているかどうかは何とも言えません。せいぜい5年先までですね』ということで、繰延税金資産却下となることがあった。ポイントは、減損100を法人税法が費用として認める年度に会社にそれ(この場合は100)以上の利益(課税所得)があることが見込めるかどうかだ。業績が不安定だと、そんな6年も先におたくが確実に100以上の利益を出すなんて言いきれないでしょう?ということで、タイミングの差は5年先まで認めてきた。今回の改正では、一律に5年というのは形式的過ぎではないか、過去の業績は1つの重視すべき指標ではあるが、将来利益を出すかどうかは個社の事業環境や事業計画の妥当性等も含めて個別に判断すべきものと言うスタンスになり、6年目以降のタイミングの差も実態判断として繰延税金資産と認められることになる、というものだ。

 

仮に、従来将来過ぎるということで却下されてきた減損が100あり、これが今回実態判断で繰延税金資産に認定されるとすると、

会計処理

借)繰延税金資産 35*  貸)期首剰余金** 35

*減損100×35%

**純資産の一部。ルール変更一年目は前期までの決算の修正という意味。日経記事に『会計上、自己資本が増えて財務体質が改善したようにみえる。利益には影響しない。』とあるのは、1年目の処理を想定していると思われる。

 

つまり、利益剰余金が増えることになるため、純資産増加⇒純資産比率上昇⇒財務体質改善、ということなのだろう。

 

ところで、今回の改正は、会社の財務体質を改善よくみせようという趣旨のルール改正ということではなくて、IFRSへのコンバージェンス、つまり、会計ルールの国際化への調和という観点から日本の現行ルールを変更するものだ。

 

IFRSを採用する会社にとってはIFRSと日本の会計ルールが一本化されることは二重処理を避けるという意味でウェルカムだろうが、そうでない多くの会社にとっては今回のルール変更によって『よし来た!今まで認定されなかった繰延税金資産をバンバン計上するぞ!』とはならず、実務上の運用は従来とさほど変わらないのではないのかと思うのだが・・・