興味深い記事だ。
『クレジットカードで支払ったり、電子商取引(EC)サイトで買い物をするとたまるポイント。このポイントを投資信託や株式などに投資できるサービスが相次いで登場している。クレディセゾン、楽天証券などが参入し、プレーヤーは1年強で6社に増えた。相次いでポイント投資に乗り出す企業の狙いは何か。』
その背景に、ポイントの会計処理があるという。
今や消費者にとっては当たり前となったポイント。商品が同じならポイント還元率の高いお店(ECサイト)で購入するという消費者も少なくないだろう。裏返せば、企業にとっても他社との差別化要因ともなる。
クレディセゾン、ドコモ、JAL、ANA、JR各社、ビックカメラ、ヤマダ電機等々
挙げればきりがないほど。
そして、ついに2020年には代表的な企業のポイント発行額が年1兆円規模に到達とする見込みとのこと。
【ポイントの会計処理】
ポイントについて、日本の多くの企業は以下のような会計処理をしている。現時点ではポイントについての詳細はルール設定はされていないので、会計慣行に基づいた一般的な引当金としての会計処理だ。
【前提】
ある会社が、顧客の売上1,000円当たり1ポイントを付与します。顧客は、1ポイント当たり10円で会社の商品とポイントを交換できるとします。決算期末に付与されたポイント未使用残高は10,000ポイントで、将来におけるポイントの使用見込率は過去の実績等から50%と見込まれるとします。なお、ポイントの使用期限はありません。
【ポイント付与時=当初商品販売時】
会計処理は不要
【決算期末(1年目)】
借)ポイント引当金繰入額(販管費) 50,000円 貸)ポイント引当金(負債) 50,000円
50,000円=ポイント残高10,000×@10円×50%
次年度になり、10,000ポイントの内、2,000ポイント分が使用されたとします。
【ポイント使用時】
借)販売促進費(販管費) 20,000円 貸)売上 20,000円
20,000円=2,000ポイント×@10円
【決算期末(2年目)】
借)ポイント引当金 20,000円 貸)販売促進費(販管費) 20,000円
もう少し詳しくはこちらを参照☟
設例では、ポイントの本質を『販売促進費』と捉えている。ポイントの発行がなければその分売上は減ったであろうから、ポイントはその年の売上高に対する販促費に相当するということだ。そして、毎年のポイント発行額の内、将来使用されると見込まれる部分に相当する金額がその年の販促費という考え方だ。会社によっては、販促費ではなく『値引き』として処理する場合もあろうが、売上規模が減るのは好まれないので、販促費として処理するケースが多いと思う。
なお、平成33年度から適用開始予定の新しい会計ルールでは、ポイント(カスタマーロイヤリティプログラムと言うが)を売上とは別個の取引(商品券の販売のような)として認識する。
ポイントの新しい会計ルールの詳細はこちら☟ 主に48,50,140,186項
https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/20180330_02.pdf
記事に戻って・・・
【ポイント増加との関係】
『ポイント発行企業にとって、顧客がポイントを使うことは短期的には利益圧迫要因になる。ところが、実は使われないまま積み上がった「眠れるポイント」をいかに減らすかは、発行会社にとって大きな課題だ。』
ポイント引当金は過去の実績などを考慮して引当金を積んでいくのが一般的(設例では50%)だ。使用実績が減れば引当率は低下してポイント引当金は減少するが、毎年新しくポイントは発行されると結果としてポイント引当金の金額は年々増加することになる。それでもポイントに有効期限があれば期限切れのポイント部分に対するポイント引当金は減少するが、クレディセゾンのようにポイントに有効期限がないとポイントが使われない限り引当金を積み続けるしかない。クレディセゾンのB/Sに負債として積み上がったポイント引当金は17年末に1000億円を超えたという。
ちなみに、ポイントに有効期限がある場合、期限切れとなったポイント引当金はどうなるかを上の設例を使って説明する。
ポイントの残高3,000ポイント(30,000円相当)が期限切れとなった場合は以下。
【ポイント期限切れの会計処理】
借)ポイント引当金 30,000円 貸)販売促進費(販管費) 30,000円
要するに、
思ったほどポイント使われなかったね、
ということ。換言すれば、
販促費は実はそれほど必要ではなかった
(なので、過去の販促費の戻し処理)
ということだ。
なお、あまりにも金額が大きくなると、過去のポイント引当に対する見積もりが誤っていたとなり、過年度に遡って決算を修正する必要がある。
色々脱線して申し訳ないが、
で、何でポイントがB/Sに積みあがると問題なのかについて記事はこのように指摘している。
『大手監査法人は「売り上げに結びつかない“塩漬けポイント”が負債に積み上がるのは財務諸表上、非効率」と指摘する。』
非効率というのは、おそらくはポイント引当金分、
B/Sが膨らむ、かつ、滞留している
つまり、
⇒資産の有効活用がされていない
⇒ROE、ROICなどの財務数値の悪化
を指しているのではないだろうか。
これに対して、各社何とかポイント引当金を減らす手段はないかということで、ポイント投資に乗り出した、ということだろう。
株式等への個人投資が進むことの良し悪しはわきに置いて、楽天などはEC事業と証券事業の相乗効果も期待できるとのこと。
ここで冒頭の「興味深い記事だ」につながる。
会計処理が実業を動かすに切っ掛けになったとは、会計の世界に身を置くものとしては気分は悪くない話だ(笑)
ところで、
『大手監査法人は「売り上げに結びつかない“塩漬けポイント”が負債に積み上がるのは財務諸表上、非効率」と指摘する。』
改めて見直すと、これって本当だろうか?
もちろん、記事の指摘が、
資産の不効率⇒ROE、ROIC等の財務数値の悪化
ということであればだけど・・・
というのも、ポイント引当金に限らず引当金を設定(計上)すると、利益が減る。
利益が減ると、B/Sでは純資産(利益剰余金)が減る。
先ほどのポイント期限切れの場合の会計処理からも明らかだろう。
つまり、税金(税効果含む)を無視すれば、
引当金(負債)が増えた分純資産は減る関係
にある。
ということは、利益が変わらなければ、
総資産額は不変 ⇒ ROA、ROICは不変
また、ポイント引当金’(負債)が増えた分、純資産が減るのだから、
するように思うのだけど・・・