溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

特許価値の開示に思う(ある会計士のつぶやき)

www.nikkei.com

 

前回のブログから1カ月以上経過し、すっかり久しぶりとなってしまった・・・

書きたいことが無かったわけではないが、色々と忙しくしていてついつい間が空いてしまった(言い訳)。

たまたま本日の日経朝刊で結構大きく取り上げられていたので、少しだけ呟いてみる。

 

旭化成「特許価値」を投資家との対話に生かす。特許価値は非財務的な価値指標で、他の特許への引用件数や特許保有地域などから求める。今年から毎年開示する。多角化企業価値が抑えられる「コングロマリット・ディスカウント」もあり株価がさえない。特許価値が伸びると利益も増えるという一定の相関があるとし、潜在的な成長力を訴え、株価の底上げを狙う。」

 

特許に代表される無形資産の活用は少し前から盛んに言われているように思う。ハードなモノ作りからコト作りへの移行、米国のGAFAを見習えと言わんばかりに、しきりに知的財産の形成や活用を助長するような記事も多くみられる。まあ、その通りだとは思うが、”アメイジング!、ビューティフル!!”と感嘆する外国人観光客に喜びと同時に驚きの表情の地元民がごとく、普段から当たり前にある存在を改めて認識することは案外と難しいのかもしれない。欧米企業からはなぜ実現できているのか不思議に思われる日本的経営の優位性も、日本企業の経営者や従業員にとっては何が優位性かピンとこないという話もよく聞く。むしろ、時代遅れといったレッテルを貼った形式的な業務の欧米化は、そうした強みを削いでいるようにも思える。そういう意味では、”study abroad”と昔、ハーバード大学のサマーズ学長が話していたのを思い出す。外から自分を客観視することも大切だろう。

 

特許価値は引用件数や産業分野別、出願国などに基づいて計算し、自社グループが持つ特許をすべて足し合わせた総価値だ。算出は法務情報サービスの米レクシスネクシス社が提供する分析ツール「パテントサイト」を使う。同ツールは90カ国以上の特許網を把握し、価値の算出手法も公開している。同社によるとスウェーデンボルボや独シーメンス、日本ではソニーグループやリコーなど国内外など計350社以上が分析に使った実績がある。」

 

株価には、会社が保有する有形、無形の資産に対する投資家それぞれの評価が織り込まれている。評価においては、コーポレートファイナンス理論に基づいたDCF法などの手法を用いることがおそらくは一般的だろう。

 

参考までに、無形資産評価の指針を共有する。

無形資産の評価実務-M&A 会計における評価と PPA 業務-(経営研究調査会研究報告第57号)

https://jicpa.or.jp/specialized_field/publication/files/2-3-57-2a-20160621.pdf

 

会社の価値をどう捉えるかは今後、様々なアプローチが出てきそうだが、現在では金銭価値で評価することが一般的だ。記事で紹介されている評価手法については詳細は確認していないが、参考として紹介した経営研究調査会研究報告第57号などでは、

・コストアプローチ

・マーケットアプロ―チ

・インカムアプローチ

に基づく価値評価を示している。それぞれアプローチの違いはあるが、いずれも、現在、あるいは将来、いくらのキャッシュをもたらすかが価値算定の基本的な考え方だ。

 

しかし、既存事業や稼働している製造設備を評価する場合に比べて、特許権などの無形資産は未だ事業などの”形”になっていない潜在的な価値である場合が少なくない。したがって、価値算定のための前提条件をどう設定するかが難しい。特に外部者にとっては、無形資産の内容や性質、あるいはその活用についての情報が限られていることもあり、算定される評価額にかなりのばらつきが出そうだ。

そういう意味では、記事にあるように一般に公開された手法により算定された価値には一定の客観性もあり、他社との比較もしやすくなるように思う。また、企業が保有する無形資産の価値を提示するということは、無形資産をどのように活用して将来のキャッシュフローを生むのかといった事業計画を示すことになるため、外部の投資家にとっても参考になる有意義なIR活動になると思う。

また、こうした活動が進展すれば、豊富な無形資産を保有しながらも活用されずに終わっていたPBR1割れ企業にとってはプレッシャーになるのではないだろうか。PBR1割れという状況が既に相当なプレッシャーなはずであるが、株式市場における注目度が低いこともあり放置されている(つまりさほどプレッシャーが強くない)企業もあると思う。記事にある無形資産価値とEBITDAの相関についても、無形資産が活用された結果の成果としての数値がEBITDAに表れている。宝の持ち腐れ状態の企業にはこうした相関は見られないはずだ。単に無形資産を保有しているだけでなく、それらをどのように将来のキャッシュに繋げていくか、見えない資産の見える化に対する姿勢がさらに問われることになるのではないだろうか。