溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

不適切な会計処理の現況 【定点観測】

www.nikkei.com

東京商工リサーチ20日、2017年度に粉飾や横領など不適切な会計処理を開示した上場企業が64社だったと発表した。前年度(42社)から22社増え、08年の調査以来で最多となった。』

 

東京商工リサーチから2017年の上場会社を対象とした『不適切な会計・経理の開示企業』調査結果が発表されたので定点観測として書き留めておく。

 

2008年度の調査開始以来、10年間で社数、件数ともに最多を記録とのこと。

 

不適切会計開示企業推移

 

原因の1,2は以下。

経理や会計処理ミス 29社(53.1%)

粉飾 22社(34.4%)

不適切会計開示企業 内容別

不適切会計と言うと、架空売り上げ、費用の先送りなどの粉飾決算が思い浮かぶが、意外に思うかもしれないが、最多は『会計処理ミス』だ。

経営者の中には、

経理なんてのはコンピュータが自動的に計算、処理するんだろ。何でそんなのに多くのリソース(人員とおカネ)を割かないといけないんだ?

と思う人もいるかもしれない。

しかし、最近は特に会計ルールの複雑・高度化は目覚ましく、これらに適切に対応するにはそれなりのコンピュータシステム、人材の採用・育成などをもって対応する必要がある。グローバルに事業展開している会社となれば、その対象は国内本社のみでなく国内外のグループ会社にも及ぶ。

必要な対応を怠った結果として、会計処理のミスや誤りに繋がる傾向が調査結果から読み取れる。

 

また、市場別にみると、東証1部企業が34社(53.1%)と最多。

東証1部企業は他の市場と比べるとビジネスの規模が大きく展開が幅広い会社が多い。ということは、傘下に多くのグループを持つケースも多くみられる。

発生当事者別にみると、『子会社・関係会社』で発生した不適切会計が30社(46.8%)とトップ。子会社・関係会社での発生件数は、

15年度:27件(45%)、16年度:17件(40%)と概して高い水準にある。

ということで、東証1部企業の本社だけでなく、その子会社・関係会社で発生した件数が多くなっているということが考えられる。

不適切会計処理には会計処理ミスと粉飾の2つの要素が含まれ、会計処理ミスに関しては上述の適切な会計処理のための体制不足が要因として考えらえる。一方で、粉飾については、不正はえてして『死角』で発生しやすいことを裏付けている。

事業における死角とは、

・主軸事業でない

・本社でない

 

簡単に言えば、関わっている人間が少ない、と言う状況を意味する。

つまり、本社から見て目が届きにくい状況である子会社、特に海外子会社はそのリスクが高いと言える。最近の事例としては亀田製菓のタイ子会社の例が挙げられる。

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『タイ子会社の不適切会計問題に関する調査報告書を公表した。報告書では2010年12月から17年9月にかけて棚卸し資産が累計で約6億円過大に計上されていたと認定。原因として子会社の経理部以外の第三者によるチェック機能が働かないなどガバナンスや内部統制が不十分だったと指摘した。
 独立調査委員会の報告書によると、不適切会計は現地子会社のタイ人の経理部長が主導したと指摘。同経理部長は独立調査委の調べに不適切会計をした理由として「赤字が続くと会社が閉鎖されてしまうと思った」と話しているという。』

 

海外子会社の粉飾を含む不祥事の要因と対策については以前ブログで指摘した。

不適切な会計 最近の傾向と抑制のキーは? - 溝口公認会計士事務所ブログ

 

コーポレートガバナンスコードの浸透によりに少なからず企業(経営者)の不適切な会計処理を含む不祥事の防止や早期摘発に対する意識が高まっていることが、こうした不適切な会計処理の社数・件数が増加につながっているとの分析もある。

とすると、当面は潜在的な発生件数は横ばいであったとしても、摘発され発覚する件数が増加する傾向が続くのだろうか・・・