前回、サントリーのJTの飲料自販機事業買収で発生が見込まれるのれんについて書いた。
その中で、買収差額(買収金額-B/S純資産)の全額がのれんとなるわけではない点に触れた。実際、先のサントリーのビーム社買収では買収差額1兆6千億円の内、実に60%強の1兆円が『商標権』として処理され、のれんは40%弱の6,000億円がのれんとなった。
詳しくはこちらを参照
結構なインパクトがあったようで、そんな方法があったのか?商標権は償却しなくていいのか?という質問ももらったので、ここで補足しておきたい。
現行の会計ルール(企業結合に関する会計基準)では、上記買収差額を無条件に全額のれんとするのではなく、特許権、実用新案権、商標権、顧客リストなどの無形資産として認識できるものはまず認識して、それ以外の部分をのれんとして把握することを求めている。これを、purchase price allocation(PPA=パーチェス・プライス・アロケーション 取得原価の配分)という。
なので、むしろ買収差額の全額がのれんとならないのは当然なのである。しかし、買収差額を会社の好きなように商標権やブランドと言った無形資産にして良いということではなくて、当然ながらそうするべきの合理的な根拠が必要となる。
とは言え、このPPA、決して容易ではない。
というのも、M&Aにおける買収金額がターゲットとなる会社のB/Sの純資産に対して未だ認識されていない無形資産を積み上げていく方法だけであれば良いのだが、実際にはその会社が将来に亘って稼ぎ出すキャッシュの現在価値から導く方法(DCF
法)やEDITDAのマルチプルなどで算定するのが一般的で、そうなると買収金額はあくまで将来の稼ぎの積み上げの結果であって、B/Sの純資産を超える部分が具体的に何の価値から構成されているのかを把握しにくい(コンサルティングフィーも発生するし・・・)。
サントリーのビーム社買収の件では、調査の結果、1兆円を商標権と認識するだけの十分な根拠があったということだろう。
そして、認識された無形資産は原則的にはその効果が見込まれる期間にわたって償却する必要がある。なので、こちらも無条件に”償却しません”は通らない。サントリーは、商標権の耐用年数を見積もることが出来ない(←これにも合理的な根拠があったということだろう・・・)ということで償却計算が出来ない⇒やむなく非償却、としている。
なので、一般的に商標権のような無形資産を償却しない(=償却費が発生しない)ということではない。
ということを念頭におくと・・・
サントリーのビーム社買収の会計処理に”思考の跡”を感じざるを得なく、今回(JTの飲料自販機事業買収)も何か・・・と連想してしまうのである(悪い癖なのだが・・・)。