溝口公認会計士事務所ブログ

京都在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。会計監査、内部監査代行、内部統制の構築・改善業務、IPO支援業務、原価計算制度構築・改善業務、企業価値算定業務等のコンサルティング業務を中心に活動しています。また、グロービス経営大学院大学でアカウンティングとファイナンスの講師活動も行っています。日頃の業務の中で気づいたことをブログに書いていきます。【保有資格】公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、証券アナリスト協会検定会員(CMA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人

賞味期限間近の返品調整引当金について思う・・・

返品調整引当金の存在はもちろん知ってはいたが、担当企業の業種からかこれまで実務でそれほど関りは無かった。

先日、たまたま返品調整引当金の会計処理を確認して、改めて、その

ユニークさに目を奪われた(笑)

 

返品調整引当金の概要についてはこちらを参照して欲しい。

https://globis.jp/article/7040

 

返品調整引当金は、いわゆる返品権付販売をしている場合が対象となる。

こうした商慣習は、医薬品、出版、音楽(CD等)、化粧品・トイレタリーなどの業界に多く見られる。

返品調整引当金は、一旦は販売したが、将来の返品に備え、返品によって取り消されることになる売上総利益引当金として費用処理する。

この利益を直接の調整対象とする点に当初非常に違和感を感じた・・・

 

以下、ざっと会計処理を示す。

 

【設例】

当期に、商品(購入価額:10,000)を15,000で販売した。

過去の実績等から当期販売分の5%が将来返品されると見積もられる。

当期末に、既販売分(代金は全て未回収)に対して5%の返品調整引当金を計上する。

次期になり、前期販売分の内、2%が返品された。

 

【会計処理】

販売時

借)売掛金 15,000 貸)売上 15,000

 

期末

借)返品調整引当金繰入 250 貸)返品調整引当金 250

 (15,000-10,000)*5%

 

返品時

借)返品調整引当金 100 貸)売掛金 300

  仕入      200

 

一連の会計処理について特徴的な点がいくつかある。

・返品を受けても売上を取り消さない点

引当金の対象は売上総利益という点

・返品在庫を仕入として受け入れる点

 

一見奇妙な気もするが、実はこれらは互いに関連しており、全体としてそれなりに辻褄が合っている。

 

売上は、本来、財やサービスの提供が完了し、その対価の獲得(現金ないしは現金同等物)の要件を満たした時点で計上される。厳密にいえば、商品等を引き渡したとしても返品される可能性が高い場合は、売上は計上できない

例えば、買戻条件付販売委託販売などは商品が得意先の手元に渡っても売上とはならない。

ところが、返品権付販売においては、得意先へ渡った商品の全額が売上となる。これは、得意先に返品権は付与されているものの、過去の実績等から返品されるのは販売した分の一部に過ぎない。したがって、(既に計上された)売上の『大勢に影響はない』。したがって、売上を修正するに及ばすということだろう。

 

この点は、貸倒引当金も同様だ。貸倒引当金は、将来の代金回収が不能と見積もられる部分に対して費用(販管費)を計上するが、売上自体は修正しない。販売取引と代金回収取引は別の取引であり、代金が回収できなくても販売自体は成立しているとの見解もあるが、厳密に言えば、代金が回収できないということは結果として売上の実現要件を満たしていないと言える。

しかし、貸倒引当金も返品調整引当金も、回収不能や返品は売上全体の極わずかであって会社の売上全体に及ぼす影響は軽微であること、また、確定決算主義ではないが、過去の確定した売上高を修正に対する抵抗感もその理由かもしれない。

売上高は修正しない代わりに回収不能や返品による逸失利益を『事前に』処理する、つまり、将来のリスクを利益に反映するということなのだろう。この点は、割賦販売も同様だ。

 

一方で、売掛金棚卸資産のようなB/S項目はそうはいかない。

B/S項目は繰り越されるため、P/Lのようにリフレッシュスタートはできない。

そこで、返品による売掛金の減額や棚卸資産の増加については、

『新しい』取引として認識する。

返品による棚卸資産の増加を仕入とするのはそういうことだろう。

 

かくして、返品時の、

 

借)返品調整引当金 100 貸)売掛金 300

  仕入      200

 

という、まさに真骨頂というべき会計処理会計処理が成立することになる

(というか、帳尻を合わせている)。

 

なお、当期の売上が返品される場合、つまり返品調整引当金が設定されていない場合は、以下のようになる。

 

【設例】

当期中に販売した商品の内600(売上高1,000)が返品された。

 

【会計処理】

売上の返品

借)売上高 1,000 貸)売掛金 1,000

原価の戻し入れ

借)仕入    600 貸)売上原価  600

 

なお、参考に仮に同額が次期以降返品されると見積もられ返品調整引当金が設定される場合は以下となる。

 

【会計処理】 

借)返品調整引当金繰入 400 貸)返品調整引当金 400

 

何と、この場合は売上の取消の会計処理をする。売上取消しも返品調整引当金利益に対する影響は不変だが、売上高の金額が変わる。   

 

返品割合の売上高に対する割合がどの程度までであれば返品調整引当金の対象となるのか(売上の取り消しは不要なのか)の明確な基準はない。出版業界などでは、販売の約4割が返品されるという。こうなると、そもそも売上の認識自体が妥当なのかといぶかってしまう。

 

また、返品のタイミングによって会計処理が異なる。

利益に対する影響は無いといっても、重視されるべき会計情報は利益だけではないだろう。むしろ、売上高の規模の方が会社の信用力を判断する上では一般的に重視されているのではないだろうか?

とすれば、むしろ売上高情報を歪曲させることになりはしないだろうか・・・

 

全くもって、 

売上高を重視しているのか、軽視しているのかよく分からない話

だ。

 

実務上の妥協の産物という運用がされてきたとも思えるが、もともと変な会計処理だったわけである(個人的には、利益を直接調整するのが気色悪かった)。

 

だからという訳ではないが、2021年以降適用される『収益認識に関する会計基準』により返品調整引当金は廃止されることになる。

 

ちなみに、先ほどの設例を使えば、会計処理は以下のようになる。

売上15,000(原価10,000)の内、5%は将来の返品が見込まれる場合、

 

【会計処理】

借)売掛金 15,000 貸)売上高 14,250

            返品負債  750

返品負債:15,000*5%

 

また、原価部分については、

借)売上原価 9,500 貸)商品 10,000

  返品資産  500

返品資産:10,000*5%

 

将来の返品を見積る方法や計算される利益は返品調整引当金の場合と同じと考えてよいが、新会計基準では将来の返品リスクはそもそも売上として計上しない

 

 

『収益認識に関する会計基準』の中には複雑や煩雑な会計処理を要するものもあるが、殊、返品調整引当金に関してはすっきりと分かりやすい会計処理への改正と言えるのではないだろうか。

 

なお、法人税法上は、既に平成30年度税制改正で返品調整引当金は廃止(経過措置はあり)となった。