溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

子会社への出資、融資はどっちが得なのか?【村田製作所の例】

www.nikkei.com

村田製作所は2017年3月期に中国とフィリピンの子会社に合計150億円を増資する。一方で本社からの円やドル建ての貸し付けを減らし、「新興国通貨安による為替差損のリスクを減らす」(藤田能孝副社長)という。17年3月期は為替相場の変動リスクを考慮して2社の資本を増やすことにした。』

 

以前も類似の記事を投稿したが、為替が、特に円高方向へ、不安視されるとこのようなケースが続くとも思われるので・・・

 

親会社から参加の子会社などへの資金供与の方法は大きく

貸付(融資)投資(出資)がある。

それぞれにメリット・デメリットがあるが、村田製作所の例は、このうち為替リスクに対する対応を目的としたものだ。

 

『円やドルに対して現地通貨の下落が進めば子会社側の貸借対照表上は負債が膨らみ、連結決算では為替差損が発生する。』

 

例えば、子会社に対してドル建ての貸付金1億ドルを融資したとする。貸付時の為替レートが@100円で、期末時点には@90円に円高となると、親会社の個別のP/Lでは、10億円(1億ドル*(@90円-@100円)の為替差損が発生する。そして、この為替差損10億円は連結決算でもそのまま引き継がれる。

ところが、同じ1億ドルでも、子会社に対して融資ではなく出資という形をとると、

親会社の個別決算では、関係会社株式は出資時の為替レートで換算されるので出資後の為替変動に関わらず為替差損益が発生しない

そして、連結決算のために子会社の現地通貨建ての決算書を日本円に換算する際にも資本金(親会社の出資に相当)は出資時のレートで換算される。これに対して、それ以外の資産や負債は基本的に期末時点の為替レートで日本円に換算される。

例えば、子会社の総資産が1.5億ドル 負債0.5ドル 資本1億ドルとする。

親会社の出資時の為替レートが@100円、期末時の為替レートが@90円とすると、

総資産1.5億円*@90円=135億円 ←B/S左側合計

負債0.5億円*@90円=45億円、資本1億円*@100円=100億円 

             ←B/S右側合計145億円


となり、B/Sの左右の金額が不一致となる。

そこで、資本の項目に『為替換算調整勘定』△10億円 足しこむことによって、右側合計を135億円(145億円ー10億円)というように調整するのである。

このように為替換算調整勘定はB/Sの左右合計を調整するための帳尻合わせの勘定科目ではあるが、その実態は子会社への出資の為替変動による増減を示している。つまり、仮に出資でなく融資で資金提供した場合には『為替差損益』となった金額に相当する。

 

海外子会社に対して、同じ金額を資金提供する場合であっても、その形態が

融資か出資かによって親会社(ケースによっては子会社)の個別決算、親会社の連結決算への数字の表れ方が変わるのである

何故出資の場合は為替変動の影響を決算の都度、損益に反映させないかと言うと、親子間の支配従関係が継続している限りは親会社にとっての子会社への投資の成果(成否)は未だ認識すべきでないという考え方による。したがって、子会社への出資を売却したり、清算する場合に、為替換算調整勘定は実現、つまり親会社のP/Lに影響を与えることになる(売却損益や清算損益に巻き込まれる)。

 

為替はいつも読めないが、その動向に対する不安が大きくなるほど村田機械のような対応を取る会社は増えると思われる。特に海外展開の規模が大きい会社は、1円の為替変動親会社の個別そして連結決算数値に与える影響も大きくなるためなおさらだろう。

 

 






 

M&Aを多用する会社が早晩直面するだろう経営課題 【LIXILの例】

http://www.nikkei.com/paper/article/?ng=DGKKZO04055330U6A620C1DTA000


『LIXILグループの2016年3月期末ののれん代と商標権が急増したことが有価証券報告書で明らかになった。自己資本(5248億円)の74%に相当する3861億円に達し、前の期末から5.4倍に膨らんだ。将来の成長性を高めるために積極的なM&A(合併・買収)を進めたが、異例の規模で、状況次第では財務を毀損するリスクも高まったといえる。』

 

なんとまあ、膨れ上がったものだ・・・

LIXILに限らず、投資家などからの成長期待に応えるエンジンとしてM&Aを駆使している会社も多いと思う。

LIXILの例は、ある意味、そのような会社が直面するだろう経営課題だと思う。

グローエの中国子会社不正会計問題(海外子会社に対するガバナンス)と言い、多くの日本企業が現在、近い将来に抱えるだろう課題をいつもLIXILは先行するというか・・・会社には悪いが、目が離せない。

(過去ブログ参照:問われる海外子会社ガバナンス 【LIXILの例】 - 溝口公認会計士事務所ブログ

 

ところで、LIXILの採用する会計基準は、IFRS国際財務報告基準)だ。日本基準に比べて財務諸表に附属する注記情報が多い。当期のLIXIL有価証券報告書(172p)のうち財務パートが87p、このうち注記情報が72p(全体の42%)

を占める。財務諸表本編よりも圧倒的なボリュームだ。内容も、会計方針やB/S,P/Lなどの内訳項目の詳細説明、オフバランス項目の詳細説明、セグメント情報など多岐にわたる。IFRSでは日本基準よりも注記情報の分量が概して多くなるため、作成する方ももちろんだが、読む方もそれなりの知識が必要とされる。

 

「のれんと商標権」についての情報も注記情報の各所の散らばっているため、しっかり情報を拾い上げて書かれた記事だと思う。

 

さて、記事で言うところの、

 

『(のれんと商標権 3,861億円が)自己資本(5248億円)の74%に相当する3861億円に達し・・・』

 

だが、読者はどう感じるだろうか?

 

要するに、仮になんらかの要因でのれんや商標権が無価値となった場合に

約4,000億円、約74%の自己資本が吹っ飛ぶ

ということを記事は言っている。

ちなみに、LIXILの場合、

当期末のLIXILの純資産比率25.2%が8.7%まで悪化

する。

純資産比率が10%を切るとなると財務安全性はかなり危険な水準だ。

 

では、そんなに簡単にのれんや商標権が無価値になるのか?と言いうことだが、

そもそも、LIXILののれんや商標権はどのようにして取得されたのかと言うと・・・

 

『急増の主な要因は15年4月に独水栓金具メーカーのグローエの出資比率を引き上げ子会社化したため。3861億円のうち、グローエ分が3293億円で、全体の85%を占める。残りの大半はイタリアの建材子会社ペルマスティリーザ(201億円)、米衛生陶器子会社のアメリカンスタンダード(311億円)でいずれも藤森義明前社長の時に買収した。』

 

子会社を買収した際に発生したものだ。簡単に言うと、

定価(簿価純資産)より高く買った「上積み分」

だ。

一般に、上積み分=のれんと理解されているかもしれないが、会計ルールでは、このうち、商標権、ブランド、ノウハウなど個別の無形資産に区分できる資産は区分把握してそれぞれを連結B/Sに記載することを要求している。

そして、個別の無形資産に区分できなかった残り、言ってみれば

出がらし、がのれん、だ。

 

要するに、

のれんも商標権も発生原因は同じ(M&A)

ということだ。

 

『LIXILグは国際会計基準に基づき、のれん代などの減損損失を計上する可能性も検証した。グローエの場合は5カ年分の事業計画の将来キャッシュフローの見積額を現在価値に割り引いて回収可能額を計算した。水回り設備市場の期待成長率は16年3月期末で2.8%だったが4ポイント低下するなどの状況変化で減損損失が発生するという。』

 

定価(簿価純資産)よりも高く買うからには、その会社を使ってより一層の設けを期待したということだ。では、実際の儲けがその期待を下回ったらどうだろう?

のれんにせよ、商標権にせよ、期待する儲けが上がってこその価値だ。

期待倒れになれば、無価値となるのはある意味、解りやすい。

グローエの売上、利益が事業計画を下回ったり、ましてや赤字なんてことになれば、

のれん、商標権の減損ということになる。

ちなみに、

LIXILは当期に約134億円ののれん減損

を計上している。

期首(2015年4月)ののれん残高は560億円だから、23.9%ののれんが失われた(無価値となった)。

のれんの減損はさほど珍しいことではないのである。

 

繰延税金資産も同様だ。

そういえば、以前は純資産の3割(以上)を繰延税金資産が占める会社を会計監査では要チェック会社としていたな。今はどうしているか定かでないけど・・・

 

のれんや商標権は、土地や建物のような不動産と違って形があるものではない。不動産であれば、仮に事業が難航したとしてもそれ自体の価値からのキャッシュフローが期待できる。のれんや商標権はそうはいかない。事業と一蓮托生だ。

まして、IFRSではのれんは日本基準と違って非償却だ。それだけに、減損となった場合の損益や純資産に与えるインパクトは相当だ。

IFRSでも、のれんと違って商標権などの

無形資産はIFRSでも一定期間で償却

される。この点は日本基準と同じだ。前もって償却されるため、減損となっても既に償却された分はインパクトが薄まる。

 

LIXILの会計方針(無形資産)・・・有価証券報告書より

『耐用年数を確定できる無形資産は、それぞれの見積耐用年数にわたって定額法で償却しております。耐用年 数を確定できる無形資産の主な見積耐用年数は、次のとおりであります。 ・ソフトウェア :5年 ・顧客関連資産 :13~30年 ・商標権 :5~20年 ・技術資産 :6~10年
商標権のうち事業期間が確定していないものは、事業が継続する限り基本的に存続するため、将来の経済的 便益が期待される期間について予見可能な限度がないと判断し、耐用年数を確定できない無形資産に分類して おります。 耐用年数を確定できない無形資産又は未だ使用可能でない無形資産は償却を行わず、少なくとも年に1回及 び減損の兆候がある場合には都度、減損テストを実施しております。』

 

行きはよいよい帰りは・・・LIKILはいばらの道を選んだようだ・・・

2016年3月決算会社 GC注記減少 その背景とは?

www.nikkei.com

事業活動の継続にリスクが高まった場合、決算資料で開示が必要な「継続企業の前提(ゴーイングコンサーン)に関する注記」を付ける上場企業が減っている。2015年度は前年度比3社減って44社となり、リーマン・ショックで急増した08年度以降で最低。日銀のマイナス金利政策導入などで資金調達の環境が好転したのが一因だ。』

 

近い将来の会社の倒産リスク情報であるGC注記が付く会社数が今年度は減少とのことだ。

 

GC注記』の何たるかはこちら☟を参照していただくとして、話を進める。

決算書に『会社が潰れるかもしれない』情報が付いているって本当? - 溝口公認会計士事務所ブログ

 

GC注記は、会社が財務諸表の注記情報として記載するので、一義的には会社が会計ルールに則ってGC注記を付けるかどうかを判定する。しかし、会計監査(監査法人等による会計監査が必要な会社)では注記情報の妥当性も監査されるため、実質的には会計監査でGC注記が必要かどうか判断されることになる。

ルールとはいえ、会社自身が近い将来倒産しますなんて普通は言いたくないしね・・・

 

GC注記が付いた会社のその後はというと・・・

上場廃止、経営破たんとなる会社も少なくない

それだけ、ギリギリの段階になってGC注記が付されるというのが会社(経営者)と監査法人セメギ合いの結果ではないだろうか・・

 

裏返すと、結構やばい会社でもGC注記が付されていない、

いわば潜在的GC注記会社も相当数あるのではないかと思われる。

実際、2015年4月に民事再生を申請した江守グループHDも、

過去5年間ズーッっと営業キャッシュ・フローは赤字だったのにP/Lが赤字に転落したのは民事再生申請3か月前の2015年3月期第3四半期(2014年12月末)だ。

過去ブログでは典型的な黒字倒産の事例として紹介しているが、同タイミングで初めてGC注記が付されている。

民事再生の直前になってに初めてGC注記

が付くってどうなんだろうか?と首を傾げたくもなる。

余談だが、このような典型的な黒字倒産の予兆を長期に亘って見逃してきた監査法人の責任が東芝の例と違って一切指摘されないが、これは一体どういうことだろう?

 

これはちょっと極端な例としても、結構ギリギリの状況になって初めてGC注記というケースもあることが分かってもらえるのではないだろうか?

黒字倒産の典型的なパターン 【江守グループHDの例】 - 溝口公認会計士事務所ブログ

 

で、だ。

その逆が当期起こっているのではなかろうか?

記事にもあるが、GC注記会社数が減少しているのは

『資金調達環境が好転』しているのが一因とのことだ。

赤字でもおカネさえあればすぐには会社は潰れない

ということだ。

GC注記の判定の際の近い将来会社の事業継続が危ぶまれる、の

近い将来=決算日から1年以内に倒産するかどうか

実務上の1つの目安となる。

 

要するに、余命1年が見込まれればGC注記を外すことも可能なのだ。

GC注記が外れたらもう安心、ということにはならないのである。

つまり、

GC注記外れる=超危険水域からとりあえず脱した

 

程度と考えた方が良さそうだ。

 

と、言うのも、そもそもGC注記が付くような会社は、一時的な原因で事業継続が危ういのではなく、

本業が不調であることが根本的な原因

であることがほとんどだ。

2016年3月期決算 上場企業「継続企業の前提に関する注記」調査 : 東京商工リサーチ

つまり、一時的な資金注入で当面は息を吹き返すかもしれないが、本業が回復しない限り近い将来またおカネの底が付くことは想像するに難くない

 

本業が回復しない限り、仮にGC注記が一時的な要因で外れたといっても安心は早計と言えるだろう。

 

このように、GC注記は投資家、株主、取引先などの関係者にとって会社との取引を考える上でも重要な情報だ。

 

では、GC注記は決算書のどこに記載されているかと言うと・・・

 

B/S、P/L等の財務諸表のすぐ後、注記情報のトップ

(継続企業の前提に関する注記)と銘打って記載される。それだけ重要な情報ということだ(全部読んだ挙句に、ところで当社は近く行き詰まるリスクがありますとされると、ズッコケるし・・・)。

個人的には、財務諸表の前に持って来て欲しいくらいだが・・・

 

では、そんなこんなでGC注記が外れてもなお、相当の事業継続リスクがある場合は、というと・・・

有価証券報告書では、

「事業等のリスク」及び

「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」

にリスクの内容が具体的に記載される場合もあるので、こちらにも記載がないかどうかチェックしてみて欲しい。

 

 

3月決算会社の株主総会シーズン 今年の注目ポイントは⁈

3月決算会社の株主総会がすでにヤマ場を迎えているとの日経記事。

 

2000年代半ばに外資ファンドなどのいわゆる『物言う株主』が台頭して既に久しい。

当時はアクティビスト的な言動がセンセーショナルな形で株主総会を動かした。最近は、団塊の世代がリタイヤして個人投資家となったことも奏してそれなりに株主総会は活性化してきてはいるようだ。とはいえ、総じて日本の株主総会

 

『シャンシャン総会』と言われるように、年に1度のセレモニーとして30分程度で会を終える会社が依然多いのではないかと思われる。

 

株主への『お土産』を廃止する会社の株主の株主総会への足が遠のいているなんていう傾向もあるようだ・・・

 

今年の集中日は、6/29とのことだが、最近は株主との対話を重視するために分散傾向にある。今週では、6/14 阪急阪神ホールディングス6/15トヨタLIXILなどの株主総会が開催された。

 

このようなセレモニーとしての株主総会が大きくその位置づけを変えようとしているという内容だ。

 

起点となったのは、昨年(15年)6月に導入された

 

コーポレートガバナンス・コード(CGコード)

 

だろう。そして、今年はCGコードが導入されて最初の株主総会に当たる。それだけに、この1年の各社の取り組みについて、株主がどこに焦点を当て、その結果をどう評価するのかに注目が集まるだろう。

 

QUICK調査では、今株主総会での注目すべきポイントとして、

 

・株主還元策

 

ROE水準

 

・政策保有株の経済合理性

 

社外取締役の独立性・人数

 

などが、挙げられているが。これらはいずれもCGコードの目玉として取り上げられたものだ。

 

加えて、取締役の選任も焦点になりそうだ。大手外資議決権助言会社では過去5年間の平均と直近のROE5%を割り込んだ企業のトップ選任議案に反対を推奨している。

CGコードは、アベノミクス政策を推進するため、

 

『攻めのガバナンス』

として政府の肝いりで実施されたこともあり、ある意味この流れは必然だろう。

 

上場会社を『積極的に事業への投資をして、かつ効率よく稼ぎに結び付ける』へ扇動させる動きだ。

 

上の項目に照らせば、政策保有株(いわゆる持ち合い株)を解消してその資金を積極的に事業へ投資し、効率的に成果(ROEの改善)を出すべきであり、それを硬直化した企業内部の取締役だけでは判断できないのであれば社外取締役に期待する、ということだ。どうしても、目下のところ資金を事業に投資できない合理的な理由がある場合は、会社の中におカネを貯めこむのではなく株主に配当あるいは自社株買いによって還元すべき、という主張だ。

ここ数年は、おおむねこのような論調が主流となっている。

 

記事には、

『株主との対話が進めば100兆円に及ぶ上場企業の手元資金が動き、それで株価が上昇すれば個人金融資産1,700兆円も投資に動く―日本経済全体の好循環への期待も市場にはちらつく。』

 

上場会社の手元資金が100兆を超えたなんていう記事もある。

 

 http://mw.nikkei.com/sp/#!/article/DGXLZO03487690Q6A610C1DTA000

   

現在の取り組みがバラ色の結果に繋がるような書きぶりだが、はたして・・・

 

もっとも、会社が投資家から調達した資金を事業に投資せずに無為に会社に貯めこむことは良くはないが、使えばいいってもんじゃないでしょう。

 

極端な話、無駄遣いでは意味が無い

 

企業価値が高まるような使い方でないと株価は高まらない

 

会社の経営者を擁護する訳ではないが、会社が現在の国内や海外も含めた不透明な経済情勢では長期的な投資に対して尻込みする気持ちも分からなくもない。そういう状況で、投資家だって、じゃあと言って投資した資金を還元されたところでどこに投資すればよいのか、ということにもなる。

 

企業が貯めこんだおカネを吐き出せば景気が良くなるといった単純な話では無いように思うのだ。

 

 

 

 

 

 

自社株買いと株価の関係 最近の傾向 【少しボヤキ系】

http://www.nikkei.com/paper/article/?ng=DGKKASGD18HK5_Y6A510C1EN1000

www.nikkei.com

5月19日日経朝刊から

 

『一部の投資家は、これまであまり注目されてこなかった、ある数字をもとに銘柄選別を始めている。ある数字とは、1株あたり利益だ。』

と言うことで、1株当たり利益に注目した記事。

1株当たり利益の何に注目したか、

1株当たり利益の伸びが当期純利益の伸びを上回る会社は、株価が堅調

と言うことだ。

1株当たり利益が伸びている会社の株価が上昇しているとのことだが、その立役者が自社だ。

『日本の株式市場では長らく、企業業績を純利益の増減率で評価する習慣が続いていた。他方、自社株買いが旺盛な欧米では、1株利益の増減で判断することが一般的になっている。』

過去ブログにも書いたが、株価の1つの目安としてPER(株価収益率)がある。

 

株価=1株当たり利益*PER

 

なので、1株当たり利益が高まると株価が上昇する関係にある。

 

自社株は1株当たり利益を算定する際に、発行済み株式数から控除されるため、例えば、10,000株発行している会社が2,000株の自社株を購入すると場合、

当期純利益が1百万円とすると、

1株当たり利益は125円(=1百万円÷(10,000株-2,000株))となる。

自社株を取得しない場合(100円)よりも株価が25%高まることになる

 

『インテリア商社大手のサンゲツのように、17年3月期の純利益が減る見通しなのに、1株利益は逆に増加を見込む企業もある。』      

 

という極端な例もあるように、純利益の額が低下したにもかかわらず、自社株を取得することで1株当たり利益が高まる方が株価に好影響らしい

 

こんな事情で株価が上昇ってどうなんだろうか?

 

利益額が下がって自社株を買ったことが、株主にとっての会社の価値が高まっていると言えるだろうか?

 

もっとも、適正株価と言っても、誰にとって適正かにもよる。

 

株主にとっての適正株価と言っても、長期保有目的の株主もいれば、短期保有目的の株主もいる

どの株主が正しくてどの株主が間違っているということもない。

 

まあ、短期保有目的の各株主にとっては株式の価値は高まったと言えるかも知れない。

 

しかし、会社が生み出す利益額が減少している場合、もう一つ言うと前提条件が変わらなければフリーキャッシュフローが減少しているとすれば、企業価値は減少していることになる。

ケーキ自体は小さくなったのに、食い扶持が減ったことで、1人あたりの分け前が増えただけ、だ。

 

そして、自社株は株式交換ストックオプションの付与などで再放出すればその瞬間に1株当たり利益は下がることになる

 食い扶持が再び増えることもあるわけだ…

 

経営者も株主、投資家も事情の分かった者同士の化かし合いならお好きにどうぞだが、よもや、会社の価値が高まったと真顔で受け取る人がいないことを願うばかりだ…

 

新年度に入っても気が抜けない後発事象とは? 【三菱自動車の例】

headlines.yahoo.co.jp

燃費不正の問題が発生したタイミングでこうなるだろうな、とは思ったが、

やはり、その通りの展開となった。

 

三菱自動車が、昨日の5月25日に先月4月27日に発表した2016年3月期の業績発表数値修正すると発表した。

燃費試験データの不正に関して発生が見込まれる損失約191億円を特別損失として追加計上するということだ。

三菱自動車から燃費試験の不正についての発表があったのは2016年3月期の終了後の4月20日だ。時系列としては、2016年3月期が終了した後、すなわち2017年3月期に入ってから、ということになる。

 新年度に入ってから発覚した費用をその前の年度(2016年3月期)の決算に取り込まないといけないのだろうか?

このように、決算期末(この場合は2016年3月末)以降に発生した事象の内、会社の決算数値に重大な影響を及ぼすと考えれらる事象『後発事象という。後発事象には、

 

・修正後発事象

・開示後発事象

 

の2種類がある。このうち、修正後発事象は、さかのぼって前期(この場合は2016年3月期)の決算に関連する費用または損失を見積もって反映する必要がある。他方、開示後発事象はその必要はなく、事実と来期以降の決算に及ぼすと見込まれる影響を(2016年3月期の)決算書に注記(投資家等に来期以降の悪影響を注意喚起する意味)する。

後発事象が、修正後発事象か開示後発事象かのいずれに区分されるかは、期末日現在、実質的な原因が存在していたかどうかによる。

 

工場閉鎖を例にとると、過去から製品の売り上げが低迷し、工場の稼働率も落ち込み、いよいよ工場閉鎖を新年度の4月に取締役会で決議するような場合、取締役会の決議は4月だが、工場閉鎖の根本的な原因は3月末時点ですでに発生していると考えられる。このような場合は、修正後発事象として取り扱われ、工場の減損損失を3月末決算へ反映する。

他方、これまで順調に稼働してきた工場が4月に入り火災で焼失したなどの突発的な原因による災害損失などは開示後発事象として取り扱われることになる。

 

三菱自動車の場合は、燃費試験の不正は過去から行われており、2016年3月末現在で今回の補償等の損失の原因はすでに発生したとして修正後発事象と判断され、P/Lの特別損失に『燃費試験関連損失』191億円として計上したということだ。

三菱自動車の決算修正発表)

http://www.mitsubishi-motors.com/content/dam/com/ir_jp/pdf/financial/2016/160525-4b.pdf

 

燃費試験関連損失の内容は、燃費データ改ざんに関連するガソリン代の差額、エコカー減税の追加納税分とのことで、対象となる車台数で割ると1台当たり約3万円とのこと。

国による燃費測定が未了の段階であり、また顧客への補償額なども未定なので、あくまで会社の暫定的な見積もりだろう。

 

実は、今回の修正発表の内容を確認すると、財務諸表の注記情報

『当該燃費試験に関連した損失のうち、当連結会計年度末において合理的に見積ることが可能な金額を燃費試験関連損失引当金として計上しておりますが、利害関係者への具体的な補償内容等が決定してないことから、翌連結会計年度以降変動する可能性があります。

と記載されていた。修正後発事象として取り扱うも、関連損失のすべてを金額換算して見積もることが時間的、物理的に難しい場合は、開示後発事象と同様に注記対応となる。今回、特別損失とした191億以外に来期以降追加の損失の可能性が高いということを示唆している。

 

ところで、今回の修正後発事象による決算修正発表は、金商法有価証券報告書)に基づく決算数値についてだが、会社法株主総会招集通知)決算はどうなっているのだろう?

タイミング的にはおそらく会社法決算については会計監査は終了(監査報告書)しているだろうから、会社法決算には191億円の追加損失は反映されていない(開示後発事象として注記)と思われる。株主総会での配当などの決議への影響なども気になるところだ・・・

 

いずれにしても、まだまだ結末には程遠い・・・

 

 

 

決算発表集中日 その理由とは? 【最後少しボヤキ系】

www.asahi.com

 『東証によると、13日は計747社が決算を発表し、過去最多の「集中日」となった。東証は期末後45日以内の決算発表を企業に促し、投資家が余裕をもって決算情報を分析できるように発表の前倒しも求めた。』

先週の5月13日が3月決算会社の決算発表の集中日だった。

ここ数年、取引所の要請もあって分散傾向にあった決算発表がそのぶり返しなのか、一転して過去最多の混雑を極めたとのこと。

決算発表とは、会社が決算をまとめて外部に公表する手続きだ。記事にもあるが、取引所は45日ルール(今は緩和され望ましいレベル)、決算日から45日以内での決算発表を推奨しており、その期限前のぎりぎりのタイミング(金曜日)が5月13日(金)ということだ。これは、業績をできるだけ早期に投資家・株主に投資資意思決定のための情報を届けるという目的だ。そして、望ましいと言いながらも、50日を超える場合はその理由を開示しろという要請もあり、会社からすれば決算が遅れた理由を書かされるというのはある意味辱しめを受けるようなものなので、実質的にはルールといっても良いだろう。

 

一方で、会社からすれば外部公表した業績を会計監査で修正することになれば、訂正発表することにもなり、これもまた恥ずかしい・・・ということで、会社が決算をまとめるだけでなく会計監査もある程度終わった段階で決算発表となると、45日は結構厳しいハードルだろう。ということもあり、5月13日を含む期限前の最終週に決算発表が集中する傾向はどうしてもある。

もっとも、早い会社は早い。一番早い会社(あみやき亭)は4月1日に決算発表しているが、これは特殊としても、3月決算会社約2,400社のうち、4月20日までに発表する会社は10社程度ある。そして、1つ目のピークがGW前発表で200社程度、2つ目のピークがGW明け発表で300~400社程度となり、翌週が45日ルールの週の駆け込み発表になる。

 

取引所がもう1つ要請しているのが、決算発表の分散だ。会社の決算体制や45日開示という中でどうしても期限間際での決算発表に集中することは理解できるものの、『株主・投資者による決算情報の収集や分析に影響を及ぼし、結果として開示された決算情報の投資判断への反映が遅延するなどして、証券市場における価格形成の円滑性、効率性が低下することが懸念されるところです。』として出来るだけ決算発表日の分散を求めている。また、ピンポイントではギリギリのギリ、45日目の午後3時にオンラインでの登録が集中するとシステムがオーバーフローするなんていう問題もある。

ここ数年は、決算発表日の分散が効果として表れていた。例えば、今年の5/13、つまり45日以内の最後の金曜日に当たる以下の日程の決算発表社数は以下。

 

2015年5月15日 359社 (15.2%)

2014年5月15日 259社 (12.4%)

これに対して

2016年5月13日 747社 (約25%)

昨年対比倍以上の集中度合いになった。大幅に分散傾向が停滞(悪化)したようにも見えるが、実は昨年までは5月11日(月)~5月15日(金)の週の間での発表日の分散を図っていたということもある。つまり、直前の2,3日で分散させていた決算発表が今年は5月13日に集中してしまったということであろう。

業績が悪いとあまり目立ちたくないので他社と同じ日に発表して目立たなくする、ということも言われるが、会社の業務カレンダーは決まっていて5月の取締役会日の午後に決算発表という流れが多いのではないかと思われる。したがって、業績の良い悪いで日をズラすというこは通常はあまりないのではないかと思う。それよりも、業績予想値、特に今年は想定社内レートをどうするか、の確定に時間がかかったのではないか。また、ホンダのように(タカタのリコール問題の影響額)決算に織り込むべき数字が(監査法人との協議も含めて)確定しない状況などでは決算発表日を遅延することになる。

 

決算発表が集中した理由の1つとして記事には、

『しかし、複数企業の社外取締役を掛け持ちする経営者が増えた結果日程調整が難しくなって、決算発表が集中する事態を招いた。』

 

コーポレートガバナンス・コードの目玉の1つの社外取締役、これが決算発表の集中の原因とは、なんとも皮肉な結果だ・・・