減損損失の季節がやってきた・・・【トクヤマの例】
『トクヤマは29日に発表した2015年4~12月期連結決算で、マレーシアでの多結晶シリコン事業の減損損失1234億円を計上した。価格下落で当初の投資回収が見込めなくなった。140億円の黒字を予想していた16年3月期の最終損益(前期は653億円の赤字)を1030億円の赤字に下方修正した。』
『4~12月期の最終損益は1158億円の赤字(前年同期は788億円の赤字)となり、自己資本比率は10%強まで低下した。』
トクヤマがマレーシアのプラントの減損損失(1,234億円)で、通期赤字(1,030億円)、また純資産比率も1/29付の第3Qの決算発表では12.6%に下落した。
社長交代後、順調に回復してきているかに思えた最中の発表だ。
マレーシアの第2期プラントが、順調に稼動したとしても製品価格の下落により採算が採れないことが要因とのことだ。
資産の減損会計では、工場、プラントなどが対象となることが多い。会計上では、建物や機械装置(製造設備)が該当する。
減損損失が計上されるタイミングはというと、会社が一斉に減損損失を計上するような『減損損失の日』が決まっているわけではない。
ルール上は、資産の減損の『兆候』が認識される場合に、『都度』認識することになっている。
そして、減損の兆候として
①資産または資産グループが使用されている営業活動から生ずる損益またはキャッシュフローが継続して赤字となっているか、あるいは、継続して赤字となる見込みであること
②資産または資産グループの使用されている範囲または方法について、当該資産または資産グループの回収可能価額を著しく低下させるような変化が生じたか、あるいは生ずる見込みであること
③資産または資産グループが使用されている事業に関連して、経営環境が著しく悪化したかまたは悪化する見込みであること
④資産または資産グループの市場価格の下落
が例示されている。
③と④は、リーマンショックのような景気を著しく後退させるような出来事が起きて事業がひどく影響を受けた、とか、土地の時価が著しく下落したといったような、まさにそういったイベントがあった時点、ということになる。
一方、①などは、事業がだんだんと儲からなくなってきて、ついにここ最近赤字傾向になってきた、そして今後も回復する見込みが乏しい、といった『状況』がトリガーになる。
ただし、そのような業績が悪化した状況というのは継続しているので、それをどこで『ここで減損!』と判断するのかがなかなか厄介な問題となる。
経営者としては、減損損失という特別損失を計上して赤字決算にするという数字的なことももちろん意識するが、同時に減損損失=事業の撤退をある意味、示唆することになるため社内事情もあってなかなか線引きが難しい。
そんな中、会計監査との絡みもあって、来期の計画が達成できなかったら(達成できないことが見えたら)、というタイミングで線引きをすることが実務上少なくないように思う。
ということで、第3Qの業績が確定するこの時期から3月中(3月決算の場合)が経営サイドが減損の意思決定をする期間になることが多い。海外子会社は12月決算とする会社であれば親会社の第3Qでは業績が確定しているのでなおさらとなる。
これからの季節、減損損失による特別損失を発表する会社が増えてくると思われるので注意が必要だ。
ところで、トクヤマは、
『11年にマレーシアの2つのプラントへの投資を開始し、これまで2000億円以上を投資してきた。半導体向けの多結晶シリコン製造プラントの品質が安定せず、前期は748億円の減損損失を計上した。』
前期にもマレーシアの工場の減損損失を748億円計上している。この内建設仮勘定の減損が691億円と言う。未だ稼動前の第1期プラントを減損した。稼動前の資産を減損するのはなかなか珍しい事例だ。
これにより、純資産比率も41%⇒30%に悪化した。今回の減損と合わせてマレーシア関連で実に2,000億円、まさに投資額がまるまる損失ということで、利益剰余金もマイナス 765億円となった。これまで稼いできた利益が吹っ飛んだことになる…
市況の変動が激しい事業への長期投資の怖さを思いさらされた気がする。