溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

繰延税金資産の取り崩し 【ベネッセの例】 ~小ネタ~

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『ベネッセホールディングスは6日、2016年3月期の連結最終損益が82億円の赤字になったと発表した。前の期(107億円の赤字)に続き2期連続の最終赤字。従来は38億円の黒字計画だったが、通信教育講座「進研ゼミ」の会員減に対応し販売費を積み増したため利益が減少。当該事業の将来性を見積もり直したことで税金費用も増加した。

 売上高は前の期比4%減の4442億円、営業利益は63%減の109億円だった。連結子会社で通信教育事業を担当するベネッセコーポレーションが将来の利益を見込んで計上していた繰り延べ税金資産95億円を取り崩し、費用負担が増えた。』

 

例の顧客情報の流出が発覚に起因する会員の大量退会。これに伴い、当事業事業計画を見直したところ、将来に期待できる税務上の利益(課税所得)が過去の欠損金などの将来減算一時差異(繰延税金資産の元)を上回らない金額が税金ベースで95億円、ということだ。税前利益ベースだとざっと300億円の将来利益の見込みが減少したことになる・・・

 

それにしても、95億円の繰延税金資産の取り崩しで連結最終利益が82億円の赤字ってことは、これが無かったら13億円の黒字2期連続の赤字は免れたわけか・・・

 

どういう検討の末の判断だったんだろうか?

かなりの修羅場だったのでは・・・

 

と思えば、本日原田CEO退任・・・

 

マイナス金利が業績に与える影響 【ボヤキ系】

www.nikkei.com

 『日銀のマイナス金利政策の影響が、年金の負担増を通じ企業収益を圧迫し始めた。長期金利利回りがマイナス圏に下がったことで、企業が将来の年金の支払いに備えて用意する必要のある金額が増えるためだ。関連費用は判明分だけで1000億円を超えた。日清食品ホールディングス住友不動産などで今期の関連費用が膨らむ見通しで今後、上場企業に同様の処理が広がりそうだ。』

 

 『あらかじめ将来の給付額を決める確定給付型の年金の場合、企業は従業員の将来の退職金や年金の支払いに備えて現時点で必要な金額(退職給付債務)を準備する。その際、「割引率」と呼ばれる利率を使って債務額を計算する。

 適用する割引率は長期国債の利回りなどを基に決めており、市場金利が下がると割引率も低下する。割引率を下げると退職給付債務が増えるため、不足分を決算に反映する必要がある。反映させる時期や期間は企業ごとに異なる。』

 

要するに、

マイナス金利金利の低下)⇒(会計処理での)割引率の低下⇒年金債務の増加⇒利益の減少、純資産の減少

ということだ。

日清食品ホールディングスは2017年3月期に数十億円規模で関連費用が膨らみ、利益水準をその分押し下げそう住友不動産では17年3月期に費用が数億円増加し、三井金属でも数十億円の費用が生じる可能性がある。システム開発オービック2億円前後の費用を計上する見通しだ。』

 

前期までに(というか金利低下の傾向を適時に)割引率を見直した(低下させた)会社はそれほどのダメージはないかもしれない。前期に割引率引き下げを見送り、高い(1.5%以上)割引率を維持してきた会社は今回のマイナス金利(ほどの金利の低下)は大きなダメージとなるだろう。ちなみに、LIXILは1.6%、大和ハウスは1.7%。

 

 『LIXILグループは16年3月期に国内の年金関連費用が約100億円増えたことなどで、連結最終損益が200億円の赤字(前の期は220億円の黒字)に転落した。大和ハウス工業も16年3月期に関連費用849億円を特別損失に計上した。』

 

まあ、現行の退職給付会計ルールに当てはめればそういうことなんだけど・・・

 

会計ルールの設定側でも

マイナス金利になると割引率もマイナスにすべきか?』

という議論も真剣にされたとのこと。

 

将来の年金債務を現在価値に割り引くときの割引率をマイナスにするということは、

年金債務の現在価値>将来の年金債務

となり、割引率ならぬ割増率となってしまう・・・笑えないけど・・・

ということもあって(もちろんこれだけの理由ではないが)、マイナス金利であっても割引率は0の採用も可、ということになった。

 

なんだかなぁ・・・

そこで常識的な判断入れるんだったら、会計ルール自体常識的にすれば良いのでは?

と思うのだ。

 

要するに現行の会計ルールでは、金利の変化による年金債務(現在価値)の変動分や年金資産の価値変動分を全額毎年の決算(B/SとP/L)に反映しろ、ということ。

(注)P/Lについては、会社の選択により全額あるいはその一部が当期純利益に反映される。一部の場合は、残額は包括利益に反映される。

 

だから、金利が下がれば企業の財政状態、業績は悪化するし、上がれば改善する。どっちに振れるかは金融市場次第・・・

また、その影響額は本業の稼ぎを吹っ飛ばす勢いだ・・・

 

企業年金制度なんて危ない制度をやっているからこういうことになるのであって、仕方ないですよ、と言われるかも知れないが、従業員への退職後の年金制度が何で企業の存続を危うくすることになるのかピンとこない会社も多いのではないか?

 

以前(平成24年改正前)はこのような金利の変動による年金債務や年金資産の金額の変動は全てを即時に会社の決算に反映してはいなかった。

従業員の退職時期までの期間(平均残存勤務期間)にわたって償却していた。例えば、今年100の損(数理計算上の差異)が発生し平均残存勤務期間が10年とすると、毎年10(100*1/100)ずつ決算(P/L、B/S)に影響させていた。

金利の変動なんてどうなるか読めないし(その読みが外れた影響が数理計算上の差異おとなる)、従業員の退職までの期間で金利が今度は上振れして結局チャラになるかもしれない。それを毎年毎年全額、決算に反映させたら『毎年の』財政状態や業績のアップダウンが激しくなってしまう。本業が順調に推移しているとすれば、それこそ投資家をスリード(誤解)させることになる。だったら、毎年の変動は把握はするが決算への影響は漸次が良いのではないか、という考え方だ。

 

要するに考え方、価値感の違いなのだ。

従来会社は存続するもの、来年も再来年もその先もずーっと存在する。だから、今年に全部影響させなくても徐々にやっていけば良いということになる。

一方で、現在の潮流は、この変化が激しくグローバルな競争の中で明日生き残れる保証はないM&Aもある。来年云々ではなく、今、現時点の会社の価値を示すことがメインコンサーンだ。そのためには、今存在する資産も負債も全部決算に載っけるのが当然となる。

 

まあ、おカネが世界を駆け巡るということは会計ルールもグローバルにならざるを得ないわけで、世界の全体傾向がそうであるならば、仕方ないんだけど・・・

もはや日本一国だけで会計ルールを設定することは現実的でないし。

 

会計ルールは、国や時代を構成する多くの人々の価値観を反映したものであるべきだと思う。願わくば、現在の会計ルールの背景にある思想や価値観がそれを反映したものであって欲しいと思うばかりだ。

 

 

株式持ち合いって何の意味があるの?

ちょっと古い記事なのだが・・・

主力企業で持ち合い株を手放す動きが広がっている。大林組は今後5~6年で1000億円分を売る。コマツは保有をほぼゼロにした。パナソニック花王のように持つ意味が薄い株式は売却する方針を打ち出す例も相次ぐ。景気回復に向け企業は資金の有効活用を求められている。各社は余分な資産を処分して得る資金を、成長投資へ振り向ける。』

 

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持ち合い株、日本の高度経済成長を支えたある意味1つの日本的経営の象徴が過去の負の遺産として解消される、というもの。

高度成長において資金需要が旺盛、それでいて不安定な資本市場という経済社会にとっては資金調達側である会社と資金供給側である金融機関の利害が一致した1つのスタイルだった。

また、実際にはこの点が長らく重用されてきたのだが、安定株主による経営の安定化という経営者にとってのメリットがあった。取引上の関係のある複数の会社が相互にお互い株式を持ち合うことにより、株主総会において物言わぬ株主として一定の議決権を行使するというものだ。株主総会をスムーズに終わらせるだけでなく、例えば外資からの乗っ取りに対する防衛策としても機能した。

一方で、経営者にとってのメリットは、株主にとってのデメリット、安定株主工作による株主総会の形骸化株主による企業統治、エクイティガバナンス、が損なわれる、という問題が指摘されてきた。

日本の経済社会で株主がモノを言い出したのはそれほど昔のことではない。本格的にモノ言う株主が台頭しだしたのは所謂ハゲタカファンドのようなバブル後経営に行き詰った日本企業の外資による買収以降だろう。

それまでは、メインバンクによるデッドガバナンスが中心であった。ということは、メインバンクが自社の株式を一定割合保有していれば、経営者は銀行との事前交渉によって大方の経営方針が決定出来る、という相乗効果もあったわけだ。株主総会の前に、経営者とメインバンクとの話し合いによって重要事項は決定されるので、株主(総会)は当然軽視される。今では、とんでもない話だ、となるだろうが・・・

 

何でもそうかもしれないが、経済が上手くいっている時は、本来のあるべきかどうかは別にして、企業が儲かって金利も配当もそれなりに払っている内は、デッドだろうがエクイティだろうが、ガバナンスは対して問題にならなかった。

 

ところが、国内景気、経済環境が悪くなると状況が一変した。

株式持ち合いの弊害の面がクローズアップすることになった。

バブル後、海外におカネの調達先を求めた政府は急速に会計ルールを欧米に合わせるように改正した(会計ビッグバン)。この中で、保有株式の時価評価、いわゆる保有株式の含み損益を決算に反映させるようにした。業績の悪い取引先の株式を多く保有する銀行はこうした含み損が自己資本比率を圧迫することになった(一定比率を下回ると銀行は潰されることに・・・)。さらに、出資先に融資もしている銀行は融資に対する回収不能分の引当金(貸倒引当金)も必要になり、これがさらに銀行の決算を悪化させた。株式の含み損や貸倒引当金自体は決算に反映されようが、実損というかキャッシュとしての損はないのだが、これを機に融資先に対する『貸しはがしが起こると実態経済に大きな打撃を与えることは周知の事実だ。

株式持合い、特に銀行が取引先企業の株式を保有することは会社1社の問題ではなく社会的な問題となる・・・

 

事業会社同士の株式持合いはどうかといと、取引関係強化や資本提携関係の構築のため、というのが良く聞かれる株式持合いの目的だ。具体的に関係強化で何のメリットが期待できるのかというと・・・

他社よりも早く技術などの情報が入手できる

他社よりも仕入れ値が安くなる

他社よりも有事の際には協力してもらえる

といったところだろうか。

そもそも特定の相手とのこういう関係自体(実行されれば)、会社法的に大丈夫かという気もするが、経済的に見てもこれは特定の取引先等との長期安定的な関係を前提にしており、技術革新やビジネスモデルの変化のスピードや取引のグローバリズムが進む今のご時世で果たしてどうなのかなあ・・・

どうも変化の中で旧態依然のやり方を粛々と続けて時代の波に取り残される、そういう経営者を擁護するような策に思えてしまう。

 

また、当社をよく知った取引先に株式を持ってもらわなければ(持合いを解消したら)、買収リスクが高まる、という意見もある。

買収されたら良いんじゃないの?

と思うのだ。

資本の論理を振りかざすつもりはないが、そもそも株式会社で上場してるってことはそういうリスクは付き物だ。今は、グリーンメーラーや転売目的の買収に対しては対応策も認められている。その会社のリソースを認めてそれとのシナジーの発揮をし得る相手に買収されれば、今よりもその会社の業績も良くなるし、そうなれば、取引先もビジネスチャンスは増えるし、株主への配当も増える。もちろん、買収されるのが嫌だという株主は市場で売却できる。従業員も活躍の機会が増えたり昇給の機会もある。もっとも、買収を機に売却される事業部や解雇される従業員もいるだろう。しかし、その会社が存続していたとしてもそうならないという保証はない(これは別問題なのだが、どこでも生きていける力をつけていく必要がある)。

買収する/されるは、会社にとって、そのステークホルダーにとって、大きな環境変化であるが、同時に将来の成長、成果にとっての大きなチャンス(機会)でもある。

 

では、買収されて誰が困るのか? 

株式持ち合いが事業を成長させることができない、新しいビジネスを創出することもできない、外部の経営環境が変化する中で変化しない、変化できない、その結果、会社を弱体化させる残念な経営者が自らの身を守るためのものだとすると、これほど迷惑な話はない。

よく『会社にとってメリット/デメリット』と聞くが、言う立場によって内容が異なるので注意が必要だ。

その場合の会社とは誰のことなのか?

それによって、YesにもNoにもなる・・・

 

記事に戻って・・・

『スチュワードシップコード(SC)』、そして『コーポレートガバナンス(CG)コード』により特にメガバンクに対して(もちろん、一般の事業会社も)株式持ち合いを解消が促進されることになった。

CGコードで言えば、攻めのガバナンス、おカネを有効に活用して成果を上げ、株主に積極的に還元、という掛け声からは、一向に利益を生まない株式(配当はもらえるけど・・・)におカネを投じて寝かせるのは不効率。とっとと売却してその資金事業に積極投資(して儲けろ)しろ、ということだ。

ただし、持ち合い株式を売却するだけでは、CGコードが重視するROEも改善しない(含み益がある場合は却って低下)ので注意が必要だ。持ち合い株式を売却で得たおカネを事業に投資して、その事業から追加の利益を得て初めてROEが改善する。

 

事業会社にとっては、以前はともかく現在が株式持ち合いってどれほどのメリットがあるのか?と疑問視する声も多い(まあ、はっきりいって無いに等しい)。とはいえ、これまで保有してきた取引先の株式を売却すると、何で今!?的に取引先に変に思われても説明が・・・という会社にとっては、CGコードは福音となるかもしれない(それでもばれると気悪いし・・・)。

 

会社の中には、持ち合い株式を一定の基準で区分して売却しやすいものから順に売却していくというやり方もある(と思う)。

最近目にするのは、減損損失の穴埋め的に持ち合い株式の売却益を充てて当期純利益の帳尻を合わせる、というもの。

ここに会社の逞しさを見るのである(笑)

 

 

 

 

 

 

厳格監査、それとも幻覚監査? 

www.nikkei.com

相次ぐ会計不祥事に監査法人が対応を迫られている。東芝の利益水増しを見抜けず、行政処分を受けた新日本監査法人提携先の国際会計事務所や外部有識者によるチェックを導入。トーマツビッグデータ分析で不正リスクを洗い出す。決算書の適正さを保証する公認会計士への信頼が失われれば、投資家の疑心暗鬼は深まるばかりだ。組織として監査の質を高める手立てが欠かせない。』

 

決算書は投資判断の要であり、監査法人は企業から報酬を受け取って適正かどうかを保証する。東芝の事件は監査への信頼を揺るがした。投資家が抱く不信感に企業は敏感だ。30日には富士フイルムホールディングスが2017年3月期から監査人を新日本からあずさに変えると発表した。』

 

会社の会計監査を担当する監査法人への風当たりが益々厳しくなるようだ。

もっとも、何やらよくわからないが難しい資格を持った賢そうな人たちがやってるから大丈夫なんだろうな~と思っていたらそうでもなかったということが世間一般の知るところになってしまったのだから無理もない(初めてのことではないが・・・)。

 

となると、不信の目で見られる監査法人としても何らかの対応をせざるを得ない。

それは分かる。が、問題はその方向だ。

 

例えば、

新日本:提携先の国際会計事務所の品質管理担当者が駐在。外部有識者によるチェックも。

トーマツビッグデータを使った不正リスクの洗い出し

あずさ:会計士の補助作業をするスタッフを5年間で2~3倍の400~500人に

 

これを聞いて、株主・投資家はどう思うだろうか?

『今まではちゃんとやってなかったのか?』

という反応が目に浮かぶ・・・

(会計監査の)品質管理もろくに出来ないインターンみたいな連中がやっていたのか?

今まで不正リスクを適当に抽出していたのか?人手不足で本来するべき監査手続きをしていなかったのか?

今までの会計監査は、それこそ信頼して良いものなのか?余計に心配になるのではないだろうか?

 

PwCあらた:パートナーに続き、補佐する会計士も最大7年間で担当企業を交代

 

よく指摘される『慣れ合い』監査の防止である。長いこと同じ会社を担当し続けると慣れ合いの関係になり、会計不正を指摘できなくなる、ということだ。

同じような指摘として、そもそもおカネ(監査報酬)もらっている相手にキツいこと言えるのか?もある。

よ~く指摘される点なので、世間一般ではそうなる人が多いのだろう・・・

 

どうなんだろうか?

世間的には『これで体質改善が期待できるな』という反応が期待できるのだろうか?

自分が会計監査の業界にいたからかもしれないが、どうも改善の方向が違うように思えてならないのだ。

 

そもそも、会計監査人(公認会計士)に最も重要な資質は『精神的独立性』だ。

どれだけ会社と関係が長期になろうが、担当者と仲好くなろうが、自信の責務に対して忠実であり続ける精神性だ。もちろん、責務とは投資家・株主などのステークホルダーに対して会社の会計情報の適正性についての(監査)意見表明をすることだ。

なので、担当が7年だろうが、100年だろうが、それで精神的独立性が揺らぐような人は会計監査なんかやってはいけない。個人的には大丈夫という会計監査人であっても、例えば監査法人にいると担当会社数やその報酬総額が法人内出世の要件になり、会社(クライアント)と会計処理を巡って揉めたりしてチェンジを要求されたりすると出世に響く。また、こういう場合は得てして法人内部の機関とも揉めるので社内評も下がるので、これまたマイナス・・・という理由であってももちろんダメ←パートナー職のケース

 

手続きや監査スキルの問題(不正リスクのビッグデータを使った洗い出しや補助者の増加)も、これが本当に根本的な問題なのかな?と首をかしげたくなる。

そもそも、1円2円の会計処理の間違いが問題となっているのではない東芝では数千億円規模の間違(というか、意図した間違い)が問題になったのであって、それは手続きを増加させれば解決につながるようなものと質が違うように思うのだ。

それだけのインパクトのある不適切な会計処理の間違いが発生するような監査リスクや財務諸表のエリアを見逃すというのはちょっと考えれらない。普通に会計監査の訓練と経験を積んだ会計監査人であれば、『ちゃんと目を開けて』監査すれば問題なくクリアできる程度の話に思える。問題は、『ちゃんと目を開けて』監査できない/していない事情にあるのではないかと思うのだ。

例えば・・・

監査法人)組織といっても合併合併の繰り返しで融合しきれないままモザイク的な組織で、見た目上同じ看板を掲げているだけで実はお互いがアンタッチャブルということもある(と思う)。そうなると、監査法人内の小集団の会計監査人のスキルや経験など結局は品質も属人的にならざるを得ない。そういった中、会計監査の品質向上という名目で監査手続きが増強されると現場の会計士は夥しい数の手続きをこなすことに精いっぱいで1つ1つの監査手続きの意味を考えなかったり、それだけならまだしも、よくよく考えれば発見できた会計不正や会計処理の間違いを見逃すことにもなり得る。

また、良かれと思って導入している定期的に担当者を交代する、ローテーション制度も、会計監査の品質や会計監査人のアティテュードにはマイナスな部分もあると思う。

会計不正や会計処理の間違いの起こりやすいエリアは会社の事業によって異なる。そして、その事業や不正リスクを理解するには一定の経験年数が必要となる。一概に何年ということは難しいが、それを定期的に交代させるということは逆の言い方をすれば、監査チームには常にその事業や不正リスクに精通した人材がいないことを意味する。また、どうせ何年かで交代するということが分かっていれば、その期間内だけ問題がないように過ごそうというネガティブな意識が芽生えるのはこの業界に限らずであろう。

監査法人が中途半端に企業化している状態が良くないのではないかと思う。そもそも、監査法人公認会計士の集まりであり、基本的には専門家集団、経営者といっても果たして・・・

 

話は戻るが、そもそも世間一般には会計監査は何なのか、ちゃんと理解されているだろうか?

今回の例もしかり、会社の会計不正の問題が起こると監査法人の責任が問題となる。

しかし、くれぐれも断わっておくが、会計不祥事を起こしたのは会社であって監査法人ではない。監査法人の問題はあくまで会計不正を見抜けなかった、あるいは会計不正の事実を監査報告書を通じて表明しなかった、と言うことだ。

それはそれで大問題ではあるが、まるで会社とグルになって会計不正を働いたような印象を持たざるを得ない報道もある。

実際の会計監査の役割と機能、会計監査に対する社会からの期待とのギャップ、期待ギャップ、会計監査に付きまとう問題だ。

長きにわたって存在する期待ギャップを一掃するのことは容易でない。 

しかし、監査報告書が添付された決算書が投資判断の要、というその重要性を考えれば、その監査報告書がどういうプロセスを経たものなのかを会計監査の受益者である株主、投資家といった会社の会計情報の利用者にも理解してもらうことが肝心であるように思う。会計監査の信頼回復というのであれば、そういった方向の改善活動が必要になると思う。

何やっているかよく分からない人、僕は信頼しないので・・・

 

損益計算書(P/L)の往復ビンタ!? 【日本板硝子の例】

www.nikkei.com

日本板硝子は31日、2016年3月期の連結最終損益(国際会計基準)が500億円の赤字(前の期は16億円の黒字)になるとの見通しを発表した。従来予想(75億円の赤字)から大幅に下振れし、同社として過最大の赤字となる。中国など新興国でガラスの価格競争が激化。不採算事業の撤退に伴う減損損失繰り延べ税金資産の取り崩しなどで425億円の損失が発生する。』

 

中国の子会社『ピルキントンソーラー(太倉)有限公司』の事業不振により事業撤退、同社は清算するとのこと。

(プレスリリース:http://www.nsg.co.jp/~/media/NSG%20JP/ir/Press%20Releases/2016/31Mar2016ExitfromBusinessinChina_J01.ashx

撤退から見込まれる同子会社の減損損失は75億円と見込まれる。

それ以外にも、建築用ガラス事業及びブジル自動車に係る減損損失150億円、そして、これらに伴う繰延税金資産の取り崩しによる税金費用の増加120億円と発表された。

(プレスリリース:

http://www.nsg.co.jp/~/media/NSG%20JP/ir/Press%20Releases/2016/31Mar2016RecognitionofExceptionalCosts_J01.ashx

 

減損損失で225億円に加えて税金費用も更に120億円!?

(合計で345億円で記事の425億円との差異80億円は別途、売却益を見込んでいた資産売却案件が延期されたことによるもの)

泣きっ面に蜂!?、悪い時には悪いことが重なる・・・

と思うかもしれないが、会計の世界ではある意味必然なのだ。

 

【連鎖反応】

 固定資産の減損損失は、プラントや製造設備などの固定資産を投じた事業が不振に陥り、今後も復調の目途が絶たないような状況と判断される場合に、事業の評価を固定資産に代表させて、事業の固定資産の帳簿価額をその時点の回収可能額(今後見込まれるキャッシュインフローか売却価額の大きい方)まで切り下げる(減損損失)ことだ。

要は、その事業がうまくいっていなく、今後も抜本的な回復の目途が立たない状況、それこそが固定資産の減損損失の原因となる。

(過去記事参照:減損損失の季節がやってきた・・・【トクヤマの例】 - 溝口公認会計士事務所ブログ

 

繰延税金資産が何たるかは過去記事を参照されたい 

北海道電力の電力再値上げ申請の陰に『繰延税金資産』 - 溝口公認会計士事務所ブログ

繰延税金資産の計上ルール変更は会社にとって得なのか? - 溝口公認会計士事務所ブログ

繰延税金資産は、企業会計と税務会計の(費用として認められるタイミングの)差異が生んだ『法人税の前払い』という資産。飲食店のサービス券のような、言ってみれば、将来『使える権利』だ。ただ、お店にサービス券を提示してもキャッシュバックされるわけではない。飲食した代金から『控除』と使い方が限定されている。おまけに通常は、使える『期間』も限定されている。換金価値のない、使い方と期限が限定された条件付き権利、ということだ。繰延税金資産も同様である。

将来の税金を安くすることができる権利。ただし、将来の(法人税の元になる)課税所得がある場合に繰延税金資産に相当する金額を『控除』できる、が、将来の使用『期間』が限定(繰越欠損金の場合7年ないしは9年)されている。

と、言うことは、(将来の)限定された期間に課税所得が発生しなければどうなるか?そう、繰延税金資産というサービス券は残念ながら期限切れ・・・使いきれずに紙くずとなる

この状況が、『繰延税金資産が取り崩される』ということだ。

では、将来の限定期間に課税所得が発生するかしないかはどう判断するのか?

将来のことは誰も分からない。分からない場合、何を頼りに将来を見込むか?

過去実績となる。もちろん、従来と将来の事業内容が大きく異なる場合はその限りではない(過去実績のない事業の予測はそれはそれで難しいが)が、事業内容に大きく変更がなく従来事業を継続する場合は、例えば、過去数年来不振、赤字が続いているならば、将来においてもこの状況を前提に事業計画を立てることになる。この場合、赤字(とは限らないがかなり厳し目)の事業計画となり、結果としてその将来見込み課税所得では繰延税金資産が使いきれない⇒繰延税金資産の取り崩し、となる。

 

おわかりだろうか?

 

要するに、固定資産の減損損失も、繰延税金資産の取り崩しも継続した事業の不振という同じ原因で発生するのである。

ということで、固定資産の減損と繰延税金資産の取り崩しはセットで発生することが多い。

注:一部の固定資産の減損損失が発生しても他でカバーしうる場合は繰延税金資産の取り崩しは要さない。減損損失はキャッシュジェネレーションユニット(おカネを生み出す単位)ごと、繰延税金資産取り崩しは会社ごと、で判断の単位が異なる。なので、日本板硝子のように(海外)子会社の場合は、1事業1会社という単位なので減損損失繰延税金資産の取り崩しがセットで起こりやすい。

 

そのため、(同一の原因にも関わらず)PLの利益が減損損失繰延税金資産(取り崩し)と税前利益ダウン、当期純利益更にダウン、と損の追いうちのように悪化してしまう。この状況を『往復ビンタ』と言うとか言わないとか・・・

 

固定資産の減損損失が発生するということは、すでに事業が不振⇒営業利益に悪影響が出ているわけだから・・・

 

同一の要因:事業の不振により

 

事業損⇒営業利益の悪化

 +

減損損失⇒税前利益の悪化

 +

繰延税金資産取り崩し⇒当期純利益の悪化

 

と、なる。

往復ビンタならぬ、トリプルビンタか・・・

 

 

 

 

 

為替換算調整勘定とは何か? 【為替変動への対応 最近の傾向】

http://www.nikkei.com/paper/article/?ng=DGKKZO98344750R10C16A3DTA000

『企業が新興国通貨安への対応を急いでいる。為替差損による収益の目減りを抑えるのが狙いだ。進出先の子会社が抱えるドル建ての借り入れを圧縮したり、為替予約を活用したりしている。』

以下は、企業対応の具体例だ。

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例えば、『ユニ・チャームは16年12月期、親会社が新興国子会社に貸し付けているドル建て資金の一部を資本金に切り替える。通貨安が進んだインドネシアやブラジルなどの子会社が対象だ。』

 

親会社であるユニ・チャームが、ブラジルなどの海外子会社に例えばドル建てで貸し付けている資金を子会社の資本金へ振り返るという。これはどういう効果があるかというと、

現地通貨が対ドルで下落すると、ドル建て負債を持つ子会社の返済負担が増してしまう。会計上はこの差額を為替差損として計上する。返済負担のない資本金に切り替えれば、通貨安は連結貸借対照表自己資本のマイナスとして処理するため、損益には影響しない

 

ということだ。

紹介されている3つの手法

・負債の資本への切り替え

・現地通貨建取引へ移行

・為替予約の活用

のうち、1番目の『負債の資本への切り替え』がどう為替変動リスクの低減につながるのか理解しにくいかな、と思う。

 

ユニ・チャームと全く同じ設定ではないが、簡単な例を使って説明したい。

 

日本の親会社(P社)が海外子会社(S社)に1,000ドルのドル建て貸し付けたとする。貸付時の為替レートが@100円/ドルとして、その後の決算時の為替レートが@80円/ドルにと、円に対してドルが2割下落したとする。

この場合、P社の単体貸借対照表(B/S)では、貸付時には100,000円(1,000ドル*@100円)であるが、決算時には貸付金は期末時点の為替レートで換算するため800,000円(1,000ドル*@80円)貸付金が200,000円(1,000,000-800,000)目減りすることなる。P社の決算ではこの目減り分200,000円をP社の『為替差損』として費用処理する。

S社の現地での決算はドルベースとすると、ドル建ての借入金は換算の必要が無いため、S社では為替変動の影響(為替差損益)はない

そして、P社単体で認識された為替差損200,000円は連結決算でもそのまま残ることになる

 

では、P社がこの貸付金をS社に対する投資に振り替えた場合はどのような変化があるだろうか。

外貨換算の会計ルールでは、子会社に対する投資は取得時(投資した時点)の為替レートで期末決算時点でも換算することになるので、取得時の為替レートが@100円/ドルとすると、その後の為替レートが80円、120円と変化したとしても@100円/ドルで換算し続けることになる(ものすごい為替変動や子会社の業績悪化などによる評価損が必要な場合は別)。したがって、貸付金の場合と異なりP社において為替差損益は生じないことになる。

 

一方のS社では、以下のようになる(実は、S社では貸付金の場合とおおむね同様なのであるが・・・)

例えば、S社のB/Sが

資産 1,000ドル / 資本金(P社の投資) 1,000ドル 

のみとする。

 

出資時点の為替レートが@100円/ドル で、その後の決算時の為替レートが@80円/ドルに変動したとする。P社の『連結決算』上、ドルベースのS社の決算書を『円』ベースに換算する必要があるが、その際、資産1,000ドルは決算時の為替レート@80で換算する。ところが、資本金は出資を受けた時点の為替レート@100で換算する。

そうすると、現地通貨ベースではS社のBSは

資産 800,000 / 資本金 100,000

なり、左右のバランスが崩れることになる

そこで、会計ルールではこのような場合の調整として

資産 800,000 / 資本金       100,000

          為替換算調整勘定 △20,000

という調整を入れることによって円ベースでのB/Sのバランスを維持している。

 

『為替換算調整勘定』(英語ではCTA cumulative tranlastion adjustment)という名前は何ともややこしそうな印象を持つかもしれないが、実は読んで字のごとくそのままの意味である。S社のB/Sの各項目を全部同じ為替レート(例:期末時の為替レート)で換算するとしたらこのような差額調整は必要が無い。ところが、実際には、ある項目は期末時の為替レート、ある項目は期中平均レート(P/Lの費用や収益)、ある項目は発生時の為替レート(P社からの投資)といったように換算レートが複数存在するため、結果として円ベースになった時に左右の金額がバランスしないことになる。要するに、『為替換算によって生じた差額を調整してバランスさせるための勘定』ということである(実は、S社の決算書の円ベースへの換算によってこのような為替換算調整勘定が生ずるのは借入金の場合も同様)。連結決算では、円換算されたこの状態のS社のB/SをP社のB/Sにくっつけることになる。したがって、借入金(P社にとっては貸付金)の際に生じた『為替差損』が発生しないため連結決算上は為替変動の損益インパクトを低減することができたことになる。

これが、記事でいうところの『通貨安は連結貸借対照表自己資本のマイナスとして処理するため、損益には影響しない。』に当たる。

 この点は、以前過去記事にも記載しているので参考まで。 

過去記事『為替レートが動くと決算書のどこに影響が出るのか? - 溝口公認会計士事務所ブログ

 

アパレル販売の新手法に期待 【高島屋の例】

www.nikkei.com

高島屋オンワードホールディングスと組み、衣料品販売に新手法を導入する。店頭に試着用衣料だけを並べ、注文を受けると店員がオンワード側の在庫を確認し、取り寄せる。売れ筋のそろわない地方店でも新商品が手に入り、店側は在庫管理などの業務を効率化できる。高島屋は他のアパレルにも広げ、苦戦が続く地方店のテコ入れにつなげる考えだ。』

 

 

 

なかなか面白い仕組みだ。

最近のインターネットを介したイーコマースが市場を席巻する中、イーコマースに対するリアル店舗の強みというかアドバンテージとされる気に入った商品を『その場で購入』できるという部分をバッサリ切り落とすところが、潔さを感じる(笑)

 

アパレルは在庫が膨らむことを避けるため、販売量が少ない地方店には最新の商品を供給を絞る傾向があった。ネットと組み合わせる新手法では来店客が数多くの商品をみて、気に入ったモノを選ぶことができる。店側も在庫の確認や商品の包装などの作業が軽減されることから、店頭に配置する人員も1~2人減らして2~3人にできるとみている。』

以前記事にも書いたが、新手法により全体の在庫量を削減することで運転資本を圧縮するとともに売れ残りの大幅値引き販売リスクを低下させることができるだろう

(過去記事参照⇒

アパレル業界は何故SALEをするのか? - 溝口公認会計士事務所ブログ

)と同時に、商品を流通倉庫で集中管理することにより各店舗の在庫を減らすことで、人件費の削減も期待できる。

 

また、

『従来の品ぞろえを増やすことができ、来店客の望むサイズや色柄の欠品による売り逃しを防ぐ効果があるという。』

経営のムダは一か所にとどまらず。ムダがムダを呼び累積的に積み上がる。逆に言えば、一か所を効率的にすることで一連のビジネスサイクルが好循環につながることもある。同時に、店舗ごとの商品の種類と数量のミスアロケーションを是正することで、過剰在庫リスクを低下させると同時に逆に地方店舗における売り過逃しの機会損失をカバーする狙いだ。

 

『来客客は店舗で試着用を身につけ、サイズや質感などを確認したうえで店員に希望商品を伝える。店員はオンワードのネット通販サイトの在庫を確認し注文。商品は2~3日後に店頭で渡すほか、来店者の自宅に配送する。』

 

リアル店舗で試着をして実物の色合いやサイズ感を確かめて、実際の購入はインターネットで最安値を探して購入する消費者も多く、ある意味、リアル店舗がイーコマースの踏み台にされているということに対する逆襲にも取れる・・・

 

どんどんリアル店舗とイーコマースの垣根が低くなっていきそうだ。

 

 『他のアパレルにも同じ取り組みを広げる考えで、地方店の衣料品販売を伸ばし、店舗収益を改善。20年2月期に連結売上高9900億円、営業利益520億円という中期目標の達成につなげる。』

 

高島屋の新手法が消費者の評価にどう繋がるか、期待したい。