溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

新年度に入っても気が抜けない後発事象とは? 【三菱自動車の例】

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燃費不正の問題が発生したタイミングでこうなるだろうな、とは思ったが、

やはり、その通りの展開となった。

 

三菱自動車が、昨日の5月25日に先月4月27日に発表した2016年3月期の業績発表数値修正すると発表した。

燃費試験データの不正に関して発生が見込まれる損失約191億円を特別損失として追加計上するということだ。

三菱自動車から燃費試験の不正についての発表があったのは2016年3月期の終了後の4月20日だ。時系列としては、2016年3月期が終了した後、すなわち2017年3月期に入ってから、ということになる。

 新年度に入ってから発覚した費用をその前の年度(2016年3月期)の決算に取り込まないといけないのだろうか?

このように、決算期末(この場合は2016年3月末)以降に発生した事象の内、会社の決算数値に重大な影響を及ぼすと考えれらる事象『後発事象という。後発事象には、

 

・修正後発事象

・開示後発事象

 

の2種類がある。このうち、修正後発事象は、さかのぼって前期(この場合は2016年3月期)の決算に関連する費用または損失を見積もって反映する必要がある。他方、開示後発事象はその必要はなく、事実と来期以降の決算に及ぼすと見込まれる影響を(2016年3月期の)決算書に注記(投資家等に来期以降の悪影響を注意喚起する意味)する。

後発事象が、修正後発事象か開示後発事象かのいずれに区分されるかは、期末日現在、実質的な原因が存在していたかどうかによる。

 

工場閉鎖を例にとると、過去から製品の売り上げが低迷し、工場の稼働率も落ち込み、いよいよ工場閉鎖を新年度の4月に取締役会で決議するような場合、取締役会の決議は4月だが、工場閉鎖の根本的な原因は3月末時点ですでに発生していると考えられる。このような場合は、修正後発事象として取り扱われ、工場の減損損失を3月末決算へ反映する。

他方、これまで順調に稼働してきた工場が4月に入り火災で焼失したなどの突発的な原因による災害損失などは開示後発事象として取り扱われることになる。

 

三菱自動車の場合は、燃費試験の不正は過去から行われており、2016年3月末現在で今回の補償等の損失の原因はすでに発生したとして修正後発事象と判断され、P/Lの特別損失に『燃費試験関連損失』191億円として計上したということだ。

三菱自動車の決算修正発表)

http://www.mitsubishi-motors.com/content/dam/com/ir_jp/pdf/financial/2016/160525-4b.pdf

 

燃費試験関連損失の内容は、燃費データ改ざんに関連するガソリン代の差額、エコカー減税の追加納税分とのことで、対象となる車台数で割ると1台当たり約3万円とのこと。

国による燃費測定が未了の段階であり、また顧客への補償額なども未定なので、あくまで会社の暫定的な見積もりだろう。

 

実は、今回の修正発表の内容を確認すると、財務諸表の注記情報

『当該燃費試験に関連した損失のうち、当連結会計年度末において合理的に見積ることが可能な金額を燃費試験関連損失引当金として計上しておりますが、利害関係者への具体的な補償内容等が決定してないことから、翌連結会計年度以降変動する可能性があります。

と記載されていた。修正後発事象として取り扱うも、関連損失のすべてを金額換算して見積もることが時間的、物理的に難しい場合は、開示後発事象と同様に注記対応となる。今回、特別損失とした191億以外に来期以降追加の損失の可能性が高いということを示唆している。

 

ところで、今回の修正後発事象による決算修正発表は、金商法有価証券報告書)に基づく決算数値についてだが、会社法株主総会招集通知)決算はどうなっているのだろう?

タイミング的にはおそらく会社法決算については会計監査は終了(監査報告書)しているだろうから、会社法決算には191億円の追加損失は反映されていない(開示後発事象として注記)と思われる。株主総会での配当などの決議への影響なども気になるところだ・・・

 

いずれにしても、まだまだ結末には程遠い・・・