『国際会計基準(IFRS)を策定する国際会計基準審議会(IASB)が、企業買収を巡る会計処理の見直しに着手したことが明らかになった。買収代金のうち相手企業の純資産を超えて支払った「のれん」と呼ぶ部分について、費用計上義務付けの議論を始め、2021年にも結論を出す。』
大型のM&A(合併・買収)が相次ぎ、企業財務への影響が強まっていることを背景に、IFRSでのれん償却の議論が進んでいるとの報道だ。
のれんについては、過去何度も当ブログでも取り上げているが、のれんの償却については、
日本基準(償却)対 IFRS、米国(非償却)
と会計ルールの相違がある。
どっちが有利不利と言うことではなくて、考え方の問題なのだけど、一般的には(そして残念なことに一部の専門家でも)メリデメの発想で語られることが多い。
現在、IFRSで進行するのれんの償却の是非論も、どうやらそういった事情がありそうだ。
日本では最長20年で償却し、費用として処理するが、IFRSではのれんの償却は不要な一方、買収先企業の財務が悪化した際などにのれんの価値を一気に引き下げる
減損損失の計上が必要になる。
こんな指摘があるという。
『巨額の減損損失を突然公表するケースもあり、
投資家から分かりにくさを指摘されてきた。』
何を今さら・・・
IFRS以前、欧州各国ものれんは償却していた。
ところが、企業買収(M&A)が多くなり、のれんが多額に上ると
毎期の償却負担に耐えられないということで非償却にした経緯がある。
で、今度はのれんが積み上がると、減損により『欧州中心に広がるIFRS採用企業には業績の下押し要因となる。』
か・・・
ご都合主義 だなあ・・・
事情知らない人にとっては真面目な議論に映るのだろうか・・・
IASBのフーガーホースト議長はインタビューで、現在のIFRSののれんの会計処理に関する問題点として、
『減損損失を巡る企業の判断が「楽観的になりやすい」うえ、計上のタイミングも「遅すぎる」』と指摘したとのこと。
そんなのは、会計ルールの問題点ではなくて運用の問題だ。
B/Sを重視すればP/Lが悪化するし、P/Lを中心に考えればB/Sへ皺寄せが起こる。
どんなルールだって万能ではないし、テーマに対するメリットをベースに設定して、想起されるデメリットは運用でケアするものだろう。
しかし、この問題は欧州に限った話ではない。
日本でも既に武田薬品工業、三菱重工業、ソフトバンクグループなど大企業を中心に100社超が導入している。 時価総額では、今や1/4がIFRS適用会社だ。
『17年度時点で国内IFRS導入企業(約160社)は約14兆円、欧州の主要600社は240兆円ののれんを抱える。仮に20年間の定期償却が導入されると、日欧合計で年間13兆円の減益要因が生じる計算になる。』
中国では主要100社で約10兆円、大型M&Aが活発な米国ではのれんは主要500社で340兆円にのぼる、とのことだ。
IFRSの対応によっては中国や米国企業への影響もあるだろう。
そんな環境で、こんな話持ちだしたら
却って混乱を招くだろうに・・・
と思っていたら、早速、日本の株式市場ではこんな影響が出ているようだ。
株価が全面高の中でソフトバンク株が安く推移
『IFRS採用のソフトバンクが抱えるのれんは4.3兆円と日本企業で最大。仮に20年で定額償却することになれば、ソフトバンクの営業利益を
毎年2000億円強押し下げる。』
最近はやりのP/L脳ではないが、P/Lだけを見れば確かにマイナスの影響はある。
しかし、記事にもあるが、株価(理論株価)は将来の会社の稼ぎ(フリーキャッシュフロー)をベースに算定される。
のれんの代金は企業買収(M&A)時に既に支払済みだ。つまり、のれんを償却しようが、減損しようが、
将来の稼ぎには一切影響は無い。
(なお、税務上ののれん(資産/負債調整勘定)は会計処理によらず5年償却となるので、会計上ののれんを償却しようが減損しようが税額に与える差異もない。)
のれんの償却という会計処理の点に限れば、ソフトバンクの株価(企業価値)にはニュートラル、影響はない。にもかかわらず、実際に株価が下がるのはなぜか?
誤解した人たち(あるいはそれを見越した人たち)がソフトバンク株を売却するからだ。記事はこの点を指摘しているのだが、ということは、逆に思わぬ安値でソフトバンク株を取得することができるということでもある・・・
何時の時代も、無知な者がカモられる。
良い悪いは別として、
時代は変わる、ビジネスも変わる、ルールも変わる
目的は何か、どこに影響が出るか、変わらないのは何か、
どう対応すべきか
常に考えるようにしたい。