『JXホールディングスの2017年3月期は、連結経常損益が約3000億円の黒字(前期は86億円の赤字)になりそうだ。従来予想(2300億円の黒字)を上回る。昨年12月以降の原油価格が想定より高く、在庫の評価損益が改善する。灯油やガソリンなど石油製品の市況が昨秋から改善しているのも追い風だ。
石油元売りは原油の備蓄を義務付けられている。原油価格の上昇は手持ち在庫の評価額を押し上げ、損益計算書には利益として計上される。』
何で原油価格の値上がりが利益になるのか?
と疑問を持つ人もいるだろう。
また、ちょっと会計に明るい人は、
取得原価主義では在庫の評価益を計上して良いのか?
と思うかもしれない。
いずれも、もっともな疑問だ。
これについては、業界特有のなんというかいわゆる表現(しかも、誤解を招きやすい)問題なのだ。ちなみにJXでは『在庫影響』と呼んでいる。
実はJXの件については、ほぼ毎年この時期には当ブログで書いている(笑)
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在庫評価益!? JXホールディングス - 溝口公認会計士事務所ブログ
なので、ここでは要約する形で紹介したい。
まず、ざっくりとした原油の仕入れ値の変化と会社の利益への影響は以下。
原油を販売する会社にとっては原油安→販売価格の下落→利益にマイナス影響
原油を使用する会社にとっては原油安→製造価額の下落→利益にプラス影響
実は、ここで言う在庫評価損益は期末に残った在庫をその時点の時価(販売価格等)に置き換える場合に発生する評価損益ではない。
ここがややこしい・・・
在庫の評価方法を理解するには良い題材なので少し書いてみたい。
例えば、期首に@100円の商品が100個 あり、当期中に@150円で1,000個仕入れ、800個販売し、期末に300個残ったとする。
期首 100個 @100円
仕入 1,000個 @150円
販売 800個 @ ?円
期末 300個 @ ?円
さて、このケースでは1個当たりの売上原価、そして期末在庫はいくらになるだろうか?
期末及び販売された在庫単価がいくらになるのか?これを計算する方法が在庫の評価方法であり、JXホールディングスは『総平均法(による原価法)』を用いている。
総平均法とは、期末在庫が期首の在庫と当期仕入た在庫が万遍なく混ざって存在している、ということであるので、単価@を計算すると以下になる。
期末在庫の単価
=(@100円*100個+@150円*1,000個)/1,100個=145.5円
小数点第2位を四捨五入
したがって、この場合は期末在庫そして販売された在庫も@145.5円となる。
ここで、145.5円は当期の仕入単価150円よりも4.5円安い。
これは、期首の在庫単価が100円(<当期仕入単価150円)の影響である。
当期の仕入値@150円のみで売上原価を計算する場合
売上原価:@150円*800個=120,000円
期首在庫を含めた総平均法で売上原価を計算する場合
売上原価:@145.5円*800個=116,364円
売上原価が3,636円小さくなる=利益が大きくなる
要は、相対的に安い期首在庫の影響を総平均単価が受けるので、期中の仕入値だけで評価するよりも相対的に売上原価が安く計算されることで、結果(売上総)利益が大きくなるということだ。
当期のJXホールディングスもこれに似た状況であり、この結果得られる追加的な利益を『在庫評価益』と呼んでいるのである。
なので、在庫評価損のようにP/L上で金額が別把握できるのではないので、念のため。