溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

だったら、AIに会計監査を代わってもらえば?

 

www.nikkei.com

『大手監査法人人工知能(AI)を活用した会計監査が広がっている。監査法人トーマツは財務情報などを自動分析するAIシステムの分析件数を2割増やす。EY新日本監査法人も会計の異常値を検出するシステムを導入した。大企業の会計不祥事が相次ぎ、監査の信頼性向上が課題となるなか、AIの導入で不正を発見しやすくする。業務効率化で会計士不足に対応する狙いもある。』

 

AIの進化によって駆逐される仕事の代表に会計士(会計監査)が挙げられる。

賛否はあろうが、AIがやった方が速く正確でコストも安いのならば、一刻も早くAIに進化してもらいたいと個人的には思う。

担い手が不足(なり手が減少)する不人気な仕事を無理に続ける必要はない

(それも一般に難関と言われる試験をクリアしてまで)。

 

f:id:tesmmi:20180911225204j:plain

 

確かに、会社の取引規模が大きくなると会計監査でサンプリングする取引数も膨大になる。数を熟してナンボの仕事は自動化した方が効率的だし、記事が言うように、

『2017年度は1300件強だった分析数を、今年度は2割増やす。データを専門的に扱うデータサイエンティストも増員する。「会計士が専門的な業務に集中できるようになる」』

というのも表面的には理解できる。

 

しかし敢えて問いたいのは、

 

会計士が集中すべき専門的な業務って何?

 

定型業務は自動化して、人間(会計士)ならではの専門的な業務へ集中、

耳障りは良いが、一体どんな業務を言っているのだろうか?

 

AIが検出した怪しそうな取引を関連証票から検証して、不正を暴く、ことを意味しているのだろうか?

会計監査は、不正を暴くというより批判的機能(会計処理の間違いを指摘)と指導的機能(間違いを正すように会社を指導)だが、それを意味しているのだろうか。

 

だとすると、

 

無理だね(たぶん)

 

もちろん、AIが膨大な取引の中から会計処理の間違いや不正、いわゆる不適切会計処理を検知するかもしれない。その可能性は大いにある。

 

しかし、会計監査で問題になる、つまり不適正意見の原因となるような間違いや不適切会計処理は質もさることながら量、金額的な重要性も考慮される。

ちりも積もれば山となるように、細かい間違い等を積み上げた結果それなりの金額になることはあろうが、昨今、不適切会計処理で問題となった会社の例を見れば明らかなように問題はそういうレベルではない。

人力では発見できないような細かい不適切会計処理の話をしているのでなく、もっとデカい話でしょう、問題は。

仮に手口が巧妙であるなど発生直後はタイムリーに(発見)指摘できなかったとしても、意図した不適切会計処理は継続的に行われる

しかも、その金額は累積的に大きくなる。


つまり、そんな大きな問題ならAIでなくても気づくだろうし、AIの助けを借りないと集中できない業務ではない。

 

問題は、不適切会計処理を発見しても、会社に指摘できなかったり、指摘しても修正等させるように指導できなかったりする環境ではないだろうか。

 

巷では、監査対象の会社から直接監査報酬を得ているから適切な指摘ができない等、そもそもの会計監査制度の欠陥を指摘される。

それも確かに一因だろうが、それだけでもない。

会社から監査報酬を得ているといっても、会社を窓口として得ているのであって経営者から得ているわけではないから『会社』に遠慮する必要はないのだけど・・・

 

ぶっちゃけ、会社も、そして当の会計士自身も

会計監査を重視していない

ことが根幹のように思う(この点は深いのでまた次の機会にでも)。

 

取引発生の事前に会社に相談されない時点で

会計監査は失敗

だと思う。

会社が質的にも金額的にも大きな取引を為そうとする場合、当然その後会計処理の話になり決算数値へ影響するのだから、会社の想定通りで問題ないか監査法人へ照会するだろう、普通。そうしないということは、会社は少なくともそうするだけの重要性を感じていないということだろう。

であれば、そんな相手から間違いだと指摘されたとしても反応は言わずもがなだ。

 

会社(経営者)と監査法人の関係を改善しないことには、

会計士が専門的な業務に集中しても根本的な解決にはならないと思う

 

例えば、

AIが指摘したら事態は変わるのだろうか?

 

だったら、一部と言わずに会計監査の全部をAIに代わってもらいたいものだ。

 

ちなみに・・・

以前は(と言ってもそんなに昔でない)は、会社(経営者)と監査法人が『良い』関係を築いていた例が多くあったと思う。経営者と堂々とやり合っている先輩会計士を見て憧れたものだ。経営者にとって担当の会計士(パートナー)は耳の痛いことを言われる存在ではあるが、それでも会社や自身にとって必要な存在だという認識が感じられた。経営者と会計士が互いにリスペクトする環境だったから、我々は会社(クライアント)の方々からも多くを学ばせてもらい、会計の専門家としてだけでなく社会人として成長することができたと思う。そうした環境で得た知見をクライアントたる会社に提供し、お互いが学び高めあう関係、そんなに難しいことだろうか・・・