前回のブログから結構な時間が経ってしまった・・・
先日、シックスパッドやReFaで有名なMTG社が2019年9月期決算の決算発表の延期を発表した。
『またっ!?』
と思ったのは、同社は2019年9月期の第2Q(3月)も決算発表を延期したからだ。
今回の延期理由は、「会計監査人に対して韓国の取引先の在庫状況に関する通報があり、社内調査をしている」とのことだ。
『あ~やっぱり』と
『何で持ち越したのか?』
というのが率直な感想だ。
決算発表延期の発表後の11/19に、同社は2019年9月期の業績修正(下方修正)を行った。
棚卸資産評価損45億
減損損失87億
の計上により連結業績は、
連結売上高:360億(前期:583億)
連結営業利益:△74億(前期:69億)
連結当期純利益:△76億(前期:69億)
となる見通し。
詳細は☟
https://ssl4.eir-parts.net/doc/7806/tdnet/1772771/00.pdf
今回の業績予想修正の内容を説明する前に、
前回、つまり当第2Qの決算発表延期について説明しておくことにする。
てっきりブログに書いていると思っていたら・・・
すっかり飛ばしていたことに気づいた(汗)
当第2Qの決算発表延期の原因は、「中国の子会社「MTG上海」で
不適切な会計処理が行われていた疑い」だった。
その後、第三者委員会による調査が行われ、2019年7月12日付で第三者委員会による調査報告書が公表された。
https://ssl4.eir-parts.net/doc/7806/tdnet/1731754/00.pdf
不適切な会計処理の背景には、同社の経営理念や意思決定プロセスなどの内部統制やガバナンスの問題もあるのだが、それらの問題は次回、別途に書くことにして、今回は不適切な会計処理の内容に限定して進めることにする。
調査報告書によれば、売上げに関する主な不適切な会計処理を3点指摘している。
①国内輸出代行会社(C社)との中国越境EC向け売上
②上海の代理販売事業会社(A社)への売上
③中国のECサイト運営代行企業(B社)への売上
取引スキームは異なるが、総じて、MTGないしはMTGの上海子会社からA,B,C社への売上は成立してないにも関わらず、MTGが売上を計上し実態よりも
売上、利益を過大に計上していた、というものだ。
同社が2019年7月に公表した過年度の連結決算数値の訂正によれば、金額的影響額は以下のとおり。
かなりの規模の売上が過大計上されていたことが分かる。
では、具体的にどのような点が問題となったのか?
まず、一番規模が大きかったC社向け売上について。
想定の取引スキームは、
MTG⇒C社⇒中国越境EC
ちなみに、今回の不適切会計処理の対象となった主な商品は『ReFa』。
想定通り商品が中国越境ECへ流れれば問題なかったのだが、
実際にはC社で商品が滞留した。
そもそも、C社は輸出代行を担う商社であり、中国のECサイトへの直接の販路はない。当事者間で、中国越境ECサイト運営会社との諸交渉はMTGが行うことになっていたとのことだ。つまり、実際の商品の販売活動はMTGが主体となる。その後の販売も思わしくなく、結果として、C社に販売した商品は、MTGの上海子会社が返品を受けることで合意した。
日本基準では、売上は実現基準にしたがって認識される。
実現基準の要件は、
・財貨の移転又は役務の提供の完了
・対価の成立
この2要件が満たされた時点で売上は認識される。また、財貨の移転の完了は、
所有に伴う重要なリスクと経済価値が移転していること、
が考慮される。
これらの点から改めてC社向け売上取引を見ると、C社へ納品した時点では同在庫に対する販売先の開拓や交渉など依然としてMTGが関与する部分が大きく、ましてや最終的にMTGが当該在庫を引き取るということになれば、実質的に在庫をコントールしているのはMTGと判断される。
したがって、MTGがC社へ販売した時点で一括して売上を認識するのではなく、C社から中国のECサイトへ販売された時点で消化的(段階的)にMTGの売上を認識すべきという判断となる。
A社、B社向け売上の想定取引スキームは、
MTG上海(子会社)⇒A社⇒B社
この取引スキームはそもそもMTG上海とB社の取引だったが、B社が新規取引先であったため、社内規定を満たすために従来取引のあるA社を介在させたというもの。したがって、取引スキームにA社が主体的に関与する経済的合理性はそもそもない。また、上記取引スキームについての三者の合意(契約)も未締結(2019年1月)であることから、当然のごとくA社はB社からの支払いが無いこと理由にMTG上海に対する支払いを行っていない。
日本企業の連結目的のためには、海外子会社は米国基準かIFRSに従って会計処理する必要がある。
IFRSでは、売上が認められる要件の1つに『企業が、顧客に移転する財又はサービスと交換に権利を得ることとなる対価を回収する可能性が高い』ことを挙げている。A社としては、B社への転売を前提として取引スキームに参画したのであり、三者間契約が未締結の状況では、A社は当初から支払期限到来時にMTG上海へ代金を支払う意図はそもそもなかったと判定され、結果、IFRSに従えば、売上の計上は認められない。
B社に対する販売単価は他社に比べて非常に高かった。その理由は、B社の販売活動において実際に発生する運営費用をMTG上海が負担する旨が基本契約で取り決められていたからとのこと。つまり、MTG上海はB社へ販売後の商品に関するマーケティング、販促、ECサイト利用、物流等に係る費用含みでB社への販売価格を設定したということだ。また、こうした状況では、B社の販売先であるECサイトへの販売価格や販売手法についてもMTG上海の意向が強く反映されると考えられる。
IFRSでは、『顧客が資産の所有に伴う重大なリスクと経済価値を有している』ことが実質的な所有権が移転したと考える条件となる。しかし、取引の実態を見れば、商品がB社へ渡った後も引き続き商品に対する重大なリスクと経済価値を有しているのはMTG上海と考えるのが妥当だ。
したがって、B社に対する売上は、商品に対する実質的な支配がB社に移転していない以上、IFRSに従えば、MTG上海は一括売上認識することができない。こちらもC社取引と同様、B社がECサイトを通じて最終顧客へ販売した時点で売上を消化的(段階的)に認識すべきである。
以上、第三者委員会による調査報告書の見解をざっとまとめてみた。
いずれも形式的にはともかく、会計基準に沿って吟味すると、実態としてはMTG及びMTG上海の売上の要件を満たしていないということだ。
こうした実態に即した判定は実は難しい場合もある。会計ルールの要件1つ1つに取引実態を当てはめて検討すると、個別には要件を満たしたり、満たなさなったりするケースもある。
そのような場合、やはり目的、取引の経済合理性が重視される。
MTGは2018年7月に東証マザーズに上場した。2018年9月期は上場後初の決算だ。ここで成長の鈍化を見せたくない。持続的な成長をアピールしたいという経営者の思いに反して中国からのインバウンド需要の急速な減速や中国における新EC法の影響もある中、何とか売上、利益の数字の辻褄合わせをする動機があった。また、社内関連部署間の情報の隠ぺいや監査法人に対する虚偽の報告など意図的な情報操作も調査報告書で指摘されている。
こうした点を踏まえての今回の結論と思われる。
また、売上の認識について、日本基準とIFRSでは要件等の表現が異なる部分があるが、個人的には表現の違いはあれど実質的な違いは無いと理解している。
IFRSの方が日本基準よりも厳しいと思われる傾向があるがそんなことはない。
IFRSでダメなものは日本基準でも
当然ダメ !!
しかし・・・
日本の会計実務は、会計原則を斟酌して取引実態に応じてあるべき会計処理を考えるというよりは、総論賛成、各論反対が如く、取引慣行など現場の都合を重視するがあまり、ともするとあるべき会計処理から乖離することが少なくないように思われる。
会計ルールの順守もコンプライアンスであるという意識が薄いように感じるのは気のせいだろうか・・・