溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

P/L脳は本当に悪いのか?

日本企業の多くは、P/L脳に汚染されている

 

といった言い方を最近はよくされるようだ。

 

P/L脳=✕

ファイナンス脳=〇

のような表現がされることは認識していたが、たぶんそういうことなんだろうな、とあまりに気に留めていなかった。

上手いこと言うなとは思ったけど(笑)

 

最近気になることがあったので、改めて調べてみると、

 

P/L脳とは、「目先の売上や利益などのP/L上の指標を最大化することを目的とした短絡的な思考態度のこと」

 

のようだ。

 

「増収増益こそが経営者の責務である」

「無借金は健全経営の証である」
「黒字だから問題ない」
「減益回避のためにR&D費用を削減しよう」

 

P/L脳の問題点として、

・キャッシュ

・資本コスト

・事業価値

を軽視していると指摘される。

キャッシュ:

P/Lでは、減価償却方法や固定資産の減損あるいは引当金をコントロールしたり、本来は売上原価や販管費を特別損失として計上したりすることができる。つまり、P/Lには解釈の余地があり、極端な話、「見せかけ」の利益を作ることができる。しかし、黒字倒産しかりで、キャッシュが無ければ会社は潰れる。経営におけるクリティカルマターはキャッシュである。

資本コスト:

会社の調達資金には銀行や株主からの期待リターンといった資本コストが発生している。借入金の金利を上回る利益を出さないことには採算が採れないことは自明だろう。しかし、株主資本コスト(株主の期待リターン)は目に見えないこともあり、軽視されがちだ。そのため、資本コストに満たないリターンしか実現できていない場合でも「黒字だから問題ない」といった非合理な判断がなされている会社は少なくないのではないか(CGコードではそんな会社は無いはずなのだけど・・・)。

事業価値:

目先の売上や利益だけを考えると削減対象となるR&Dや教育研修費も、将来の事業成長や事業価値の向上のための先行投資のはずだ。目先のコスト削減にばかりに囚われているおそれがある。

要するに、

短期的な業績に囚われず「長期目線で事業価値の最大化を考えていく」という視点を重視すべき

 

ということだ。

 

まあ、その通りではある。

そういえば、過去にこんなブログも書いていた。

tesmmi.hatenablog.com

 

しかし、それとP/L脳がダメというのはどうも結びつかない。

というか、それってP/Lの守備範囲じゃないし・・・

 

のこぎりが必要な時にトンカチ持ってきて、使えねぇ・・・

って言われてもなあ、って感じがする。

 

P/Lがどうと言うよりは、これは視点の問題だろう。

 

それに、P/L脳が悪いというのであれば、いっそのこと、P/Lを無くしてしまえば良い

それで、企業経営に支障が出ないのであれば、作成の手間も省けるというものだ。

 

ファイナンス脳が〇でP/L脳が✖っていうのは、数字を数字としてしか見ていないということで、たぶんP/Lの本質的な意味も理解していないし、単なる思考停止状態を指しているように思う。

 

長期視点で事業を考えることは重要だが、同時に長期スパンで立てた計画が現在どのように進捗しているか、短期的に業績を把握するニーズもあるだろう。それによって、対計画との差異を分析したり、改善計画に役立てたりする。例えばこれがP/Lの役割の1つだ。

また、P/Lは利益だから嘘をつく、だからリターンはキャッシュで捉えるべきとの意見もある。確かに、黒字倒産などの極端なケースはあるが、通常の場合であればキャッシュの収受のみで業績を把握する方がはるかに難しい。一定期間にいくらのキャッシュが増減したかは分かっても、それと業績が良いのか悪いのかの評価は別物だ。1年間でキャッシュが増加していれば良いというような短絡的な判断であれば、それはP/L脳と同じ状態だ。

なお、原始的なP/Lはキャッシュベース(現金主義)で作成されていたが、現在は発生ベースで作成されているのはその方が企業活動の成果を把握しやすいためだ。もっとも、これは短期的な業績の把握や評価においてであって、長期視点で企業価値等を評価する場合は、金銭の時間価値を考慮する必要があるのでやはりキャッシュベースが望ましい。

それに・・・

短期、長期の視点がそのままP/L、キャッシュに区分けされるわけでもない。会社の生き死にを決するのはキャッシュだ。資金ショートすれば、ジ・エンドとなる。そのため、資金繰りは(P/Lのタームよりももっと短い)月次で検討する必要がある。

 

つまり、P/Lかファイナンスかという問題ではなく、短期視点で数字を見るか、長期視点で数字を見るか、その場合、何を使って数字を見るのが良いか、と言う問題だと考える。

P/L云々もツールの役割分担の問題であり、必要に応じて見るべき数字を切り替えていきましょう、ということだ。

そういう意味では、P/L脳が悪いのではなく、P/Lしか見ない脳が悪いということだろうまあ、そういう人たちは実際にはP/Lの意味も分からず何となく数字を追っかけているだけなのだろうけど…

 

それから・・・

短期的視点に終始するのは良くないが、かといって長期的な視点を盾に何ら対策を講じず問題を先送りするのはもっと始末が悪い。