溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

プライムは維持すべきか?【東証新市場区分に思う】

www.nikkei.com

 

東京証券取引所は25日、2022年4月に東証1部などの既存4市場を廃止し、新たに「プライム」など3市場を開設すると発表した。3市場の役割を明確にしたうえで、実質的な最上位市場にあたるプライムの上場基準を厳しくする。企業の質向上を促し、グローバルの投資マネーの呼び込みを狙う。」

 

 (日経新聞朝刊 12/26 ’20)

 

 

「現在の1部、2部、マザーズジャスダックの4市場体制を、「プライム」「スタンダード」「グロース」の3市場に再編する。プライムは海外の機関投資家などが投資対象とするような大企業向けを想定している。上場基準を厳しくし、業績や時価総額などが一定水準以上の企業がそろうようにする。プライムの上場企業には21年に金融庁東証が改定を予定する新たな企業統治指針コーポレートガバナンス・コード)を適用する。外市場と遜色のない基準を企業に求めることで、海外投資家が投資しやすくする。」

東証の市場区分が22年4月から変更となる。

図で見ると、これまでの市場区分の名称変更に思えるが(新興市場は統一)、

実際には、その趣旨からも分かるようにそう単純な話ではない。

その予兆は既に始まっており、11月からマザースから東証1部へ昇格基準が変更され、従来よりも昇格要件が厳しくなった。

 

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日経新聞デジタル11/1’20より


日本経済新聞の調査では、現在のマザーズ上場企業(333社)の内、新基準を満たす企業は、たったの13社だ。

元々、マザーズ東証2部を経由した方が東証1部への直接上場より基準が緩いのは、旧大阪証券取引所などと企業誘致を競っていた経緯があるためだが、現在はそうした国内の市場環境の変化や外国人投資家の要求など環境変化もあってのことだ。

 

また、現在東証1部企業約2,200社のうち、新基準でプライムの要件を満たさない会社が約600社あるという。

 

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日経新聞デジタル12/25’20より

 

上場における市場選択の違いや上場後の業績等の変化により、東証1部企業であっても現時点では業績や時価総額はバラついている。

新規上場基準と上場維持基準が異なることも要因だろう。

例えば、時価総額は新規上場基準は250億円だが、指定替え(1部⇒2部への降格)は20億円未満であり、上場後相当程度時価総額が下落しても1部上場を維持することができる。

新市場区分では、新規上場基準と維持基準に差異を設けないとしており、常に現時点で時価総額流動性)や収益基盤等の面からトップクラスの企業がプライムにカテゴライズされるようにする。

現在の東証1部市場が、海外投資家が売買の多くの割合を占める国際的な市場として、市場の規模や流動性においてはたして世界のトップクラスの市場と言えるのか、という疑問が変更のベースにあるのだろう。

 

新しい市場区分では、東証1部へ直接上場する場合と比べて利益、純資産などの定量的な基準が厳格化される。

中でもオーナー所有や政策保有銘柄を除いた流通時価総額の基準が東証1部基準の10億円以上から100億円以上へ大幅に増加された。

 

(参考:新市場区分の概要等について 2020年2月21日 株式会社東京証券取引所

https://www.jpx.co.jp/equities/improvements/market-structure/nlsgeu000003pd3t-att/nlsgeu000004kjhc.pdf

 

また、定性面では、21年に予定される改訂コーポレートガバナンス・コードへのより厳格な準拠も問われる。

添付の「新市場区分の概要等について」においても、プライム市場は、

より高いガバナンス水準を備え、投資家との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場

としている。

 

外市場との差異縮小も念頭に置いており、プライム市場は事業活動も資金調達もグローバルに展開している会社を対象にしていることは明らかだ。

現在の東証1部企業の中には、会社の成長、成功の証、スゴロクの上がりとして1部上場を果たした企業も少なくなく、上場時はともかく今となってはグローバルな事業活動や資金調達を目指していない会社も一定数あるように思う。

 

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日経新聞デジタル7/29’20より

新市場への移行は22年4月だが、市場の選択はもっと早い。

新市場区分選択の基準日は、来年21年6月末。

時価総額基準を満たしていない会社の中には、「猶予期間中にプライムに残留できる基準をなんとか満たしたい」という会社もあるという。

 

とはいえ、猶予期間はあと半年しかない(市場選択期間は21年12月まで)。

何をどこまで改善できるのだろうか。

例えば、流通株式比率の改善であれば、オーナー家の株式保有に対する考え方やグループ戦略に関わるため、短期間で決定し実行することが果たして可能なのかとの疑問もある。

また、移行基準日において新市場区分の上場維持基準に適合していない場合には、新市場区分の上場維持基準の適合に向けた計画書(上場維持基準計画書)を提出・開示することで、改善までの一定の期間猶予(期間は未定)を得ることができる。しかし、毎年の改善の進捗状況の開示も必要であり、その対応に相応の時間とコストをかける必要があるだろう。 

 

こうした会社にとって、果たしてそこまでプライムへ執着するメリットがあるのだろうか?

誤解の無いように補足すると、プライム市場に価値が無いという意味ではない。

会社によって、市場区分にも向き不向きがあるのではないかという意味だ。

また、そもそも市場区分自体が趣旨とともに見直されるわけであるから、東証1部の会社がそのままプライム市場へ移行することは考えられていない。

むしろ、現在よりも限定する方向なのだろう。ピラミッドの頂点である東証1部企業数が、上場会社全体の6割を占めること自体異常と考えているのかもしれない。

とすれば、会社としても、やみくもにプライムを目指すというよりも、今一度、自社の上場の在り方を考える機会とするべきではないだろうか。

 

もっとも、新市場区分の趣旨は企業の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促すことでもあるから、プライム市場にふさわしい、量的基準と質的基準を満たす会社を目指して改善に取り組む、ということはあるだろう。

しかし、果たしてそれが会社としての最優先課題なのかどうかは考える必要がある。

 

プライムを維持したい東証1部企業の中には、スタンダード市場の選択は要するに

格下げであり、株価も企業の信用力も低下する点をリスクとして捉える企業もあるだろう。

また、1社もプライム市場に残れない業界もあるかもしれない。その場合、業界全体の成長の足かせになるのだろうか・・・

 

現在、多くの上場会社が東証の新市場区分への対応を検討していることと思う。

プライム市場のメリット・デメリットは、まだはっきりしていない点もあり、今後提供される様々な情報に、そして600社の決断に注目していきたい。

 

ここでプライムに残留できないと再度プライムへ挑戦するのはハードルが高い。

だから是が非でも残留すべき

いうのは個人的には懐疑的だ。

市場選択は会社の事業成長の過程における手段であり、目的ではない。

会社としてやるべきことを考え実行することを最優先に考えるべきではないか。

どこにいようと伸びる会社は伸びる、

ど根性大根精神が大切だと思うのだが・・・

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歩道橋下のアスファルトの隙間から生える「ど根性大根」=2020年11月6日、大阪・梅田(提供・共同通信社)より