溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

社外取締役がROEを改善する!?

社外取の活用道半ば? 3分の1関係なくROE6.5%前後: 日本経済新聞

 ドタバタしている間に、前回のブログから少し期間が経過してしまった・・・

 

5/29日経朝刊にちょっと気になる記事が掲載されていた。

 

シリーズ「攻防 企業統治

東レ東京ガスなどの事例もあって参考になる。

5回目となる記事は、社外取締役企業価値向上に対する貢献度について。

社外取締役の成果が思ったように出ていない、という内容だ。

 

具体的には、取締役会に占める社外取締役の割合等によるROEの数値比較を示している。

記事にもあるが、来月改定を予定している企業統治指針(CGコード)では、プライム市場の企業には取締役会の1/3以上の独立社外取締役を要求する。ということは、社外取締役が増えることは会社にとって良いこととなるわけだが、何にとって良いのか、がモヤっとしているような気がする。

 

f:id:tesmmi:20210529181305p:plain

日経新聞朝刊5/28’21より

 

数値からは、特に社外取締役ROEに対する優位性は見られない。

なお、別の記事では、直近5年の社外取締役人数の変化とROEの関係を示した図が掲載されていた。こちらもさほどというか、全く違いを感じない。

 

f:id:tesmmi:20210529181305p:plain

日経新聞デジタル5/28’21より


個人的には、この結果に対して驚きは全くない。

2015年、CGコードが導入された時などにも過去ブログで書いたが、社外取締役が会社の業績アップをもたらすといったアベノミクス「攻めのガバナンス」は普通は期待しにくいのではないか。むしろ、社外取締役を導入して業績が飛躍的に上がったという会社があれば是非知りたいので教えて欲しい。

月に1度や2度、数時間関与するだけでバンバン業績がアップしました~となるのであれば、社内取締役の皆さんは、いったい何をしているんですか?となるのではなかろうか。社外取締役の出身企業や業界の知見を活かしたM&Aの推進や新事業の設立といったケースは考えらるが、それであれば別に取締役という立場である必要はないと思う。

 

とはいえ、記事には

「小売業や中小企業では、社外取導入が企業価値向上に貢献したとの研究もある。」

とのことなので、全く効果が無いわけではなさそうだ。

 

個人的には、社外取締役によるROEの改善効果は端から期待していなかったので驚きはしなかったが、こちらは少し気になった。

 

経済産業省は19~20年、東証1部・2部上場企業の社外取締役のべ7062人を対象に調査を実施した。社外取の発言や質問で決議案件が再検討・修正されたことがあるかを聞いたところ、4割が「ない」と答えた。」

再検討・修正の6割をどう見るか、だ。あるいは、再検討・修正「無し」4割を多いとみるか、少ないとみるか、だ。

個人的には、もっと再検討・修正があっても良いのかなと思う。取締役会の決議事項(関連資料含む)に再検討・修正が全くないということは、良く解釈すれば、会社の意思決定プロセスに全く問題が無い、ということになる。それはとても望ましいことなのだが、そうであれば、そもそも社外取締役を取締役に入れろ、ということにもならないのではないかと思うのだ。

社外取締役の存在意義は「守りのガバナンス」、本来のガバナンスだ。
CGコードにおいては、社外取締役の期待役割は、
・経営の方針や経営改善について、自らの知見に基づき、会社の持続的な成長を促し中長期的な企業価値の向上を図る、との観点からの助言を行うこと
・経営陣幹部の選解任その他の取締役会の重要な意思決定を通じ、経営の監督を行うこと
会社と経営陣・支配株主等との間の利益相反を監督すること
・経営陣・支配株主から独立した立場で、少数株主をはじめとするステークホルダーの意見を取締役会に適切に反映させること
としている。
最初の企業価値の向上はともかく、一般常識的(+専門的)な見地から一般少数株主の代表として、代表取締役を始めとする社内取締役の暴走を阻止し、会社の経営をあるべき方向へ促す役割だ。再検討・修正6割という数字は、果たしてそれが期待通りに発揮されているということなのだろうか?それとも、お友達内閣、あるいは、「要らんこと言うなよ!」という無言(たまに有言)の圧力の結果なのだろうか?
 
もっとも、決議の再検討、修正があったからと言って、それが即座にROEの改善につながるとも限らない。車の運転する際に、シートベルトをすれば即座に事故率が下がるかというのと同じことだと思う。ガバナンスはそういうことではないだろう。とはいえ、長期的に考えれば、やはり不合理で強引な意思決定プロセスよりも、合理的で慎重なプロセスの方が、意思決定の精度は高まると考える。