溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

経営トップ選任プロセスは透明であれば良いのか?

www.nikkei.com

少々古い記事ではあるが、日経によれば、

日本経済新聞社が16日まとめた第12回「企業法務・弁護士調査」で、経営トップの選任過程の透明化が進んでいない企業が多いことがわかった。今春には複数企業でトップ人事を巡る混乱が起きたが、トップの後継者育成計画(サクセッションプラン)をもつ企業は27%にとどまる。企業統治改革は道半ばだ。』

 

とのことだ。記事に書かれている内容から、経営課題としては

 

・(後継)経営トップの選任プロセスの透明化

・経営トップの育成計画

 

の2つがあり、それぞれ別個に議論すべきではないのかなと思う。

 

当たり前だが、会社にとって経営トップの役割、存在は大きい。

もちろん、株式会社は合議制、取締役会があり、その中には社外の目もあり、さらには株主総会から監視され・・・とは言え、経営トップが変われば、会社の方向性も大きく変わる。それだけに、将来の経営トップをどう育成するか、は会社にとって非常に重要な課題だ。

良い例ではないが、経営トップの権限が大きということは、経営トップの考え次第では会社が不正行為に走るケースもあり得る。実際そういう事例もあるが、そうなると、資産活用が不効率だ業績が悪化などというレベルの問題ではなく、

会社存亡の危機ともなりかねない。

こういった事例が多くなると、コーポレートガバナンスも結局のところ、経営トップをどう育成するか?、にかかってくるようにも思える。

経営者としてのスキルという面では、例えば、パナソニックトヨタのように

カンパニー制を導入することにより、売上、利益(PL)だけでなく、資産(BS)の効率的な活用も意識した経営を促したりする会社もこれからは増えるだろう。そして、今後ますます問われるのは、経営トップの(企業)倫理感の養成だろう。

 

企業が経営トップ育成に今後どのような施策を導入するのか注目していきたい。

 

そして、もう1つの課題。経営トップの選任プロセスの透明化、だ。

これについては、個人的には、透明であるに越したことは無いが、二次的、副次的だと思っている。

選任プロセスが透明かどうかよりも、重要なのは適任者が経営トップになっているかどうかが問題だということだ。

例えば、『○○氏、10人抜きで経営トップ就任』といった記事を良く目にする。

こんな報道するのもどうかと思うが、それはともかく、こういう報道があること自体、従来の日本企業の多くが、経営トップは順番待ち、だったということだろう。

誰々さんの次は私、その次は彼・・・ある意味、これは選任プロセスは透明ということではないか?

しかし、その順番が来た時に、会社が抱える経営課題、それに対する自分の経験やスキルが必ずしもマッチしているとも限らない

 

過半数社外取締役で構成される指名委員会などで経営トップを選任するようになれば、内輪でこそこそでなく社外の目から公明正大に、という点で選任プロセスの透明化は図られるかもしれないが、果たして、

社外の目は会社にとって適任者を選任する目をもっているのか?

何を基準に経営トップを選任するのか?

(偉い人に多いのが『自分の経験からすれば・・・』って、それも透明性に欠けるし・・・)


会社が用意する候補者のプロフィールや選考理由、記事にあるような客観評価も含めて、を基に、という事であれば、それに対してノー、っていうのはあまり期待できないんだな…

 

あまのじゃくな私は疑問を持たざるを得ない。

 

 

 

 

決算発表ポイント解説ブログ その3 【のれんの正体とは!?】

 

www.nikkei.com

 

記事は暖簾に対する監査の厳格化の潮流についてだが(それはそれで別の機会に書いてみたい)、のれんも減損の対象になるんですか!?との質問も受けることがあるので、今回はのれんの減損を取り上げる。

 

端的に言って、のれんは貸借対照表(B/S)上、無形固定資産

の区分に計上される。つまり固定資産、だ。減損会計(ルール)の対象は固定資産なので、のれんも当然減損のになる。

 

と結論を先に言ってしまった後で・・・

『特に焦点となっているのが「のれん」という無形資産の会計処理だ。のれんとは、企業が買収先の純資産を上回る価格でM&A(合併・買収)を実行した際に生じる。買収事業の収益見通しが狂った場合、企業はのれんの価値を下げ、その分を減損損失として計上しなければならない。

 最近の代表例はなんといっても債務超過に転落した東芝だが、のれんを減損する企業は他にも少なくない。楽天は2016年12月期に米動画配信関連事業などで、243億円の同損失を計上。セブン&アイ・ホールディングスは百貨店ののれん価値などを引き下げ、17年2月期に減益となる。キリンホールディングスはブラジル子会社ののれんの減損などによって、15年12月期に初の最終赤字に転落した。』

と、まあ、最近の事例を見てものれんの減損を要因とした業績悪化は少なくない。記事にもあるがその背景には、日本企業のM&Aがあり、M&Aが結果として上手くいかないとのれんの減損となる。日本企業のM&Aが今後も増加する傾向を考えると、企業業績に与えるのれんの減損損失の影響は今後も益々大きくなるだろう。

 

ところで、ここで今一度のれんの正体を確認しておきたい。

のれんは一般的に(会計の業界では)『超過収益力』と言われる。

ある会社を定価を上回る理由、ということだ。書いてから見て定価を超える何らかの価値を見出した結果、ということだ。ここで、定価は買収する会社の簿価純資産(BV)だ。要はBV100 の会社を200で買う場合に、単純差額100がのれん、ということになる。

ところが、厳密には100が全額のれんになるわけではない。100の内、個別に把握される無形資産は別途認識する必要がある。例えば、買収先の会社が持っている

商標権やブランド、顧客リスク、商圏といったものだ。

これらも、買い手の会社にとってはもちろん、というか、通常はそれらこそが高い値段を出す理由だろう。

のれんは、買値とBVの差額の内、これら無形資産として把握されなかった以外の部分、となる。定価以上の価値で商標権やブランド、顧客リスク、商圏でもないバリュー・・・はて、いったい何だろう?

実は、買収価額(買値)は個別の無形固定資産の評価の積み上げで決まるわけではなく、(いろいろなアプローチがあるが)その会社が将来稼ぎ出すおカネの合計の現在価値をベースに決める場合(DCF法)や、同業他社の利益や剰余金などを参考地として決める場合(マルチプル法)などがある。

お分かりだろうか?そうなのである。要は、直接にのれんの価値を測定して金額把握している訳ではないのだ。あくまで、結果論、

 

のれん=買収価額‐個別に把握できる無形資産‐BV

 

差額、ということだ。言い方を変えれば、直接的に説明できない金額

のような存在ともいえる。もしかしたら、競争入札の際、

勢いでもう一声!の結果かもしれない・・・

 

ということで、のれんはそれ自体明確に価値を測定・評価された金額ではないのである。つまり、買収した会社の事業が(買収する際の)計画通り進捗してこそ、結果として価値が維持していると考えれらる存在であり、逆に業績が悪化すると、いの一番に減損の対象となるのがのれんなのだ。

 

M&Aの増加⇒高値での買収⇒のれんが多額化

 

⇒のれん減損リスク大

高く買えばそれを上回る業績を期待せざるを得なくなるから、ハードル上がるしね・・・

 

ちなみに、日本の会計ルールでは減損損失はその後業績が回復しても戻し入れ(減損がなかったことにすること)を認められないが、IFRS(国際財務報告基準)では一定の条件を満たせば減損の戻し入れは可能だ。しかし、のれんに限っては減損を戻し入れることは認めていない。それぐらい存在が危うい無形固定資産なのである・・・

 

 

 

 

 

 

決算発表ポイント解説ブログ その2 【JXホールディングスの例】

www.nikkei.com

『JXホールディングスの2017年3月期は、連結経常損益が約3000億円の黒字(前期は86億円の赤字)になりそうだ。従来予想(2300億円の黒字)を上回る。昨年12月以降の原油価格が想定より高く在庫の評価損益が改善する。灯油やガソリンなど石油製品の市況が昨秋から改善しているのも追い風だ。

 石油元売りは原油の備蓄を義務付けられている。原油価格の上昇は手持ち在庫の評価額を押し上げ、損益計算書には利益として計上される。』

 

何で原油価格の値上がりが利益になるのか?

と疑問を持つ人もいるだろう。

また、ちょっと会計に明るい人は、

取得原価主義では在庫の評価益を計上して良いのか?

と思うかもしれない。

いずれも、もっともな疑問だ。

 

これについては、業界特有のなんというかいわゆる表現(しかも、誤解を招きやすい)問題なのだ。ちなみにJXでは『在庫影響』と呼んでいる。

実はJXの件については、ほぼ毎年この時期には当ブログで書いている(笑)

☟ 

在庫評価益!? JXホールディングス - 溝口公認会計士事務所ブログ

 

なので、ここでは要約する形で紹介したい。

 

まず、ざっくりとした原油の仕入れ値の変化と会社の利益への影響は以下。

 

原油を販売する会社にとっては原油安→販売価格の下落→利益にマイナス影響

原油を使用する会社にとっては原油安→製造価額の下落→利益にプラス影響

 

実は、ここで言う在庫評価損益は期末に残った在庫をその時点の時価(販売価格等)に置き換える場合に発生する評価損益ではない

 

ここがややこしい・・・

 

在庫の評価方法を理解するには良い題材なので少し書いてみたい。

 

例えば、期首に@100円の商品が100個 あり、当期中に@150円で1,000個仕入れ、800個販売し、期末に300個残ったとする。

 

期首  100個 @100円

仕入  1,000個    @150円

販売  800個 @   ?円

期末  300個 @   ?円 

 

さて、このケースでは1個当たりの売上原価、そして期末在庫はいくらになるだろうか?

 

期末及び販売された在庫単価がいくらになるのか?これを計算する方法が在庫の評価方法であり、JXホールディングスは『総平均法(による原価法)』を用いている。

総平均法とは、期末在庫が期首の在庫と当期仕入た在庫が万遍なく混ざって存在している、ということであるので、単価@を計算すると以下になる。

 

期末在庫の単価

=(@100円*100個+@150円*1,000個)/1,100個=145.5円

小数点第2位を四捨五入

したがって、この場合は期末在庫そして販売された在庫も@145.5円となる。

ここで、145.5円は当期の仕入単価150円よりも4.5円安い。

これは、期首の在庫単価が100円(<当期仕入単価150円)の影響である。

 

当期の仕入値@150円のみで売上原価を計算する場合

売上原価:@150円*800個=120,000円

期首在庫を含めた総平均法で売上原価を計算する場合

売上原価:@145.5円*800個=116,364円

売上原価が3,636円小さくなる=利益が大きくなる

 

要は、相対的に安い期首在庫の影響を総平均単価が受けるので、期中の仕入値だけで評価するよりも相対的に売上原価が安く計算されることで、結果(売上総)利益が大きくなるということだ。 

当期のJXホールディングスもこれに似た状況であり、この結果得られる追加的な利益を『在庫評価益』と呼んでいるのである。

 

なので、在庫評価損のようにP/L上で金額が別把握できるのではないので、念のため。

 

 

 

決算発表ポイント解説ブログ 【IHIの例】

www.nikkei.com

 

決算発表解説ブログと題しながら、いきなり決算発表でない記事を取り上げてしまった(汗)・・・

この時期は3月決算会社の第3四半期(Q)決算発表の時期だ。2月中旬のタイムリミットまでこれから続々と上場会社の決算発表がなされる。また、決算発表の前に『前さばき』としてこんな数字になるよ~とか、こんな損失が発生するよ~と、いざ決算発表して投資家(や株価)がアップセットしないように事前の情報開示をする会社もある。

IHIはまさにその例だ。

IHIは23日、米国の連結子会社の関係会社株式評価損と国内の関連会社の債務保証に伴い、2017年3月期に計265億円の損失が発生すると発表した。』

 

日経にはこのような書き出し。

要素としては、株式評価損と債務保証の2つがあるので、1つずつ取り上げる。

 

①関係会社株式評価損

米子会社の採算が悪化により個別では関係会社株式評価損として155億円の特別損失を計上、連結ベースでも同様の額が営業損益の押し下げ要因となる。

 

IHIの個別と連結それぞれの影響が書かれているので少々分かりづらいかもしれない。

関係株式評価損(155億円)は、IHI個社の決算で計上される(特別損失)。

 

簡単な例で説明する。

 

親会社が子会社に200億の出資(子会社設立)

 

(親会社)子会社株式 200億円 ⇒(子会社)資本金 200億円

 

子会社の業績が不振で、損失が溜り溜まって、155億円になったとする。

すると、子会社の純資産は

 

(子会社) 資本金 200億円

     △欠損金 155億円

      純資産  45億円

と純資産が45億円になる。親会社から見れば、200億円の投資が45億に目減ったことになる。

このような場合、会計ルールではざっと半値未満に投資価値が下落した場合(さらにいうと、業績の回復が難しい場合)、投資額の価値を切り下げる必要がある。

これが、IHIが今回発表した関係会社株式評価損の意味だ。

 

一方で、IHIグループの連結決算への影響はどうかというと、連結決算では子会社の決算書(P/L、B/S、C/S等)を合計することから連結作業をスタートする。子会社の業績の悪化は子会社のP/Lの至るところに表れているだろうから、それがそのままにIHIの連結P/Lに反映される。

 

これも簡単な例で示す。

155億円の損失は累積的なものだろうが、単純化して今年度の損失が155億円とする。

子会社のP/L

売上高    500

売上原価   400

売上総利益  100

営業費用   255

営業利益  △155

税金費用    0  ・・・営業外、特別は割愛した

当期純利益 △155

とすると、これがIHI親会社のP/Lに合計されるので、連結ベースでは営業利益に155億円の損失が表れることになる。

 

ちなみに、連結決算では、IHI親会社での株式評価損155億円は取り消される。155億円の株式評価損のそもそもの原因は、子会社の業績不振であるが、連結P/Lでは当の子会社の業績(P/L)を取り込んで、結果155億円の損失を反映しているため、株式評価損をそのまま生かしておくとダブるためだ。

 

②債務保証

創薬関連ではは医薬品の製造会社に保証していた110億円の債務を特別損失として計上するとのこと。

債務保証と損失の関係がもしかしたら分かりにくいかもしれない。

UMNファーマと共同設立した会社UNIGENの製造資金及び運転資金に係る債務の保証をIHIが行っていることが話のスタートだ。そして、諸事情により保証債務の 履行可能性及び回収可能性,つまりIHIにとっては債務の肩代わりによる損失の発生の可能性が高まったものと判断し,保証債務額の全額である 110 億円を債務保証損失引当金(特別損失)とし て計上するというものだ。IHIとしては、他人(といっても子会社だが)の借金を代理弁済するが、この支出はIHIにとって将来の投資でもないし、現在や将来の収益獲得のための費用でもない、単なる損失(費用と損失の違いも近くに書いてみよう・・・)だ。今回は、未だ債務保証が履行されたわけではなく、債務保証の履行の可能性が高まったということで引当金として計上されたが、確定損失でも引当金繰入でも会計上、P/Lへの影響は同じだ(税務上の取り扱いは異なる)。

 

 以上、IHIのプレスリリースの内容を説明してみた。

好評であればシリーズ化してみたい(笑)

 

ちなみに、

 

『同社は17年3月期の最終損益をゼロ(前期は15億円の黒字)と見込んでいる。資産売却などにより2月1日の16年4~12月期の決算発表では通期の業績予想を据え置く。』

 

と締めている。3Qの決算発表は同時に本決算(3月)の業績予想とも大いに関係する(投資家の関心)。そのため、会社としては、3Qの業績だけでなくそれも踏まえて本決算をどう着地させるかを考える必要がある。3Q決算はそういうタイミングでもある。

 

IHIのプレスリリースは☟

https://www.ihi.co.jp/var/ezwebin_site/storage/original/application/e6d341b705b3adfc8c4c1f594076aedb.pdf

2人目の社外取締役ってどんな人が適任?

2017年最初の記事はどんな内容にしようとあれこれ考えている内に、1月も半ばが過ぎてしまった・・・

 

で、結局、コーポレート・ガバナンス ネタ(汗)

 

コーポレートガバナンス・コード(CGコード)導入を機に一気に火がついた社外取締役

日本取締役協会の公表によれば、

東京証券取引所コーポレート・ガバナンス情報サービスを利用して、8月1日に集計した結果では、東証1部上場企業1,970社における、独立取締役の数は昨年比で1,301名増えて4,271名となり、取締役総数(18,304名)の23.3%を占める
独立取締役を2名以上選任している企業は、昨年比で31.2%増加して80.3%(1,583社)に、うち3人以上選任している企業は、昨年比で2倍の25.6%(505社)

とのこと。

(参照:

http://www.jacd.jp/news/odid/cgreport.pdf#search=%27%E7%A4%BE%E5%A4%96%E5%8F%96%E7%B7%A0%E5%BD%B9+2%E5%90%8D%27

ここまで急激に増えるとはちょっと驚きだ。

というのも、供給サイド、社外取締役のなり手が確保できるのかという問題があるからだ(後述)。

社外取締役の急増の要因の1つとして、純増以外に会社の機関設計を監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ移行したことが挙げられる。

(参照:最近流行りの『監査等委員会設置会社』って何? - 溝口公認会計士事務所ブログ

監査役会設置会社では、社外監査役が半数以上(よく見られるのは2名以上)が必要となるが、社外監査役も社外役員であり、監査等委員会設置会社へ移行することによって、社外監査役社外取締役横滑りさせることで、実質的に社外取締役を増員することなく、社外取締役の人数を増加することができる。2016年には、こうした会社が相当数(350社超)に上った。

 

ともあれ、CGコードで要求される項目のうち、社外取締役の複数化への対応は、CGコードへの対応が形式的にも実質的にも進めていることを社内外へアピールしやすいということもあるだろう。

 

ところで、2人目の社外取締役ってどんな人が適任なのだろうか?

 

そもそも1人目がどんな人材かにもよるが、自身が社外取締役を務めていることから1人目は僕のような『士』業ないしは学者を前提として話を進める(笑)

とはいえ、例えば、社外監査役と言うと、期待役割的にも弁護士、公認会計士、税理士のような士業が目立つし、これらを横滑りさせて社外取締役にするとすると社外取締役に占める割合もやはり多いのではないかと思う。

それに、(社外)取締役は株主総会で選任されるため、何故この人なのか?株主に分かりやすく説明できる、ということもポイントだ。その点、士業は法務、経理財務、税務などの専門知識と経験を有し、これらの観点から会社の経営に対する意見を期待できる、という座りの良い説明が可能になる。

そして、大きな声では言えないが、実際のところ、会社の経営に対してあれこれ口出ししない(ことが多い)というのも見逃せない(笑)

⇒会社の意向もあって、僕は色々口出しさせてもらっています、念のため

 

とまあ、1人目の社外取締役が士業のようないわゆる専門家として、では2人目となると、『経営(者)や会社の事業に精通した人材が望ましい」という声が少なくない。

僕も、まあそうかな、と思っていた。

 

しかし、話を進めていくと、そう簡単にもいかないことが分かった。

例えば・・・

 

・供給の問題

要するに、適任者が少ない、ということだ。考えてみれば当たり前の話で、企業経営者であればまず自身の会社を経営しているし、有能であればあるほど通常は多忙であろうから、新たに他社の社外取締役を担うのが物理的に困難ということだ。また、会社の事業内容に精通した人材ということで、例えば他社で技術者として活躍した人材についても、先の経営者と同様に有能であればあるほど困難であろうし、また、競合他社へ移籍することへの不文律を持つ業界もあるだろう。なお、弁護士なども会社との利害関係の点からから社外取締役を引き受けることが難しくなっているとも聞く。社外取締役独立社外役員として、会社からの独立性が問われる。つまり社外の人間であっても顧問弁護士など会社との利害関係が相当に認められる場合は不適格となる。同じ理由で、グループ会社の役員を起用するのも規制が働く。このようにみると、そもそもそんな人材が世の中にどれほどいるのだろうか?上場会社がざっと3,500社として、2人/社とすると、ざっと7,000人…会社経験もあり(とは言えダメ経営者ではそれこそダメなので)、会社の事業にも精通していて、なおかつ、時間的にも融通も利く人材、考えただけでも相当少なそうだ。これが、1人が社外取締役を何社も兼務する背景にあったりもする(それに対して、会社が何社も社外役員を兼務するような人は選任しませんと自主規制をひいて更に選任を難しくしている状況…)

 

この点は、以前にも『怒れ、社内取締役!』として(タイトルは違うけど・・・)社内取締役にエールを送った記事を書いたのでそちらも参照してほしい。

東証新ルール 社外取締役複数化へ 【ボヤキ系記事】 - 溝口公認会計士事務所ブログ

 

・業績改善の実現可能性

CGコードの掛け声は『攻めのガバナンス』コーポレートガバナンスと言うと、エージェンシー問題の低下に資するというか、会社の経営者が出資者である株主の利益を無視した経営をしないように経営者を監視監督することによって会社に損害を与えないようにすることがまずもっての目的だ。

これを『守りのガバナンス』(というか本来のガバナンスだが…)とすると、攻めのガバナンスは、社外取締役にもっと直接的な業績改善への役割を期待する。経営に対してあれこれアドバイスして、場合によっては手も出して、会社の売上、利益、ROEなどの財務指標を改善する、という期待だ。とはいえ、上述のように有能で会社にとって社外取締役になってほしい人材こそ多忙だろうし、月1回の取締役会で意見を述べるのが関の山だろう。取締役会で、仮にどんな素晴らしい意見を言ってくれたとしても、それを実現するのは残された会社のリソースである、ここが問題だ。要するに社外取締役の意見を理解する力、実現のためのプランニング、実行するためのリソースなどが社内にあって初めて、社外取締役のアドバイスが具現化される、ということだ。

なんらかの要因で、そのような社内のリソースが抑圧されており、社外取締役の出現によりそういった圧力から解放されて潜在的な力がいかんなく発揮できるといった会社であれば別だが、そうでなければ、既に実現できているか、あるいはアドバイスだけもらっても現状は変わらない、ということになるのではないかと思う。

つまり、期待される業績改善という役割に即結び付けにくいのではないかと思うのである。

 

これに対して、専門家の社外取締役はどちらかと言うと、そもそもの期待が守りのガバナンスであることが多いし、会社の事業戦略そのものに対する意見よりも、社内の意見形成プロセスに対する意見が多いように思う。そのため、ある意味意見がプロセスの改善などのような成果に結びつきやすいこともある。

 

このように考えると、2人目の社外取締役の選任はなかなか難しい問題に思えるのだが、上場会社のほとんどが2名以上の選任がなされているとのこと。

どのような人選か、興味のあることろだ。

 

 

 

経営トップ選任プロセスの合理化こそコーポレートガバナンス強化の本丸!?

 

 最近の日経、コーポレートガバナンス・コード(CGコード)関連の記事(特集)が取り上げられている。

 

2016年12月の関連記事一例

統治指針「全て順守」58% 取締役会充実に重点 企業法務・弁護士調査 2016年 :日本経済新聞

 

悩める会社 取締役はいま(上) 生かせぬ「社外の目」 企業統治役割どこまで 現場と投資家に板挟み :日本経済新聞

 

自身が上場会社の社外役員であることもあり、スルーはできない内容。

過去にも、CGコード関連ではこんな☟記事を書いた。

東証新ルール 社外取締役複数化へ 【ボヤキ系記事】 - 溝口公認会計士事務所ブログ

 

コーポレートガバナンスコードの本当の意味とは? - 溝口公認会計士事務所ブログ

 

最近流行りの『監査等委員会設置会社』って何? - 溝口公認会計士事務所ブログ

 

 

『攻めのガバナンス』、現政権の肝いりで指導したCGコードだが、記事内容は、守りのガバナンスに寄った内容。もっとも、本来と言うか、ガバナンスと言えばまずはこっちになるだろう。

 

日経記事で紹介されている、「トップ人事にかかわる改革の遅れを指摘する弁護士が多い」に挙げられている項目を列挙すると、

 

・経営トップの選任プロセスの透明化

・相談役・顧問制度の見直しや廃止

・独立社外役員の選任

・取締役会の充実、取締役会評価の実施

 

CGコードに盛り込まれ、その導入状況や実質的な機能が注目されている事項だ。

 

これらは要は、

 

経営トップの暴走を防ぐ

 

ことを目的としていると言って良いだろう。

 

今更ながらだが、それだけ

営トップは会社の経営判断を左右する重要な存在

だということだ。

 

経営トップの代表格は、代表取締役だが、名目上は代表取締役を辞任しても相談役や顧問と言う立場で実権を振るう院政を含む。不透明な意思決定プロセスと言う点ではむしろこっちが問題かも。

外部から見れば、中興の祖であったとしても、現在は代表権など法的な立場の無い人が会社の実質的な意思決定権者って、考えたら空恐ろしいことだ。

 

暴走と言うのは、経営の失敗を招いた意思決定はモチロン、そこに至らずとも、重要な経営意思決定が、経営トップの勘と経験や思いつきで決められる状況も含まれるだろう。

また、取締役会といった会社の機関は形式だけで、実質的な意思決定はそれ以前の上皇を中心とする御前会議で決まるという意思決定プロセスの不透明さも問題視される。

 

CGコードの取締役会評価も要するに、

取締役会が本来あるべき形で運営されているかどうかを社外取締役を中心に社内(あるいは社外のサポートを受けて)で評価するプロセスだ。取締役会の構成人員、意思決定プロセスについてあるべき運営がなされているかを問うているに過ぎない。多くの会社がこういった評価に慣れておらず、どう評価したらよいかと戸惑ったということはあろうが、CGコードにおける取締役会評価 の導入が遅れている事実は、ある意味、あるべき形で運用されていないと言うことの裏返しかも知れない。

 

さて、

他の株主(オーナー系企業は経営トップ自身が大株主なので)から見て、

その経営判断は合理的なのか?

株主の利益に報いるものなのか?

また、

経営意思決定のプロセスはどうなのか?

 

単なる思いつきで意思決定するのももちろんダメだが、

過去の意思決定の失敗を認めたくない、露呈したくないために、

隠ぺい工作なんてこともあり得る。

 

株主、投資家にとって、自分が投じたおカネが不透明な不合理な経営判断によって使われるかもしれない、となれば

そんな会社におカネを預けることに躊躇するのも当然だろう。

 

となれば、会社の経営判断を大いに左右する存在である

経営トップをどう選任しているか?

が気になるのは当然だろう。

指名委員会等設置会社でなくても、任意で『指名委員会』、『報酬委員会』を設置することをCGコードが求めていることからも経営トップ指名プロセスの透明性や合理性が期待されている表れだろう。

 

ところで、取締役は本来、取締役相互の監視・監督責任がある。つまり、取締役は代表取締役を含む他の取締役を監視・監督する義務がある。

しかしながら、

絶対的権力を持つ経営トップに対する牽制だが、現実問題として社内取締役には期待できない…

 

 そこで、白羽の矢が立ったのが独立社外役員だ。

 

社内の取締役であれば言いにくいことでも、

しがらみのない独立社外役員であれば指摘してくれるだろう、あるいは、経営トップとして相応しい人物を選任してくれるだろう、

と言うことなのだが・・・

 

昭和ホールディングスの事例は、頼みの綱の独立社外役員が期待通りの役割を果たせなかった事実を紹介している。

 

昭和ホールディングスは、従来『指名委員会等設置会社』型の統治形態を採用していた。いわゆる欧米型で、形態としては花丸、二重丸、だ。

果たしてその実態は・・・

記事にもあるが、実質的な意思決定は独立社外役員を抜きで実施とか・・・

生かせぬ(活かせぬ?)『社外の目』

外部の株主、投資家の視点からはまさにそういうことなのだろうが、制度の運用を担う当の会社がこういう意識ではどんな素晴らしい制度も画餅に終わることになる。

意図的に情報を隠されたり、間違った情報を与えられると、ただでさえ社内事情や事業に精通していない社外取締役は機能しない。


昭和ホールディングスは、形式的には社外の目を多用するフリをして、その実、社外の目を活用させないように工作していた訳だ。


また、昭文社の例では、5%超を保有する株主から、任意で社外役員が主導する役員人事と報酬の委員会を立ち上げる、と言う助言に対して、

 

「(社外取締役が人事に大きな影響力を持った)セブン&アイ・ホールディングスのような騒動になるのは困る」

 

社外取締役が主導する役員人事と報酬の委員会を任意で立ち上げる助言に対する昭和HDのホンネが透けて見える

 

裏返せば、

まともなプロセスでは選任されないような人が社内事情により経営トップとなる可能性もあるが、そっとしておいて欲しい

 

外部からすれば、そっとしておけないのだが(笑)

 

CGコードが導入されてまだ2年目、独立社外役員の複数化などCGコードの適用の進行など外堀は徐々に埋まっているが、本丸は未だ遠い・・・

 

 

 

AIは会計監査の信頼性を高めるのか? 【久しぶりのボヤキ系】

 


最近やたらとAI関連の情報が目につくように思う。それだけ注目すべき最先端技術であり、また多くの領域に応用展開が可能という点も話題性に繋がるのだろう。

 

そして、会計監査の分野にもAIを活用しようという動きがある。

記事にもあるように、新日本を始め4大監査法人もAIをいかに会計監査に活用するか研究に取り組んでいる、とのこと。

 

とは言え、未だ研究中ということで、外部に発表されている内容からは、

”あ~、だからAIなのね!”、と膝を打つようなアイデアは聞こえてこない。

 

一見、既に会計監査で活用しているCAAT(Computer Assisted Audit Techniques、コンピュータ利用監査技法)と同様の使い方な印象だ。

企業規模の拡大、会社取引の複雑化に伴い監査対象となる取扱いデータも莫大になると、コンピュータシステムからアウトプットされた情報を

人力のみで監査するのは非効率的だし、また、

会計監査の品質にも影響

がある。人力で監査対象としなかったデータの中の不正を見逃すリスク

があるし、会社から提出されるデータが改ざんされるリスクもある。そこで、企業内に存在する様々な各種データを直接的に監査対象とする。もちろん、コンピュータシステムの信頼性を監査した上でだ。

例えば、売上の前倒し計上が行われやすい期末付近の一定期間の売上取引、利益率が不自然に高い/低い取引、回収期限到来済みの売上債権などを網羅的に抽出して監査対象とする。 

監査対象となるデータの網羅性を確保しつつ、取引を効率的に抽出するという訳だ。

 

では、

AIに移行して、何が飛躍的に改善するのだろうか?

最近の会計監査の失敗の事例を見るに、何らかの改善を講じる必要があることは分かる。

しかし、何故にAI、については現時点では疑問だ。

確かにAIの活用によりCAATよりも精度高く監査対象とすべき、不正の可能性が高い、取引を抽出しやすくなることや、プログラムを常時ランすること(継続監査、常時監査)で、監査対象とすべき取引を適時に発見することは期待できる。

 

会計監査の信頼性とは別に、AIの活用により会計監査人の数を減らせる(コストダウン効果)や、会計監査人に求められる資質も変わるなどとも言われる

コストダウン云々はトータルコストで考えるべきで、人件費だけでなくAIの開発、導入、運用コストを併せてどうなるかが問われるべきだし、時代と共にプロフェッショナルに求める資質やスキルが変わるのは会計監査に限った話でもない。当たり前の話だ。10年後に無くなる職業など言われることもあるが、

どんな職業も全員が等しく儲かる職業などないのであって、話題性はともかくその手の議論は不毛に感じる。

 

話を戻して、

問題は、怪しい取引を発見した『後』の対応ではないかと思う。

CAATにしろAIにしろ、会計不正のニオイのする取引を発見したとして、それで問題解決とはならない。

「AIが怪しい取引と言っています。さあ、白状しなさい」と言って、

「ははあ、お見それしました。申し訳ありません」

という反応はまず期待できない。だから、東芝のようなケースに至ったのではないか…

やる方は本気だ。実際、バレたら会社の一大事、いや個人としてもどうなるか…

あっさり非を認める訳がない。

東芝の会計監査についても過去ブログに書いたが、現在の監査手法でも怪しい取引は発見されていたと思う。要は、そこから詰めきれていないのが問題なのだ、諸般の事情により…

 

過去ブログはこちら👇

東芝の不適切な会計処理 監査法人の責任は? - 溝口公認会計士事務所ブログ

 

会計監査の信頼回復ということで、何かしないといけない、それも分かりやすい形で、と言うのは分かるのだが…

一周回って、結局は、会計監査人の監査スキル、それ以前に監査クライアントとの向き合い方に尽きるのではないかと思うのだ。

もちろんAIがその力をいかんなく発揮して、僕の心配が杞憂に終わってくれればそれはそれで良いけど。